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「ボカゆく」主催と学ぶ、コンピレーションアルバムの企画・運営のいろは①

※追記(2024-02-01)
②実際の頒布に必要なことを調べる、の欄に「アルバムの発表形式」の項目を追加しました!


まえがき


みなさんこんにちは!駱駝法師です。
普段は「Camelots」という名前でボカロPをやりながら、ゆくえレコーズという同人音楽レーベルの代表としても活動しております。

ゆくえレコーズでは僕とボカロPユニットのキツネリとして活動するグミ山さんが共催となって、2023年からコンピレーションアルバムシリーズ「合成音声のゆくえ(以下「ボカゆく」)」を即売会やデジタル配信を通してリリースしており、これまでに

合成音声のゆくえ(以下「無印」)
合成音声のゆくえ2(以下「2」)
合成音声のゆくえAlter(以下「Alter」)

という3つのアルバムを制作・販売しました!

フィジカル版のCDは3作あわせてこれまでに約900枚(!)を売り上げ、キタニタツヤさんの2023年ベストアルバムTOP5として音楽雑誌に少しだけ取り上げていただいたり、サブスク配信代行サービス「BIG UP!」にピックアップしていただいたりと、ありがたいことに色々な方に聴いていただいております。

僕たち以外にもさまざまなボカロPやサークル・企業が主宰となってコンピレーションアルバムを作ってボカロ文化を盛り上げていますが、中には「自分も好きなボカロPを集めて、コンピアルバムを作ってみたい!」という方もいるのではないでしょうか。

しかし、そこで大きな壁となってくるのはそのタスクの多さ
アルバムのコンセプト作りはまだわかるけど、どうやって参加者を呼ぶのか、スケジュールやお金の管理はどうするか……など、明確なやり方が分からないまま手探りでやっているところも多く、その高いハードルを前にしり込みしてしまうことも多いです。

ですが、参加者全員で協力しながらアルバムというひとつの作品を作り上げていくというのはとても楽しいんです!
上がってきた進捗や完成作品にワクワクやドキドキを覚えたり、即売会などのゴールを乗り越える達成感を得たり、上手くいけばある程度の収益を得ることもできます。

また、コンピアルバムはその時々のボカロシーンの繋がりやムーブメントを記録するものでもあります。
今では超有名なボカロPたちがたった一枚のアルバムへ一同に参加していた……ということもあり得る世界。コンピアルバムをリリースするのは、実はすごく意義のある取り組みなんです。

今回はゆくえレコーズ発の連載企画として、ボカロPだけでなく絵師や動画師、はたまたDJやリスナーまで、あらゆる人々がコンピアルバムを企画するのに役立つハウツーを解説していきたいと思います!
まずはアルバム制作の基礎となる、企画を立ち上げてから参加者を呼ぶまでの過程を詳しく見ていきましょう。

※この記事は、友人のappyさんが執筆した「ボカロPが教える、ボカロPのライブイベント主催のやり方!」を大変参考にしています。マジでありがとう。
こちらもライブイベントの主催に役立つ情報が載っているので是非読んでみてください。

①アルバムの方向性を決める


コンピレーションアルバムにおいて最も大事になってくる要素がコンセプトや方向性の決定、つまり「どういうアルバムを作りたいか?」というところです。
具体例として、ボカゆくでは「既存のJ-POPや王道のボカロ曲の作風に囚われない、先鋭的なポップスを作るボカロPを集めたい」というコンセプトがあります。

他にも、夏山よつぎさん主催のコード進行統一コンピシリーズではタイトルそのまま「様々なボカロPが1つのコード進行(F,E,A,CやF,G,E,Aなど)に合わせて曲を作る」というコンセプト、サツキさんと音無あふさん主催のDoubt Me!?では、「北海道にゆかりのあるボカロPが初音ミクをメインボーカルに据えて『冬』や『雪』をテーマに曲を作る」というコンセプト……など、アルバムごとに特色や個性があるのです。
しっかりとした方向性を定めなくても、単純に自分と仲良くしている周りのボカロPを集めて一緒にアルバムを出す、といった軽いノリがきっかけでも全然大丈夫です!

明確なコンセプトがあることによってアルバムに参加してもらいたいボカロPを絞り込めたり、参加者それぞれの個性を取りまとめられて作品として一貫性を持てたり……など、あらゆる面でひとつの「基準」を作ることができます。
この基準があることでアルバムタイトル決めや、制作中に生まれた課題との向き合い方、リスナーへの説明・売り方がとてもわかりやすくなってくるので、これをまず最初にしっかり決めておきましょう!

ちなみにアルバムタイトルについてですが、合成音声のゆくえは元々「ボーカロイドのゆくえ」という名前でやるつもりでした。
しかしある時「これってヤマハの商標的にヤバいんじゃね?」と思い、念の為ヤマハに問い合わせて確認したらちゃんとアウトだったので、そういったところも気をつけましょう。マジで。

②実際の頒布に必要なことを調べる


コンセプトが決まったら、次は実際にアルバムを作るための諸々の必要事項をリサーチしておきましょう。
特に初めてアルバムを作る方は、これらを慎重に決定しなければなりません。

(1)アルバムの発表場所


一番最初にアルバムをどこで発表したいかを考えるところから始めてみましょう。

作品に触れてもらえる機会が多く収益がすぐわかるという点で一番効果的なのは、THE VOC@LOID M@STERCeVIO FeSTAM3などのような即売会(リアルイベント)でCDを売ることだと思います。
即売会でもし在庫が余った場合、あるいはそもそもリアルイベントへの参加が厳しい場合は、BOOTHなどを通した通販を利用するなども手段のひとつです。即売会参加よりハードルが低いのも利点。

少し手続きが複雑になりますが、より多くの人に気軽に聴いてもらうためにTuneCoreBIG UP!などのサブスク配信代行サービスを用いてSpotifyApple Musicにデジタル配信……ということも出来たりします。

(2)アルバムの発表形式

発表場所が固まったら、次はどういう形でアルバムを発表するかを考えます。

たとえばデジタル配信と一口に言ってもBandcampSoundCloudBOOTHなどを通した「買い切り型」か(ちなみにサイトによっては投げ銭形式にすることも可能です!)、SpotifyやApple Musicなどで配信する「サブスク型」の二種類があります。
ボカロオタクはわりと作品に対価としてお金を払ってくれる人が多いのと手続きが楽なので、買い切り形式で先にアルバムを販売して余裕があればサブスクも……といったやり方が通例だと思います。

ですが、サブスクでしか曲が聴かれない・配信されない今のJ-POPと違ってボカロシーンは他に類を見ないフィジカル中心市場。アナログな形で作品を手に入れたいというリスナーの気持ちも根強く、また手数料を取られずに売値が直接利益になるというメリットもあり、まずCDなどのフィジカルでの販売は視野に入ると思います。
といっても、CDをパッケージする方法も非常にさまざまです。安価にできる5mmケースにするか、しっかりとしたCD感が出る10mmケースにするか……。もちろん、ブックレット(歌詞カード)を入れるか否かも考えます。あるいは紙ジャケデジパックなどの特殊なパッケージを選ぶのもいいと思います。CDはコストがかかるので、最近は音源が入手できるダウンロードコードやQRを印刷したダウンロードカードステッカーというのも増えてきています。

ここでひとつ注意なのですが、5mmケースや10mmケースのようなプラスチックケースは、発送時・運搬時にヒビが入るケースが非常に多いです!そうなると一気に見栄えの悪い不良品扱いとなってしまい、買ってくれたお客さんにも迷惑が掛かります。ボカゆく2とAlterは2つ合わせて800枚と大量に刷った分、ケースがひび割れた例がかなり多く無償で新しいケースに交換といったことも行いました。
もしもの時のために、amazonで予備のCDケースをいくつか購入してストックしておくことをおすすめします。

(3)スケジュール

さて、次はスケジュールを決めます。これも非常に重要な要素です。

まずはアルバムを発表するタイミングをしっかり定めましょう。即売会で売る場合はイベントの開催日に合わせて準備をすればいいのですが、通販やサブスク配信限定のアルバムは365日いつでも公開できるので、ここぞ!という時を見計らう必要があります。

次にそこから逆算して、アルバムの制作期間を考えます。ボカゆく2とAlterは11月19日の秋ボーマスでの頒布に合わせて4月半ばから参加者を呼び集めていたので、ゼロから始めて終わらせるまで大体7-8ヶ月ほど見繕います。
もし大手のボカロPを呼びたい場合は更に前からスケジュールを確保しておく必要があるため、丸1年をめどにしましょう。

参加者の楽曲提出締切は少なくともリリースから3ヶ月半~4ヶ月前には設定するようにしましょう。この後マスタリングCDの発注、パッケージにこだわる作品であれば歌詞カードの制作など大変な作業がたくさんあるので、これでも割とちょうどいいくらいです。
あと、これだけ余裕を持たせる何よりの理由が「ボカロPは締め切りを守れない人が割といる」ということです。これはクリエイターの性(さが)なので仕方ないと割り切りましょう。

同じくらいの時期にジャケット写真が出来上がっていれば御の字ですね。

(4)予算

アルバム制作においての最大の悩みの種です。

参加者の皆さんへの依頼費については、即売会や通販などで頒布したあとの収益から等分……といった形が通例であり一番丸いと思います。個人的には、最初に固定のギャラを払って参加してもらう、というのはかなり特殊な例だなという印象です。
それはともかく、一番きついのはアルバムを作るための初期費用を自分で捻出しなければならないんですよね。

まず第一の壁としてジャケット写真の制作費マスタリングの依頼費。これらは技術があれば自分自身や参加者たちの力でなんとか完成させることができますが、もし周りにできそうな人がいなかったりお金をかけてでもアルバムのクオリティを高めたい場合は、外注も考えていいでしょう。
ジャケット写真に関してはお願いする方によってピンからキリまであるので一概には言えませんが、マスタリングに関しては想像以上に時間がかかる繊細な作業となるため、まずは1曲5000円として計算してもらえればと思います。

そして第二の壁であるCDコピー・CDプレス代各種印刷代。デジタルオンリーでの配信であればスルーすることができますが、CDなどのフィジカルとしてアルバムを作るとなると避けては通れない道です。
以前某社に見積を依頼した時は、本当に必要最低限の仕様でCD100枚をコピーで刷ってもらうのに3万4000円くらいしました。ドッヒャ~~!!

最近は日本全体で物価も上がっていき、発注費用も少しずつ高くなっています。10年ほど前のボーマスではアルバムが1枚1000円で売られていましたが、今は最低でも1枚2000円はとらないと初期費用は回収できないでしょう。

※ここに書かれている具体的な金額は、すべて2024年1月時点でのものです!もしかしたら今後変動があるかもしれないので、ご注意ください。

(5)発注先

最後に、上述したジャケット写真制作やマスタリング、CDの印刷をしてもらう人や企業を選びましょう。

ジャケット写真は言わずもがな、アルバムのいわば「」となる重要なものです。一目見ただけでそのアルバムのコンセプトがどんなものかが分かるように、外注でも自前での制作でも妥協することなくベストを尽くしましょう。

マスタリングは音だけで良し悪しの判別をつけるのは非常に難しいので、実際に単曲やアルバムを手掛けた実績の多い人を選ぶほうがとっつきやすいと思います。ココナラで探したり、ボカロ曲の概要欄でよく名前を見かける人に連絡してみたりとかでしょうか。
ボカロ界隈でいうと、かごめPさん、有栖川繭歌さん、とーずさんあたりがマスタリングエンジニアとしてメジャーどころかなという印象です。

最後にCDの印刷です。まず前提知識として、CDの制作にはコピープレスという2種類があります。
個人的な感覚の話なので実際のものと違っていたら申し訳ないんですが、前者は品質が普通な代わりに50枚といった小ロットで刷ることもでき、短納期低コストで頼むことができます。逆に後者は品質は高いですがその分値段と時間がかかるため、まずはCDコピーから手を出してみましょう。

CDを制作してくれる業者はググってみると星の数ほどいるので最初は探すのが大変ですが、一度「ここ!」と決めるとこれからまたアルバムを作る時にリピートできるので、見積もりを出して比較検討してみましょう。
CDコピーだけ業者Aで、ジャケットとケースは業者Bで頼み、あとで自分で封入するといったやり方でもオッケーです!

③参加してくれる人を呼ぶ


最初の鬼門、アルバム参加者のブッキングです。

ボカロPであれば同じくボカロPである自分のフォロワーや、フォロワーのフォロワーといった伝手を使って比較的気軽に人を呼ぶことができますが、たとえばリスナーが主宰するとなってくると全員が雲の上の人のような感覚になるので、いざ向き合うとめちゃくちゃ怖いですよね……。

だけど大丈夫、ボカロPも自分と同じ人間です。TwitterのDMやメールでの連絡を通して、アルバムのコンセプトとあなたに曲を作っていただきたい!というありったけの熱意を丁寧な文章で送ればその想いは必ず伝わります。
スケジュールの都合や所属している事務所・レーベルの都合により運悪く参加を断念、ということもありえますが、あなたを嫌いになったわけではありません。落ち込まなくても大丈夫です。

大手のボカロPほど日々忙しいので返信が遅くなってしまうこともあります。もし連絡が返ってこない場合は目安として1~2週間ほど待ち、それでも来ない場合は断念しましょう。(それ以降に返信が来る可能性も無きにしもあらずなので、万が一来た場合は適宜対応しましょう!)

具体例として、初めてコンタクトを取るボカロP相手にもし「ボカロ×ブラックミュージックコンピ」の参加依頼を僕個人から送るなら……といった体でメールを書いてみました。

件名:コンピレーションアルバムのお誘いにつきまして

○○様

お世話になります。ボカロPとして活動しております、駱駝法師と申します。
この度は表題の件につきまして、ご連絡差し上げました。

私は現在「GROOVELOID!」というタイトルのコンピレーションアルバムを企画しており、音楽性が多様化するボカロシーンではまだ数少ないR&Bやファンクなどのブラックミュージックと、現代のボーカロイド・ポップスの良さを掛け合わせた音楽を制作されているボカロPの皆様を招き、ひとつのアルバム作品としてまとめることでボカロ音楽の新たな可能性を開拓したい、というコンセプトを掲げてアルバムの制作を考えています。

元々私はリスナーとして○○様の楽曲を以前から拝聴していたのですが、ネオソウルにも通じるグルーヴィーな音楽からUKガラージのようなダンスミュージックまで、さまざまなルーツを伺わせながらも多くの人が楽しめるエンタメ作品として昇華された楽曲群に惹かれ、○○様のブラックミュージックへの解釈を是非このアルバムで深堀りしてみたいと思い、当企画にお誘いさせていただいた次第です。

スケジュールとしては、今年11月頃に開催される秋のボーマスにて頒布を予定しており、楽曲提出の締め切りは【8月末】とさせていただきたいと考えています。
また、収益はアルバム参加者の皆様で等分してお支払いする予定です。

もしご都合がよろしければ、ご参加のご検討、何卒よろしくお願い申し上げます。
何かご不明な点がございましたら、お気軽にご返信いただけますと幸いです。

以上、引き続きよろしくお願いいたします。

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駱駝法師
Mail : ××@××.com
X(Twitter) : @MonkOnTheCamel
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このように、誠意がこもっている(と受け取りやすい)文章を書くことを心がけましょう。
ビジネス用語は覚えるのが非常に面倒くさいんですが、個人相手の連絡でも「丁寧さ」の演出において非常に役立つので、ここはどう表現したらいいんだろう?と思った場合は逐一ググってみてください。

あとがき


いかがだったでしょうか?

今までこういったアルバム制作に関わる事柄を記録したネット記事がボカロ界隈になかったため、初めての試みに至らない点もあったかと思いますが、もし気になる点などがあったら気軽にコメント欄にお書きください!
今回は企画段階のお話をしましたが、次回は実際にアルバムを作って頒布していくまでの過程を詳しく解説していきたいと思いますので、また読んでいただけると嬉しいです。

それでは!

ゆくえレコーズ代表・企画制作担当
駱駝法師
レーベルX(Twitter) : @YUKUE_RECORDS
個人X(Twitter) : @MonkOnTheCamel

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