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小児科医が癒されるもの

こんばんは。絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者で、小児科医のしょーたです。

今日は、「小児科医が癒されるもの」というテーマでお話ししたいと思います。

あなたは、何か癒されるって感じるものはありますか?ペットとか、子どもとか、音楽とか、いろいろありますよね。僕にも、紅茶とか、音楽とか、色々な癒されるものがあります。

そんな僕は小児科医として働き続けているわけですけど、小児科医として働き続けられる明確な理由があります。医療現場では病気や障害に向き合う場所なので、不安やストレスで溢れているわけです。そんな医療現場であっても癒されるものがあるから、ストレスフルな状況に日々立ち向かっていけるんだろうなと思っています。それは、何だと思いますか?何に癒されていると思いますか?

それは、子どもたちの屈託のない笑顔です。

心は鏡のよう、この言葉を僕はよく口にしています。自分が接している相手が楽しい気持ちでいれば、その人と接している自分も楽しい気持ちになる。そういうものです。子どもの心を理解しながら、親子のカウンセリングを行なっていると、そのことを痛感します。

それは、自分も同様です。目の前の患者さんが暗い表情をしていると、こちらにも暗い気持ちがうつりかねない。だから、患者さんの心が自分にうつらないように僕は意識をするんですね。カウンセリングをするということは、うつりかねない暗い気持ちに立ち向かう場合も少なくありません。そのまま意識もせずに立ち向かってしまっては、気づかぬうちに自分も暗い気持ちになってしまいます。しまいには仕事を続けられない状態になりかねません。時々若いカウンセラーさんや研修医が陥りがちな罠です。

それは感染症と似ていますね。医療者が無防備な状態で感染症を持っている患者さんを診察してしまうと、医療者に感染症がうつります。一方でしっかり感染防護の準備をするから、感染者を診察しても医療者が感染しないで済むのです。

相手の心が自分にうつらないように意識してカウンセリングをするから、こちらは患者さんの心の状態がどうであれ、常に平常心でいられます。そういうものです。

でも、患者さんが笑顔であれば、僕も構える意識が若干和らぎます。患者さんが笑顔であれば、僕も笑顔になりたいと思っているからです。あえて緊張をゆるめて、笑顔に笑顔で接する。それが、癒される瞬間です。

よくあるシチュエーションとしては、病気の治療を行い子どもの体調が回復して、その子が病院にやってきてくれた時です。最初に受診した時には辛い表情をしていた子どもが、病気が治って笑顔になります。本来のその子らしさが戻って、笑顔で外来に来てくれます。そんな時には、こちらも嬉しくなるわけです。

おそらく、医療者が病気に立ち向かっていられる理由は、そういうことなんだろうと思います。治療にあたる過程で誰かの笑顔を見れたり、誰かの役に立てた自分の存在意義を感じられるからこそ、医療者はその仕事を続けられるんだろうと思うんですね。

相手が患者さんでなかったとしても、医療者同士がお互いに頼り合う。そんな光景が医療現場にはあります。自分一人の力じゃなくて、他の医療者の力も借りてようやく一人の患者さんを救える。そんなことが少なくありません。医療者はそうやってつながりながら、苦労を乗り越えているんだと思います。

ちょっと脱線しましたが、笑顔の子どもを見て癒される、とお話ししました。でも、そこには実は面白いカラクリがあります。相手の嬉しい感情にあまりに流されすぎてしまうと、その影響を受けて、その後こちらが正しい判断をしにくくなる、そんな心のカラクリがあります。

例えば、楽しいことが続いた後には失敗もある、そんなことを経験したことはありませんか?心理的なカラクリを理解していると、こんな風に理解できるものです。

人は感情の乱れによって、正しい判断を行えなくなるものです。いつもはミスなくできることでも、感情が乱れているとミスをおかしてしまう。そういうものです。感情が乱れるというのは、怒りや悲しみの感情だけではありません。喜びの感情もそうです。感情に変化がある時には、正しい判断が行えない可能性もある。そういうカラクリがあります。

医療現場で嬉しい感情を抱いた時、僕は癒されます。でも、心のカラクリを知っていますから、自分の心をすうっと平常心に戻そうとします。次の患者さんの治療判断に影響を及ぼさないように配慮する、ということです。

そのことを理解すると、さらに、子どもの行動が見えてきます。子どもの時期には感情表現が豊かです。喜んだり、泣いたり、1日に何度も何度もその繰り返しを経験するものです。感情の起伏があるからこそ、正しい判断を行えず失敗することがある。子どもたちは感情が揺れ動きやすいからこそ、失敗はつきものなんです。それが普通なんです。

時々、親御さんがお子さんを喜ばせて、その後に子どもが何かしでかしてしまったら、親が子どもを叱る。そんなシチュエーションに遭遇することがあります。

親御さんは「何やってんの!」なんて、子どもを叱るわけですね。でも、側から見ている僕は、その親御さんに「何してんの!」と思うんです。

人って感情が乱れたら、普段通りのこともできにくくなる。人間ってそういうものなんです。子どもの感情を乱したのは、親御さんです。つまり、子どものミスを導いたのは、親御さんのその関わりなわけです。なので、親御さんに「自分が子どもの行動を導いておいて、なんで子どものせいにしているの!」と思うわけです。心のカラクリを理解していれば、「あちゃー、自分がやってしまったな」と思うはずです。

今日は「小児科医が癒されるもの」というテーマでお話ししました。

だいじょうぶ、
まあ、なんとかなりますよ。

湯浅正太
小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医。一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて:https://yukurite.jp/)代表理事。イーズファミリークリニック本八幡 院長。作家。著書に『みんなとおなじくできないよ』(日本図書センター)、『ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ』(メジカルビュー社)がある。

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