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小児科医が解説する自己愛性パーソナリティ障害

こんばんは。絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者で、小児科医のしょーたです。

今日は「小児科医が解説する自己愛性パーソナリティ障害」というテーマで短くお話ししたいと思います。

あなたは、自己愛性パーソナリティ障害(NPD:Narcissistic Personality Disorder)って聞いたことがありますか?この自己愛性パーソナリティ障害は、アメリカ精神医学会の診断基準であるDSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)に記載されているパーソナリティ障害の一つです。

自己愛性パーソナリティ障害を持つ人には、いくつかの特徴があります。DSM-5に書かれている内容をそのままお話しするとわかりにくいので、内容を要約してお伝えすると次のようになります。

例えば、自分は特別な人間なんだという過度な思い込みがあります。自分は他人からの賞賛されるべきなんだ、と褒められることを強く求める特徴があるんですね。ここだけを聞いても、とても面倒臭い人とわかりますよね。しかもさらに面倒くさいことに、他人の気持ちを理解できません。人の気持ちを考えずに、自己中心的で自分の意見が絶対なので、とても横柄です。

しかも、集団で生活する時には、他人に対して嫉妬する傾向もあります。あるいは、デキる自分のことを周りの人は嫉妬しているに違いないと勘違いします。そんな調子なので、他人を見下して他人のことを悪く言います。自己愛性パーソナリティ障害の人の周りでは、「あの人、また人の悪口言ってる」、そんなコメントを聞くものです。

そこで考えてもらいたいことがあります。このような人が親だったらどうなると思いますか?今お話ししたような特徴が強い親だと、子育てにおいても影響が出る可能性が大いにあります。いや、必ず影響が出ます。例えば、自己愛性パーソナリティ障害のある親の子育てでは、どんな問題点があるんでしょう?

例えば、子どものニーズを無視することがあります。 親が自分のニーズだけを優先して、子どもの感情や要求を無視することがあるのです。そして、親の過度な期待を一方的に子どもにかけることもあるものです。自分の価値観や成功の基準を子どもに押し付けるということです。

ここまで聞いても、「そういった親のもとで育つ子どもは、とっても苦労するんだろうなあ」なんて思いますよね。そうなんです、子どもはとっても苦労するんです。もちろんそのパートナーも苦労するんですが、パートナーは大人ですから、自己愛性パーソナリティ障害のある相手の行動がおかしいことに薄々気づくことができます。でも、子どもは違うのです。子どもはそのおかしな行動を受け入れようとしてしまいます。そこが、子どものかわいそうなところなのです。

ほかにも、感情的に子どもを支配しようとすることがあります。自己愛性パーソナリティ障害の親は、自分の感情をコントロールできません。自分の都合に合わないことで怒りを感じて、その怒りの感情に任せて子どもを怒鳴ってしまうこともあるものです。

小児科医として外来に出ていると、「この人は自己愛性パーソナリティ障害があるんだな」と感じる親御さんがいます。自己愛性パーソナリティ障害の親御さんは、ご自身では自分の特徴に気づかないものです。「自分が基準」というところがあるため、他者からの指摘を理解しようとはしません。

そんな自己愛性パーソナリティ障害の特徴への理解は持ちながらも、少しずつその特徴に気づいてもらうために、自己愛性パーソナリティ障害の親御さんに自己愛性パーソナリティ障害のケースを説明することがあります。「あなたが変わってください」というよりも、「私にもそんな特徴があるかもしれない」と気づいてもらう。そういう関わりを持つことがあります。でも、そもそも自分に問題があると思っていないので、外来にすら姿を現さなくなることも珍しくありません。困ったものです。

この放送の趣旨は、自己愛性パーソナリティ障害の人に自分のことを気づいてもらいたいということではありません。そうではなくて、そういった人と暮らしている人に、「うちの旦那がそうだ」「うちの親がそうだ」、そんな風に知ってもらいたいと思いながらお話ししています。そうやって理解することで、むやみやたらに傷つけられることを防ぐ。それがこの放送の趣旨です。

今日は「小児科医が解説する自己愛性パーソナリティ障害」というテーマでお話ししました。

だいじょうぶ。
まあ、なんとかなりますよ。

湯浅正太
小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医。一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて:https://yukurite.jp/)代表理事。イーズファミリークリニック本八幡 院長。作家。著書に『みんなとおなじくできないよ』(日本図書センター)、『ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ』(メジカルビュー社)がある。

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