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数字に惑わされない子育て

こんばんは。絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者で、小児科医のしょーたです。

今日は、「数字に惑わされない子育て」というテーマでお話ししたいと思います。

あなたは、数字って得意ですか?数字っていうと、算数とか、数学とかによく出てきましたよね。社会に出て小児科医として子どもの診療にあたっていても、しょっちゅう数字と睨めっこです。

例えば、知能検査です。知能検査では、IQと言って、物事を覚えたり考える能力を数字として表す知能指数がわかります。IQがどれくらいだから、知的能力が高いとか、低いとか、そんな言葉をよく耳にします。

学校でも、数字はいっぱい出てきました よね。

例えば、偏差値です。どれくらいの偏差値だから勉強ができる人なんだとか、学生時代にはそんな会話を聞いたことがありました。あるいは、通知表の数字です。数字じゃなくてアルファベットで表記することもあるかもしれませんが、いずれにせよ何らかの形で子どもの成績を表しますよね。

そんな風に、子どもに関わる中では色々な数字に遭遇します。子どもたちの能力を目で見える形にして捉えたい。そんな大人たちの欲がよくわかります。そして、そんな大人の欲を商売に利用するマーケットも存在しますよね。受験に絡めたマーケットがいい例だと思います。

でも、小児科医として子どもの発達に関わる中で感じるのは、数字で表せない子どもたちの価値がある、ということです。その子の良さをトータルで表すものはありません。IQがいくら高くても、偏差値がいくら高くても、人の気持ちを理解できない子どもはいます。IQや偏差値が低くても、人への接し方に温かみのある子どもはいます。

子どもがどんな様子に育つというのは、その子に原因があるわけではないですね。その子ではなく、やはり大人の影響です。偏った大人の価値観の影響を受けて、数字だけを追いかける子どもが育つ。数字があたかもその人の全てを表すかのように勘違いしてしまう。

そんな風に、周りの大人によって、偏った価値観を刷り込まれた子どもが育っていく状況とそこに生まれる問題に、小児科医として向き合っています。そこには、子どもの不登校という問題もあれば、子どもの犯罪という問題も生まれてくるわけです。元を辿れば親の教育が原因であるにも関わらず、親は知らん顔。そんな家庭も本当にあるものです。

小児科医として、医師として、子どもの一生を見渡せるようになると、子どもたちが偏った価値観の中で育ってしまうことほど勿体無いことはないと感じています。子どもの頃の経験は、その子の一生を支えます。もう二度と戻らない子どもの時期に、どんな教育を提供してあげるか。その貴重な時期を、やはり無駄にはしてもらいたくないと思うのです。

そのいい例が、会話をベースにしない英語教育です。僕も中学、高校と英語を学びました。教科書や英単語帳と睨めっこしながら、英語のテストでいい点数を取れば、英語圏の人たちとうまく会話できるようになると信じていました。大人から提供される教育を信じていたからです。

その後、大学生になってから、アメリカやカナダ、オーストラリアに留学に行きました。そこで感じたことは、「これまで自分が受けてきた日本の中学・高校の英語教育は、全然なっていない!」ということです。留学先で受けた英語教育は、対人での英会話練習です。そりゃそうですよね、言葉はコミュニケーションのためにあります。会話を通して、その言葉の使い方が洗練されていくものです。

そして、日本以外の海外では、どんな英語教育がなされているのか、そんなことも知るようになります。そうやって、日本での英語教育の遅れを実感したものです。日本で植え付けられていた価値観を改める機会になったのが留学でした。

そんなことを経験しているからこそ、今の子どもたちには正しい英語教育を提供してもらいたいと思います。国民の税金を使って教育を提供するならば、偏った教育方法ではなく、正当な教育方法で子どもたちに向き合ってもらいたいと思います。

子どもの発達への理解も同様です。どこか偏った価値観や理解の中での子育ては、いつかボロが出ます。子どもの発達を促す上で、数字に捉われない、全人的な視点での関わりが必要です。人という生の生き物を、人工的な数字だけで表現することはやはり難しいのです。IQにはやはり限界があって、そこにその子らしさはほとんど見えてきません。

そんな風に子どもたちの発達を理解するためには、僕たち大人は数字に強くなる必要があると思います。数字に強くなるとは、その数字の限界を知るということでもあります。子どもの全てを魔法のように明らかにするものはない。数字に惑わされずに、その子に関わりながらその子を知ろうとする姿勢がなければ、やはりその子のことはわからない。

そういう理解が大切と感じています。当たり前のことですが、そのことが当たり前でない社会が実際にあるからこそ、小児科医として警笛を鳴らしたいと思っています。

今日は「数字に惑わされない子育て」というテーマでお話ししました。

だいじょうぶ、
まあ、なんとかなりますよ。

湯浅正太
小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医。一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて:https://yukurite.jp/)代表理事。イーズファミリークリニック本八幡 院長。作家。著書に『みんなとおなじくできないよ』(日本図書センター)、『ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ』(メジカルビュー社)がある。

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