見出し画像

コミュニケーションがほとんど取れなかった新卒SE君が 気付いたら明るい人になっていた話

️📝はじめに

 弊社に今年度 新卒入社したシステムエンジニアのR君は、目を合わせての挨拶や食堂でのスムーズな注文、そして業務上の報連相が必要なタイミングで出来ない、いわゆるコミュ障※でした。
 それがいつの間にか明るく社交的な人になっていたので、この1年間で何があったのかを尋ねてみたところ、コミュニケーションを試行錯誤して力をつけてきた経緯を丁寧に教えてくれたので、了解をとってnoteにまとめてみます。

※…人見知りやあがり症、無関心、客観性の欠落などによりコミュニケーションに支障が出やすい人


🌱観察メモと分析

 私は営業職で、弊サービスの細かいシステム説明やメンテナンスのためにエンジニアさんに客先に同行してもらうことも多いのですが、彼の属するIT部門の上長が、シャイで損しがちな様子を見兼ねて
「コミュ力を伸ばそう、あの営業さん見てたらヒントあるから」
というような助言をしたらしいのです。
 それで私と組んで一緒に行動する中で、同僚や上司、取引先、店員さん、そして自分と接する時の姿をよく観察して参考にしていたそうです。

 自分のことなので気恥ずかしいのですが、ここに彼の観察メモを引用します。

《全員に対して》

・喜怒哀楽が分かりやすい表情、声のトーン
 →幼稚じゃない わざとらしくない ←加減むっず

・相手の方に姿勢が傾いてておそらくそれで関心が伝わる

・相槌の種類が多くてちゃんと話を聞いてんのが分かる

・相手の話を受けて、自分の考えを述べて、また相手に返す ←キャッチボール!

・疑問に思った時、意見が違う時、ハッキリ言うのに怖くない   何故?

《自分に対して》

・返事がいつも肯定から入る 話しかけるの緊張しない

・よく話しかけてくれるからすぐ慣れた 安心できた

・お菓子くれる(おそらく僕のテンションが低い時に気付いてくれてる)

 以上です。彼はまず《全員に対して》のスタンスを分析して、逆説的に
「人とコミュニケーションを取るときに、無表情・薄い応答・自己主張しない は良くない」
と考えたそうです。

 その通りで、相手から見た時に、言葉がきちんと届いていると分かるリアクションをしていると、コミュニケーションは円滑に進みます。
 聞いているのか分からない不明瞭なリアクションだったり、辛い話なのにヘラヘラ聞くような不適切なリアクションだったり、または自分の意見を一切言わなかったりすると、会話のラリーは悲しい結果に終わります。相手の話に乗った感情を読み取ろうとする姿勢は、打てば響くような反応を身に付けるのにとても大切だと思います。

 また、《自分に対して》の私を評して彼は、
「思えば三國さんは、配属当初からクソどうでもいい雑談よく振ってくれて、距離ちけぇなって思ったけどおかげでこっちからも絡んでいきやすいし」
「基本いつも肯定的なのと、気にかけてくれてるって分かるのが嬉しいです」
などと言っていました。
 そこもまた分析をして、単純接触効果で確実に親しみは増すこと、相手を優しく見ていることが伝わると安心感を与えられることを導き出していました。
 

🌷実践:自然体のアップデート

 そして彼は、まずは感情をそのまま表に出す練習をしてみたと言います。
 鏡を見て、動画を撮って、自分では笑顔のつもりが、声のトーンを上げたはずが、ほとんどデフォルトから変わっていないと知った時には愕然としたそうです。
 これでは「無関心」という印象を与えてしまう、まずは自然体を刷新しなくては、と考え、人と話す時は普段の自分よりも表情や声のトーンを意識して少し"盛ってみた"そうです。
 自身の声質は通りにくく聞き取られ辛いという自覚もあったそうで、発声も気持ち強めにしてみた、と。

 また、話す時の体の角度や姿勢、相槌などで相手や話題への関心を示すようにしたと言います。すると、明らかに会話が上手くいったらしいのです。

 学生時代までのR君はコミュニケーションに自信がなく、さりとて上手いやり方も分からず、教われず、ずっと他人や会話というもの全体に苦手意識を抱いていたそうです。
 他人が自分にあまり優しくないのは自分がダサいからだと思い込んでいたけれど、実は自分の方が「そのつもりは無くても、周囲に絡みにくさを感じさせていたからだった」と思い至ったと、なぜか楽しそうに話してくれました。

彼曰く
「三國さんが話しやすいの、安心だからなんですよ。感情全部出るし、独り言多くて、何考えてるか分かるからw
 僕は"何考えてるか分からない"って何度となく言われてきた人生でした。そのせいだったんですね、コミュニケーションが上手くいかなくて、結局下手なまま苦手になってしまった」

また、
「友達以外と話すの正直だるかったんですけど、三國さんと話すのはラクで、怖くないし疲れないです。
 毎日そういう"平気な会話"が積み重なってたんで、他の人との会話全般もなんかだんだん平気になりました」
とも話してくれました。リラックスして声を出す習慣や、自分の話を"普通に"聞いてくれる人って大事です。

 このように、気付いたことを採り入れた工夫と、"大丈夫"、"うまくいった"という実感とが土台になって、会話自体への苦手意識が少しずつ薄れていったそうです。良かった良かった。

🌸課題:スタンスの決定

 苦手意識が薄れると、課題が見えてきます。R君の目標は「絡みやすい人間になる」になりました。
 かつて彼は私に、「相手に対して関心があることを示して親しみを覚えてもらいたいけれど、わざとらしくなると逆効果だ。わざとらしくなるのは何故か?」といった疑問を投げてくれていました。その時2人で考えてみたところ、
・媚びやお世辞、大げさな表現
・パターン化したものをなぞるだけの相槌(さしすせそやオウム返し、適当な質問など)
などの不自然な言動がその要因ではないかという話になり、彼のメモには「思ってもいないことを言わないのが大事」との文言が追記されました。

 それからこれも重要な気付きだったらしいのですが、同じ態度でいても、温かく丁寧に対応してくれる人と、舐めたような塩対応をしてくる人がいると分かり、それは自分の態度のおかげやせいではなく相手の個性なのだと捉えることにしたそうです。
 だとしても、塩対応をされるのは誰だって嫌な気持ちになる。ならば自分は一貫して、誰にでも"良く"いよう、自分の個性は前者のような「いい人」の方にしようと決めたそうです。

 絡みやすい人とは、自然体でありつつ、接した人に感じの良い印象を与える人。それが彼の目指す具体的なスタンスとなりました。

🌻試行:向いている応対を探る

 そしてR君は、自分から目を合わせて挨拶をする、分かりやすい表情を意識する、話や感情に応じて声のトーンを上げ下げする、返事は早く、言われたことを繰り返してちゃんと覚える、こまめに報連相をする、などを気を付けたそうです。

 この時に心がけるのは
・自分にとって必要で、相手にとっても必要なことをサボらない
ということらしいです。食堂の人に話しかけるのも、仕事中の先輩に話しかけるのも緊張するそうですが、
「僕には伝えたいことがあり、それは相手にとってなるべく早く知りたい、意義のある情報だ」
という理屈を後ろ盾にして、緊張をほぐすのだそうです。
 また、挨拶や分かりやすい表現も「ここをサボると後で負担が増す、必要だからそうする」と念頭に置きつつしていました。

 そして毎日、同僚や取引先相手に色んなパターンの応対を試していたと言います。気付かなかった。
 出力してみて、自分の感じ方や相手の反応をフィードバックとして受け取って、次のアクションの参考にした、と。めっちゃエンジニア。
 再び彼のメモを引用すると、

・陽キャっぽく元気に喋る→気に入られるけど、自分の素とかけ離れていて疲れる、ボツ

・結論から言う、断言する、Noを言う→自分は快適。信頼は得られるが親しみやすさはゼロ。怖がられそうだからバキバキにやらず程々にする

・相手を褒めたり持ち上げたりする→これは最悪。わざとらしくて信頼性ゼロな上、これを欲しがるような変な人を寄せ付ける

・相手を立てて自分を抑える→しんどい。寂しい。嘘はついてないけど心は開いていない状態。今までこれだった。もう辞める

 といった風です。やはり自分らしくない言動や極端な振る舞いは、快適でない結果を生むようです。こうしてR君は個性そのままに「無理なくやれる最適なコミュニケーション」を身に付けつつあるそうです。

🌼失敗は避ける!

「とにかく失敗は怖えので、しくじると心折れるんで、絶対失敗しないようにしてました」
とR君。試行錯誤の中で期待通りにいかなかったケースは、失敗と呼ばないことにしたのね、と尋ねると
「はい、自分の検証結果の1つ1つは成功とか失敗じゃないです。考え無しに変なことして非常識と思われたり、報連相サボって取り返しのつかない迷惑かけたり、空気読めなくて人を傷付けたりしたらそれは失敗っす」
と返ってきました。
 なるほど、そういった"失敗"は不注意や怠惰から生じるもので、それは避けるべき、そこから学びたくはないものです。

 よく分からない分野のことって、だいたい初めはモタつくし手応えも悪いです。
 そこで、とにかくやれ!勇気を出せ!たくさん失敗しろ、転んで怪我して強くなるんだ、と背中を叩く人もいるでしょう。
 失敗は確かに糧になります。でも、物事の解像度を上げることが目的ならば、検証の方がもっと良い糧になるように思うのです。
 目標を立てて試行して、結果を分析して気付いたことを次に活かす。回数をこなして慣れることは苦手克服に有効です。しかしわざわざ無策・無防備にやってもいいことはないです。

「まずは何も考えず打席に立ちな。ホームランは後からついてくる」
などというのは、基礎的な実力は備えているのに思い切りやリラックスだけが足りない、"あと1歩"の人に適用される励まし文句です。
 スタートしたばかりで蓄積の乏しい期間は、ノープランで的はずれなことをして恥をかいたり人に不快な思いをさせたりしないよう、基礎を身に付け自己理解を深めることからが定石です。
 R君のように、観察と分析を軸に安全な検証を繰り返すことは、やらかしダメージが次の1歩に支障をきたすような、メンタルの弱い自覚のある人にこそお勧めしたいです。


🌳おわりに

 互いが心地よいコミュニケーションは「自分らしく、相手本位」です。よく考え、自ら動いて、安心や信頼を先に差し出す人になる。これは双方を活き活きとリラックスさせ、自分に対しても他者に対しても誠実でいることだと思います。

 今もなお日々頑張っていてとても素晴らしいので、良かったら彼を応援してあげてください。R君の挑戦が、誰かの励みになれば嬉しいです。

おしまい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?