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【サプライズ・プレゼント ケース・ワン】

【サプライズ・プレゼント ケース・ワン】フロム【ハウ・キュート・マイ・キャット・イズ】 シリーズ!

【ハウ・キュート・マイ・キャット・イズ】 シリーズ とは:
yulou407によるニンジャスレイヤー二次創作、つまりテキストカラテのカテゴリーの一つ。グラスキャットのカワイイなワンシーン、日常風景、観察日記、彼女が愛用するヘッドホン端末のデータの一部など。ショートムービーめいた記録。文体は忍殺に準ずるものから箇条書きまで様々である。

重金属酸性雨が降りしきる夜。照明の明るさを絞った寝室で、グラスキャットはネコめいて丸まり、寝込んでいた。……今日はトラベラーと一緒にインテリア・ショップに行き、目当てのクッションを買うはずだったのだが、折悪しくグラスキャットが風邪を引いたため「それは休め」とトラベラーが予定を取りやめたのだ。

『それ以上悪化しないように、大人しく家で寝てなさい。わかったね』トラベラーはそう言って通話を切ってしまった。グラスキャットはなんだか寂しい気持ちになった。

いつもトラベラーは何かと家に来たり、行動を共にしたがる。世話を焼きに来たり、かと思えば「焼かれ」に来たりもする。さらに、体調を崩した時には、知らせてもいないのに差し入れを持ってくる。

盗聴器や発信機の類でも仕掛けられているのだろうか?無論、そんなはずはない。彼女がそういうことをする必要がないのは分かっている。だが、もしかしたら、と、風邪をひいて弱った頭はネガティヴな想像力を働かせ、存在しないであろう悪意を見つけようとしてしまう。

「ウウー……」グラスキャットは小さく呻き、ベッドから起き上がった。ベッドを降りるのは今は無理そうだ。「ウウーッ……」せめて水分を摂ろうとしたが、ペットボトルは空だ。「ウウー……」空腹も手伝って、本格的に寂しくなってきた。トラベラーはオフのタイミングを合わせて行くはずだったから、彼女もオフのはずだ。

つまり、来ようと思えば来られる。(来ないかな)グラスキャットは毛布を丸めた。もはや「いることが普通」とまで思えてしまうのは、ネオサイタマでは良くない心構えだ。明日どうなっているかなど分からない、そういう街なのだ。グラスキャットは悲しくなり、毛布を抱きしめた。(来ないかな……)

その時、端末がIRCメッセージを受信した。
『Midori:歩けるか。Y/N』
グラスキャットは素早く返信した。
『glscat:N』

『Midori:空腹か。Y/N』
グラスキャットは期待を込めて素早く返信した。
『glscat:Y』

程なくして来客を知らせるチャイムが鳴り、ドアを開ける音がした。続いて改造モーターチイサイの「ヒカリ」が頭上にタマゴスシのホログラム映像を投影しながら飛んできた。

『重点……重点……』ヒカリはホタルめいて淡いグリーンに点滅しながら、ゆっくりとグラスキャットの周りを旋回した。「アレ、トラベラー=サンは……?」『ヌンヌン……すぐに来ます』ヒカリの側面からふわふわしたアームが伸び、グラスキャットの頭を撫でた。初めて見る機能だ。

『義体を待ちきれないので、付けてもらいました。良いですか?』「ウン、良いね」自慢げなヒカリにグラスキャットは微笑みながら、部屋の照明を明るくした。直後、再び来客を知らせるチャイムが鳴り、ドアを開ける音がした。

グラスキャットは警戒した。普段トラベラーが来る時は確かにチャイムは鳴らすが、ドアを開ける音はしたことがない。「誰……」『マスターです』ヒカリがグラスキャットの頭を撫でた。『必要なのでドアを開けています』「普段は必要ないのかい?」グラスキャットは撫でられながら困惑した。

物音、足音ののち現れたのは、確かにトラベラーだった。「やあ、私だ。スシとか買ってきたから食べようじゃないか。サイドテーブルでは収まらないしリビングにしよう」「ドーモ……エート、じゃあ運ばれるんだね。オネガイシマス」「ウム」トラベラーは妙に嬉しそうに、トラベラーを軽々と抱き上げた。

重いかどうかは、グラスキャットは尋ねない。ニンジャ筋力の前に人体の重さなど些細な問題だからだ。もっとも、トラベラーからは相変わらずニンジャソウル反応を検知できないのだが。「尻尾はいるかね」「ウン」トラベラーはサイバネ尻尾収納棚から部屋専用の尻尾を取った。

『ユニット接続確認。異常なし』「よし、アリガト」グラスキャットは慣れた手つきで尻尾を装着し、動作を確認がてらトラベラーに巻きつけた。「何故だ」「確認にちょうどいいから……」「力加減も問題ないし、愛を感じるな」「なんだい、それ」グラスキャットは尻尾を離した。

リビングのテーブルには、スシ・パックとソバ、ロースト・チャ用のポット。そして、ソファにはクッションがセッティングされていた。「これ!」グラスキャットは尻尾を伸ばし、クッションを絡め取って引き寄せた。「よく見るといい。とりあえず降ろすから抱いてごらん」「ウン」

グラスキャット好みのサラサラとした手触り、高密度の綿、硬すぎず柔らかすぎない抱き心地。渋めのモスグリーンが目にも優しい。暫し堪能してから、グラスキャットは我に返ってトラベラーにオジギした。「アリガト、トラベラー=サン。いいのかい?」「良いとも」

微笑みながら、トラベラーはロースト・チャの入ったユノミを差し出した。「ドーモ」「治ったら、もう一個くらい買いに行こう。やたら色があるし、すごいから」「ウン」グラスキャットはいつもより深い色のチャに息を吹き、啜った。濃い目のチャも良いものだと思った。

『食べられそうですか?』ヒカリが様々なスシのホログラムを次々に投影しながら尋ねる。さながら店のメニューだ。「ウン」『フフーフ』「……なんかヒカリ、バグとかあるんじゃないかな」「正常だとは思うんだが、やたら偏りが出てるんだ。何故か……」

心の底から分からないという声音に、グラスキャットは思わず噴き出した。「ダイジョブだよ」どう考えてもトラベラーの語彙と教育が良くないのだが、グラスキャットは言わず、慰めながら箸を取った。「まあ、食べようか」トラベラーが隣に座った。グラスキャットは頷いた。

「「イタダキマス!」」

【サプライズ・プレゼント ケース・ワン】終わり

うちのキャットは世界一かわいいんだぞ。わかっているのか!

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