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【ザ・ショッピング・ケース・ツー】

【ハウ・キュート・マイ・キャット・イズ】 シリーズ とは:
ユラウ(yulooooou)によるニンジャスレイヤー二次創作、つまりテキストカラテのカテゴリーの一つ。オリジナルニンジャであるグラスキャットのカワイイなワンシーン、日常風景、観察日記、彼女が愛用するヘッドホン端末のデータの一部など。ショートムービーめいた記録。文体は忍殺に準ずるものから箇条書きまで様々である。

ユラウのメモ

「これじゃないし、これでもない……」尻尾を「オトナシイ・モード」に設定したグラスキャット。彼女は、狭く古めかしく、加えて埃っぽい店内で品物を片端から手に取り、付属した香りサンプルを嗅いで回っていた。「アー……違うな……もっとこう、甘くて……」

『ネコチャン、今日の探し物は?』「ドラウター=サンに……ちょっとね」通信を繋いでもらっていたトラベラーの問いに、グラスキャットは答えた。「渡したら話をしてもらえそうな物ないかなって思って……タバコを見てるんだけど」

ドラウター。アダウチのためにグラスキャットを狙うフリーランスのニンジャだ。彼はタバコを嗜む。安物から高級品、紙巻きタバコから葉巻、カフェのテラスでパイプをふかしている所も一度見かけたことがある。彼はいわゆる、「出来る」人間だ。所作から分かる。ならば話もきちんとやれば通じるはずだ。そのために、プレゼントもあった方がいい。グラスキャットはそう思ってこのタバコ屋を訪ねたのだ。

『渡したら話を……ああ、つまり捧げ物か』「まあ、そんなとこ」グラスキャットは適当に肯定しながら更に品探しを続け……やがて気づいた。店主の老人が先ほどからこちらを窺っている。サイバーサングラスは特に何も文字を流さないが……。「……トラベラー=サン、あのさ」グラスキャットは声のトーンを落として通信先に声をかけた。

『モゴ……?』通信先のトラベラーは何か食べているようだが、グラスキャットは構わず続けた。「高級な葉巻とかって……店員さんに聞くべきかな」『ムグ……ウム。というかそれが早いだろうな』「そうだよね。アリガト」グラスキャットはサンプルを棚に戻し、店同様古めかしいカウンターの前に立った。

「ドーモ、実際お困りのようだが……」身なりを整えた品のいい老人の店主は、その姿に似つかわしくない、業務用のサイバーサングラスをつけている。『年齢確認』の文字が流れた。「ドーモ。これ、確認になりますか?」グラスキャットはバイクの免許証を差し出した。男性は頷き、『成人な』と表示されたサイバーサングラスを外した。

「シツレイしたな。では……一通りそこの棚は見たようだが、目当てのものはなかったようだね?」「ハイ。エート……プレゼントなんだけど。色々吸う人に」「それなら勿論それなりの値でなくてはな。色々とは具体的に分かるか?」老人はカウンターの奥の棚を一つずつ数えるようにあらため始めた。グラスキャットは思い出せる限り、片端から列挙した。見た目。煙の香り。チラリと見えたパッケージ。それらを扱う様子も。

「……銘柄を聞いたわけではないので、スミマセン」「いや、充分だ。ウチの客で間違いない」「エッ!?」グラスキャットは仰天した。『マジか』通信の向こうで、トラベラーも驚いている。「彼奴が妙に気にしている銘柄がある。とっておきだが……そこそこするぞ。どうする?」ニヤリと店主は笑う。「買う。敵に送る塩は最高級品を選べ。ミヤモト・マサシも言ってた」

店主は頷き、箱を取り出すと価格を示した。グラスキャットはそれを見た。そして息を呑んだ。「アイエッ……」「もう一度聞くが……どうする?」グラスキャットはしばし唸り、頷いた。大きな賭けに乗ったギャンブラーの如く、素子を支払った。「ドーモ。幸運を祈るよ、黒いネコのお嬢さん」

そうして、グラスキャットは超高級な葉巻を一箱、購入するに至った。

『あとは奴さんに会うまで肌身離さず……だな』「ウン。アンブッシュは仕掛けてこないと思うから、焦らないようにしないと」グラスキャットは既に落ち着かない気持ちでいっぱいだが、声色は平静を保つよう努めた。


「正直、アイツは私を殺す気なんかもうないように見えるし……ダイジョブ。まず、会ったら……お茶に誘って……」『デートでは?』「すみません、よく聞こえませんでした」『私をお茶に誘ってくれてもいいと思うが』「いつも一緒に食べてるじゃないか」『フフ』

ドラウターがいそうな場所を、何日か眺めて回る必要がある。グラスキャットはマップにピンを刺し、一旦帰路についた。重金属酸性雨は、今日も降り続く。だがそれは、不安や絶望を煽るいつもの雨とは違っているように、グラスキャットは思えた。

【ザ・ショッピング・ケース・ツー】終わり。

果たしてうまくいくのか。やってみんと分からんな。
🐈‍⬛🚬)))

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