「毎瞬間」?

先日、韓国人の方から韓国語→日本語の翻訳をしたので日本語として自然なように修正して欲しいという依頼を受けた。その翻訳文のチェックをしていたときに「毎瞬間」という日本語訳が出て来てこの単語に違和感を感じた。

参考までに「毎瞬間」の韓国語の単語は「매 순간」である。「毎」が「매」、「瞬間」が「순간」に対応している。「毎年」→「매년」、「毎月」→「매월」などのように「毎」が「매」であり、その使われ方は日本語と同じ(はず)である。

毎年、毎月、毎日、毎時、毎分、毎秒は日本語に存在している単語だが毎瞬間という単語は一般的に使われる日本語の単語としては存在しない。少なくとも私の手元にある国語辞典には載っていない。

そこで私は「毎瞬間」は一般的な単語ではないので「いつでも」や「どんなときでも」の方が良いと修正した。但し、修正後の「いつでも」では「毎瞬間」とはニュアンスが変わってしまった気がして、その後も違和感があり少しひっかかっていた。この違和感を払拭すべくこれらの単語について考察をした。

私は「いつでも」には時間が連続しているニュアンスを感じている。一方「毎瞬間」のように「毎○」となるものには時間が「○」の単位(「月」「秒」など)で切り出してその時間のみに着目しているニュアンスだ。

このニュアンスが正しいのか国語辞書を調べてみた。調査した国語辞典は以下の4つ。

* 大辞林 第三版(以下、「大辞林」という)
* 小学館 精選版 日本国語大辞典(以下、「日国」という)
* 三省堂 国語辞典 第七版(以下、「三省堂」という)
* 新明解 国語辞典 第七版(以下、「新明解」という)

まずは「毎○」から

毎年
    大辞林:どの年も。年ごと。
    日国 :としごと。としどし。
    三省堂:一年ごと。としごと。
毎月
    大辞林:どの月も
    日国 :月のたびごと。つきづき。
    三省堂:一ヶ月ごと。つきづき。
毎日
    大辞林:どの日も。日ごと。
    日国 :ひごと。ひび。
    三省堂:(1)同じようにくり返す、それぞれの日。
                   (2)一日もとぎれないこと
    新明解:(1)その日その日。
                   (2)[ある期間にわたって]どの日もどの日も何かが行なわれることを表わす
毎時
    大辞林:一時間ごと。一時間につき。
    日国 :いっときごと。現代では、一時間ごと。
    三省堂:一時間<ごと/につき>
毎分
    大辞林:一分ごと。一分につき。
    日国 :一分ごと。
    三省堂:一分<ごと/につき>
毎秒
    大辞林:一秒ごと。一秒につき。
    日国 :一秒ごと。
    三省堂:一秒<ごと/につき>

毎年、毎月、毎日、毎時、毎分、毎秒のいずれにおいても「毎○」の「○」に該当する部分、すなわち年、月などの単位で時間が区切れているニュアンスが含まれているように見える。少なくとも、時間が継続しているニュアンスが含まれているようには受け取れない。

それでは「いつでも」についてはどうだろうか。

いつでも
    大辞林:(1)常に。絶えず。
                   (2)任意のあるとき。どのときと限ることなく。
    日国 :どんなときでも。常に。

「大辞林 (1)」「日国」では時間が連続しているような印象の意味になっているように受け取れる。一方、「大辞林 (2)」においては、「任意のあるとき」という表現で解説されており、時間を点でみる視点も入っていそうな感じはするが微妙なところだ。

更に、大辞林でも日国にも「常に」という言葉で解説されているので、「常に」を調べてみる。

常に
    大辞林:どのような時でも同じ行動や状態が保たれていて途切れないさま。いつも。絶えず。いつでも。
    日国 :(1)同じ状態で、長く時を経過すること。いつも変わらないでいるさま。
                (4)絶え間をおかないで続けること。中断することがないこと。
                (5)変わることなく継続的に行なわれること。
    三省堂:いつも
    新明解:その事態が、状況の変化などにかかわりなく、同じように持続する様子。

「同じ行動や状態が保たれていて途切れない」、「同じように持続する」、「絶え間をおかないで続けること」、「変わることなく継続的に行なわれること。」などの解説からも「常に」は時間が連続しているニュアンスだと言っても良いだろう。であれば「常に」という言葉のみでも説明されている「いつでも」についても同様に時間が連続しているニュアンスが強いといっても良さそうだ。

さて日本語の単語のニュアンスとしては上記で良いとして、韓国語ではどうだろうか。韓国語のオンラインレッスンの先生に「매 순간(毎瞬間)」と「항상(いつでも)」の違いについて聞いてみた。すると、やはり使い分けは存在するようで「매 순간(毎瞬間)」は時間をある瞬間に切り出して着目するというニュアンスで、「항상(いつでも)」は時間が継続しているニュアンスとのこと。この点で日本語と一致しているようだ。

そうなると「매 순간」を日本語に訳すとき「いつでも」にすると、時間のとらえ方が「瞬間を切り出したもの」から「連続した時間」に変化してしまいダメなのではないか。日本語として適当な言葉を探しているうちに、最終的には「瞬間瞬間」や「瞬間ごと(漢字にすると瞬間毎)」とするのが良いのではないかと、という気がしてきた。

あれ?「毎瞬間」だと違和感あるけど、「瞬間」と「毎」を前後で入れ替えて「瞬間ごと」になっていると違和感がないのは気のせいか?

前述したように国語辞典で「毎年」は「年ごと」と解説されているように「毎○」は「○ごと」と解説されている。逆にいうと「○ごと」を「毎○」と言っても良いのではないだろうか。すなわち、実は「毎瞬間」でも良いのではないか。「毎瞬間」に違和感があるのは自分だけで、一般的には「毎瞬間」は普通の表現なのだろうか、という気さえしてきた。

少なくとも私が訂正した「いつでも」や「どんなときでも」は不適切な翻訳になりそうなので反省している。むしろ「毎瞬間」のままでも良かっただろう。でもやはり「毎瞬間」は違和感があるので、次の機会には「瞬間毎」か「瞬間瞬間」と訳そうと思う。

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