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雑記 | 出会い


しばらく間が空きましたので、ちょっとした雑記をアップします。

学生の頃から続いている習慣に本屋まわりがあります。大型書店を中心に三時間以上かけていろいろな書店を見て回ります。
また多くの古本屋があって一日では回れないのが普通でした。

ですが時代が変わり現在、「古書店」は壊滅して残っていません。
僅かに残っているのは大型書店で、その大型書店も次々と閉店しています。
時代の流れが自分のような人間の居場所を奪っているような感じがしています。


先日、その僅かに残っている書店で見知らぬ老人──70代だと思える方で杖を突いていました──に突然声をかけられました。
それも立ち読みをしていて、戦車の専門雑誌を手に取った時に。
「えっ──なに──!?」
そんな感じの驚きでした。

ようは手に取った雑誌──戦車の専門雑誌のことで、話しかけてこられたのでした。ただ内容がとてもコアで、なんともマニアックでした。
「ヴァリアント」という戦車が好きで実際に見に行って写真を撮ってきたことがあるという話でした。

「エエエ~~! ヴァリアントぉ──???」


まさかこんなところでこんな風に、それも予想だにしないような人物からイギリスの試作戦車であった「ヴァリアント」の名前を聞くとは、想像もしていませんでした。

正直、あまりの意外さにすぐに「ヴァリアント」のことを思い出せなかった。それほど、ドマイナーな戦車でもあります。
脳裏に映像が出てこない。

平静を装いながらも動揺が激しくて、記憶をたぐり寄せることで手一杯。
おかげで「好きな人はスミソニアンなんかにも見に行きますね」と、「アバディーン」と「スミソニアン博物館」を間違えて話していたりしました。

ご老人は「スミソニアン」を知らなかったようで、「アメリカ」にありますよと教えると納得顔でしたが。本当は「アバディーン(アメリカ陸軍兵器博物館)」のことで、大戦中の世界中の戦車が展示されています。

楽しそうに雑誌の話をして、廃刊になるのではないかと思うほど同じ写真と記事を使い回していたが最近は違うと話していました。それは、ライターや編集部が世代交代したからですと教えたりしていたのですが、なぜそれを知っているのかを思い出せないほど頭の中は「ヴァリアント」でいっぱいでした。

ちなみに「ヴァリアント」はイギリスの戦車で、第二次大戦中に試作戦車として作られものです。これを思い出しのは、クロムウェル巡航戦車も好きだという話を聞いていたときでした。
 
「クロムウェル」の方が有名で失敗作の戦車でした。
「ヴァリアント」は試作車なのでそれほど有名ではなく、ですが、この段階で失敗作として完成されており、悪い見本として残されていた「史上最悪の戦車」とも評されるものです。

それを思い出して、「どちらも失敗作ですよ」と話すと、「だから良いじゃない可愛くて」と逃げるように離れて行きました。どうやら年季の入ったモデラー──プラモデルを自作する人たち──のようでした。
後で悪いことをいったかなと少し後悔しました。

それからというもの、家に帰ってネットで「ヴァリアント」の資料を確認するまで頭の中は大戦中のイギリス戦車の記憶がぐるぐる回っていました。戦車の話をするのは十数年ぶりでした。


もう同人関係の人間と会って話すこがなくなって十年以上は経ちます。ましてや「コミケ」を含めても「ヴァリアント」という名前が出てくるようなマニアックな人たちはいません。

これは学生時代を含めても人の口から「ヴァリアント」という言葉を聞いたことがありませんでした。同人はマニアな人間は殆どおらず、表層的なふりをする人々の集まりです。アニメ、「ガールズ&パンツァー」のファン程度では分からない話だったかと思います。

「ヴァリアント」のことを話す人がいるのは、「ワンダーフェスティバル」だと思います。「ワンフェス」は「ガレージキット」と呼ばれる自作のプラモデルを展示即売できる日本最大のイベントです。
マニア度で言えばこらちの方が「コミケ」などよりはるかに高くて、ここでならば探せば「ヴァリアント」が好きだという人もいるかも知れません。

それでも少ないとは思います。
それほど珍しい。

そんな人物にまさか書店で声をかけられて話をすることになるとは、どこまでもこういう人種とは縁が切れないなとあらためて思い知りました。不意を突くどころか、想像することさえできない出会いでした。

後から思うと、せっかくだからもう少し話を聞いてあげていれば良かったと後悔しています。


話はそれますが、少し戦車の話を補足しておきます。

他の「note」の記事でアニメ「ガールズ&パンツァー」に近い話は、同人活動していた時は仲間と何度も話していたと書きました。
正直、アニメを見た時、「やられた」と思ったものです。

それからずっと、雑談では何度も話には出ていてもどうして作品化を考えなかったのかと頭の隅に疑問が残っていました。全く考えてなかったわけではなくて、士郎正宗さんの「ドミニオン」のようなものは考えたことがあったのですが、決定稿がなかったのです。

ですがこの出会いで理解できました。
自分には「ヴァリアント」を可愛いと感じる感性と発想が欠けていたのです。ガンマニアでもありますので、兵器はもともと好きなのですが、あくまで使用するとしたらでたえず考えます。

少し弁解すれば、この戦車を可愛いというモデラーの気持ちも分からないでもありません。第二次大戦中の戦車は、戦車という兵器の多くの試行錯誤があった時代で、一種の生物進化と淘汰のメカニズムに似た側面がありました。

多くの失敗作や駄作の上に現在の戦車があり、兵器もその時代の技術を突き詰めるとだいたいが同じようなものになってくるのです。これが大戦中の戦車はなくて、まさにバラエティーに富んだというか、トンデもないものまでありました。

おそらくですが、この戦車を武器として見る視点ではなく、ビジュアルや希少性という収集癖に近い感覚でみる人の発想があれば、「ガールズ&パンツァー」の発想があったのかも知れません。


今更遅すぎるのですが、20数年前の自分の発想の盲点に気付かされた気がした出来事でした。


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