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菊池涼介のMLB挑戦の夢は叶うのか?

昨年の契約更改時にMLBへの挑戦意向を示した菊池涼介ですが、今オフのポスティングシステムによるMLB移籍を球団が容認したことが先日発表されました。

それまで日本に蔓延していた守備概念を覆すような規格外の守備を見せ続け、2014年の日米野球や2017年のWBCでは世界にその守備力を披露するなど、アピールを続けてきましたが、とうとう夢が叶う時が来たわけです。

ただMLB移籍を確約された存在とは言えないため、市場の動向や各球団のニーズと合致しなければ、焦がれたMLB移籍も叶わないこととなってしまいます。

ついては、現時点での菊池の実力とMLBでの市場動向を見ながら、夢であったMLB移籍を叶えることが出来るのかを確認していきたいと思います。

1.現状把握

まずは菊池の現状の成績がどのレベルにあるのか整理していきましょう。

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直近4年の打撃成績をまとめてみましたが、2016年にリーグ最多の181安打を放って打率.315をマークして以降は、wRC+を見るとリーグ平均レベルの打撃力となっており、近年は攻撃面での貢献は今ひとつであることが分かります。2013年から試合に出場し続けていることによる勤続疲労や、2016年に痛めた膝の状態が思わしくない等の影響があるのかもしれません。

少々低迷気味の近年の打撃成績ですが、その中でも変わらない特徴に着目してみると、毎年二桁本塁打を記録しており小柄ながら意外な長打力を持っています。バットの軌道は遠回り気味ですが、遠心力を生かしてボールを飛ばしてゆき、小柄な2番という点から一般的に想起されるようなコツコツとボールにコンタクトしていくような打者とは一線を画する存在です。

と言ってもコンタクト力が低いわけではなく、リーグ平均78.1%以上のContact%を記録していることから、空振りは少なくきめ細やかさも持つ打者です。ただ3年連続100三振を記録するなど粗さが全くないわけではなく、追い込まれた際の脆さも持ち合わせています。ですので、基本的には初球から積極的にボールに手を出していく打撃スタイルで四球は少なく、2番よりも制約の少ない打順の方が自身の打撃をそのまま発揮出来るタイプと言えましょう。

更に弱点を挙げるとすると、ストレートへの対応力でしょうか。wFAは3年連続でマイナスの数値を記録しており、キャリアハイと言っても差し支えのない2016年ですら2.9ですから、根本的にファストボールヒッターと言うよりはブレーキングボールヒッターなのでしょう。ということから、アベレージで93.1マイル(149.8km)を記録するMLBクラスのストレートに対応できるかは、MLB挑戦が決まった後でも大きな課題として立ち塞がることが予想されます。

続いて自身最大のウリである守備面は、近年どのような推移を見せているのでしょうか。

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二塁手の捕殺記録を更新するなど、他の選手では触れられないような打球でもアウトをもぎ取るような守備範囲の広さが菊池の守備の代名詞でした。しかし2016年のシーズン終盤に膝を痛めて以降は、感覚的にも守備範囲が狭くなったような印象でしたが、数値で見ても守備範囲を表すRngRは2016年を頂点に数値と相対的順位はともに低下しています。

DELTA社のコラムではポジショニングを二塁ベース寄りに移したとの指摘があり、かつ本人も投手の守備力の低下からポジショニングを二塁ベース寄りに寄せたと発言しており、守備範囲が狭くなったように見えているのは故障だけでなくポジショニングの影響も大きそうです。

そんな中でも2BのUZRは相対的に高い数値を記録していますが、それを支えているのが二塁手としては強肩な部類であることと、どんな体勢からも強く正確な送球を放れるボディーバランス能力の高さではないでしょうか。これにより、併殺完成力を示す指標のDPRは常に高い水準を保っています。加えてかつては「ドーナツ型の守備範囲」とも称されたように、難しい打球を難なく捌くものの、正面のイージーな打球を捌けないといったシーンが散見され、失策数も2桁を記録するほどでした。それが年々確実性が向上し、2018年には年間3失策に止めるなど守備範囲と反比例するように失策を着実に減らしています。守備範囲は狭まりながらも、このようにして相対的に高い守備力を7年間保ってきました。

2.菊池の現地評価

そんな菊池は現地ではどのような評価を受けているのでしょうか?

CBSSスポーツの記事を参考にすると、下記のようなことが言えそうです。

①打撃は平凡で下位打線レベルだが、傑出した守備力を持つ選手で、巧みなグラブ捌きがウリのイグレシアスに似たタイプ
②高い評価を受ける守備の中では、内野のどのポジションでも優れるレベルの肩の強さはなく、SSもおそらくこなせるがベストな役回りは2Bのスタメン
③人を引きつけるキャラクターで、クラブハウスを明るくする
④興味を持つであろうチームは、OAK・MIL・ARI・CLE・WSH・BOSの6チームだが、2013年に20試合SSを守って以降、2B専任となっているのがネック

またこちらの記事を見ると、上記6チームに加えてCHCやSFにもフィットするのではないかとの予測もあります。

現地評価では、やはり打撃面の評価は高くなく、グラブ捌き等の守備面の評価は高いものの肩の強さの評価は高くないことが分かります。また2B専任となっていることも、菊池の可能性を狭めている状況です。2020年には31歳を迎える年齢もネックとなり、評価は決して高いとは言えないのが現状でしょう。

3.MLBの内野手事情

続いて菊池のメインポジションの2Bについて、MLBの現状はどのようなものなのでしょうか?

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各チームのレギュラー格の選手をまとめたものから、MLBでレギュラーを務める選手がどのくらいのレベルの数値を残しているのか、確認していきます。

打撃面では、20名が二桁本塁打を放つなど、打力がそれ程優先されない中でも一歩間違えれば長打を放つ力のある選手が多いことが分かります。菊池自身は毎年二桁本塁打を放つ長打力を見せており、この流れに反した存在ではないと言えます。一方、盗塁を多く記録するようなスピードタイプの選手は多くなく、7名のみとなっており、全盛期ほどではないですが、まだまだスピードのある菊池はパワータイプの増えている中でアクセント的な存在として期待されるかもしれません。

ただOPSベースで見ると.700以下は8名のみで、今季のOPSは.719と菊池が投手のレベルが一段と上がるMLBで日本時代の打撃成績を維持するのは困難だと考えると、いくら意外な長打力やスピードがあっても、総合的な打力ではどうしても劣ってしまうため、評価は上がってきません

となると、守備で傑出力を示す他はありませんが、OPS.700以下の8名で高DRSを記録しているのは+11のサンチェス(CWS)くらいで、その他の7名は思いのほか守備面でも良い数値を残せていません。加えて、WAR1.0以下の選手は10名と多く、総合的にレギュラークラスの実力を示している選手が然程多くないため、案外付け入る隙はあるのかもしれません。

とは言えども、過去の実績やプロスペクトという観点から起用されている選手もおり、本当に守備に特化したような選手でレギュラーを張っているのは上述のサンチェス(CWS)くらいであり、近年台頭した2Bを見てもMLB全体では打てなければレギュラーは掴めない傾向にあると言えましょう。ですので、守備力をウリとする菊池がレギュラー格として割って入るには厳しい環境となっています。

加えて、レギュラー格のみならずプロスペクト等の情報を加味した選手層の部分もケアするために、歯磨き粉さんの上記noteを参照させて頂くと、年齢的にも再建中のチームが手を出しづらいこともあってか、現実的な選択肢としては多くの球団が挙がることはなく、かつ過去の日本人内野手の成功例の少なさもあり厳しいとの見立てです。

以上より、30歳と高齢で2B専任で守備専との評価の選手をレギュラー待遇というのはあまり現実的ではないのではないでしょうか。となると日本より枠の少ないMLBにおいて、2B専任の控え選手をロースターに置いておくわけにもいかないため、日本時代にはほとんど経験のない3BやSSをこなす内野のUT想定での獲得となることが想像されます。

そんな中、2B/3B/SSをこなす内野UTにはどのような選手がいるのでしょうか?

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2B/3B/SSのうち複数ポジションで100イニング以上守備についた選手をまとめてみましたが、MLB全体では47名存在することが分かりました。ブレグマン(HOU)やラメイヒュー(NYY)といったMVP候補にも挙がるような選手も複数ポジションを守っていますが、やはり打力に欠ける選手も多く存在することが分かります。

2Bの時と同様にOPS.700以下に絞って見てみると、内野UTでOPS.700以下に該当する選手は16名で比率で表すと34.0%と、2Bのレギュラー格8名/30名の26.7%よりも高いことが分かります。ですので、複数ポジションをこなすことが出来れば、多少の打力不足は許されると言えるでしょう。加えて、複数ポジションでDRSがプラスを記録している選手4名ですから、菊池が2Bに加えて3B/SSをそれなりのレベルで守ることが出来れば、その他の選手と比べて相対的に優位に立てることが分かります。

4.内野手のFA市場

最後に、今オフのFA市場にはどのような内野手(2B/3B/SS)がいるのかを確認していきます。

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菊池のメインポジションである2Bは、目玉選手こそいないものの粒ぞろいで、今季各チームでレギュラー格だった選手も多くいます。年齢的には菊池と大差ない選手がほとんどですが、FAとなっている以上MLBで積み重ねてきた成績がある選手がほとんどで、WARがマイナスとなるほどの成績まで至らない限りは基本的に菊池より評価は高いのでしょう。ですので現実的にはスパンジェンバーグ以下の選手たちと争うような構図となるのではないでしょうか。

粒ぞろいで数の多いの2Bと比較して、3BやSSにはあまりFAの選手が多くありません。3Bにはレンドーンやドナルドソンといったスタープレイヤーがいますが、それ以下の選手にはムスタカスやカブレラなど2BもこなすようなUTの選手がおり、この辺りの選手の動向も2Bの市場に影響を及ぼすことになるでしょう。SSはさらに数が少なくなりますが、菊池と似たタイプとして挙げられたイグレシアスが市場におり、このイグレシアスの動向が菊池への各球団のアプローチに影響を与えるかもしれません。

トータルでは、2Bがメインポジション選手は粒ぞろいで、2Bと互換性の高い3Bにもレベルの高いUTがいて、SSには菊池とタイプが近いとされる選手もいることから、FA市場という面でも菊池にとっては逆風が吹く状況ではないでしょうか。

またポスティングだと交渉期間が30日間限られるため、そもそものポスティングのスタートを市場の動向を見極めた上で行う必要があるでしょう。

5.MLB挑戦の夢は叶うのか?

以上より、守備力特化型の菊池にとって、2Bにも一定の打力が求められる潮流となりつつあり、過去の日本人内野手の成功例の少なさからも、レギュラー格としての待遇は難しそうな状況にあることが分かります。

どこのチームと契約するにしろ、日本時代のように2B専任ということはなく、少なくとも3BやSSはこなす必要性は出てくるでしょう。ですので、ほぼ経験のない3B/SSの守備力をどう評価されるかが、MLB入りへの大きなカギとなるのではないでしょうか。また、MLB契約ではなくマイナー契約となることも考えられるため、そこからはい上がっていく覚悟も必要となります。

東スポの記事ですが、夏場からMLB各球団へ自身をUTとして売り込んだとのようですので、MLBではUTとして生きていく覚悟はできているのでしょう。

あとは他の選手の動向に左右されることになるのでしょうが、FA市場的には菊池にとってあまり良い状況ではないものの、ここは全く読めない部分でもあるので、現在出場中のプレミア12で最善のプレーを見せて、あとは神に祈るのみといったところでしょうか。

このようにポジティブな要素やネガティブな要因要素の双方が入り混じっているのが現状ですが、2Bへの極端な執着を見せない限りは全く需要がないわけでもないので、MLB挑戦の夢は叶うのではないかと最後に結論付けたいと思います。

また広島の球団としてはどこの球団との交渉もまとまらなければ、そのまま来季も広島のユニフォームを着てプレーすることを容認しており、帰ってくる場所もあるため、菊池には本当に納得できる形でMLB挑戦を決めてもらうことを切に願っています。

データ参照:1.02-Essence of Baseball(https://1point02.jp/op/index.aspx)
      FanGraphs(https://www.fangraphs.com)

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