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CSは弱くても勝ち上がれる⁉

10月に入りポストシーズンへと入ったプロ野球ですが、セリーグはリーグ優勝を果たした巨人が、パリーグは2位ながら3年連続の日本一を目指すソフトバンクが、それぞれ日本シリーズへ進出することとなりました。

これで2017年から3年連続でリーグ優勝以外のチームが日本シリーズへ進出するなど、リーグ優勝チームの優位性が揺らぎつつありますが、いずれにせよ不利な条件ながら勝ち上がったチームは称賛されるべきでしょう。

そんなリーグ優勝以外のチームが勝ち上がるケースについて、今季を含め過去に6例がありますが、下記ツイートにあるようにピタゴラス勝率*ではCS進出チーム中最下位のチームが勝ち上がるケースが3例あり、決して圧倒的な戦力を保持したチームが勝ち上がれるのではないことが分かります。

※ピタゴラス勝率‥得点の二乗÷(得点の二乗+失点の二乗)から算出される見込みの勝率で、得失点差が大きくなれば勝率も大きくなることから、戦力の割にどれだけ勝利を積み重ねることが出来ているのかを測ることが出来る
参照元 1.02-Essence of Baseball(https://1point02.jp/op/gnav/glossary/gls_explanation.aspx?eid=20012)

ペナントレースのような長期戦とポストシーズンのような短期戦は、戦い方が根本的に違うことは何となく分かりますが、なぜこのようなチームがポストシーズンを勝ち上がれるのかについて、以下にて考察していきたいと思います。

1.2位以下勝ち上がりチーム詳細

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2007年以降のCS出場チームのシーズン成績とピタゴラス勝率をまとめたものが表①となります。

基本的にはシーズン1位のチームが、そのまま勝ち上がっていることが分かりますが、上述の通り近年は2位以下のチームが勝ち上がるケースが増えていることが分かるかと思います。

・2007年中日

2位以下のチームが勝ち上がったケースを振り返ると、最初の例が2007年の中日です。
この年はファイナルステージが3勝先取制で、かつ1位チームのアドバンテージもなかったため、ファーストステージで勢いに乗ったチームが試合間隔の空いた1位チームに対抗しやすい形となっていました。ということもあり、その他の年と単純な比較は難しいですが、ピタゴラス勝率的には巨人と.051の差があったものの、小笠原孝の先発起用などのかく乱戦法や充実したリリーフ陣、T・ウッズという主砲を挟み込む森野将彦/中村紀洋/李炳圭らの打者の活躍で見事に巨人を破って見せました。

・2010年ロッテ

第2の例は2010年のロッテです。
史上初の3位からの日本一ということで有名になりましたが、ピタゴラス勝率的には1位と戦力的には意外ではないですし、長距離砲はいないものの打率.331を記録した今江敏晃が9番を打つような切れ目のない打線は短期決戦向きで非常に強力でした。

・2014年阪神

第3の例は2014年の阪神です。
シーズンの得失点差はマイナスで、ピタゴラス勝率的には.500を切る勝率となっていますが、CSでは広島と巨人を無敗で倒すなど短期決戦に強さを見せました。メッセンジャー/呉昇桓/マートン/ゴメスと一軍登録されていた外国人が、いずれもタイトルを獲得したように、個の力でリーグトップクラスのものを持っていたのが要因なのでしょうか。

・2017年横浜

第4の例は2017年の横浜です。
こちらも2014年阪神と同様にピタゴラス勝率的には.500を切る勝率ながら、筒香嘉智/ロペス/宮崎敏郎/梶谷隆幸といった野手の攻撃力に長け、今永昇太を試合終盤の重要な局面であえてつぎ込むなど、柔軟性のある投手起用も当たり、シーズンでは14.5ゲーム離された広島を破りました。

・2018年ソフトバンク

第5の例は2018年のソフトバンクです。
山賊打線を構えた西武の圧倒的な野手力の前にシーズンは屈しましたが、ピタゴラス勝率的には西武との差は.012となっており、経験豊富な野手陣や優れた投手力を生かして、ファイナルステージでは西武を破り、日本一まで上り詰めました。

・2019年ソフトバンク

第6の例は2019年のソフトバンクです。
前年に続いてのシーズン2位となったソフトバンクですが、ピタゴラス勝率的には前年とは違いCS出場チーム中最下位と戦力的には前年に劣るものとなりましたが、故障者の帰還による戦力アップや短期決戦を熟知した選手たちが西武を圧倒し、3年連続の日本シリーズ進出となりました。

2位以下から勝ち上がったチームを簡単に振り返っていきましたが、チーム全体の戦力も重要ですが、個の力と戦術面の工夫によってシーズン1位のチームを破っているように見受けられます

2.2014年阪神

ここからは、ピタゴラス勝率がCS進出チーム中最下位であったチームに焦点を絞り、戦力的には弱くても短期決戦を勝つにはどのような要素が必要なのかを明らかにしていきます。

まずは2014年の阪神です。

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2014年のセリーグ各チームのWAR総計を比較してみるとリーグ1位と、ピタゴラス勝率では.500を切る勝率でしたが、保有戦力は強力なものであったことが分かります。むしろ得失点差をマイナスで終えたのが謎なくらいです。

・打撃

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~チーム打撃成績の特徴~
①甲子園というフィールドを本拠地としながらリーグ3位の599得点
②wRC+103とリーグ1位の攻撃力
③ストレートに強くwFAはリーグ3位の22.8
④BB%8.8はリーグ1位と選球眼も兼ね備えていた

※wRC+とは‥打者が創出した得点数を示すwRCに、パークファクターを考慮した補正をかけて、平均値と比較したもの
平均を100と表現している

長打力は然程ありませんが、出塁能力の高さでそれを補い、ストレートへの対応力の高さから試合終盤への強さも持った打撃陣という特徴を持っていることが分かります。

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~主要打者個人成績の特徴~
①鳥谷敬/ゴメス/上本博紀/マートンという軸になる打者がいずれもストレートに強い
②主力打者は軒並みK%が低くコンタクト力に秀でる打者が多い

打席数の上位4名でかつ上位打線を担った鳥谷/ゴメス/上本/マートンが、高い攻撃力を発揮し、かつストレートへの強さを見せていたのが非常に特徴的です。加えて簡単に三振にならずコンタクトに長けた打者が多かったのも、一段と投手の出力の上がるポストシーズンでは有効に働いていたのかもしれません。

・投手

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~チーム投手成績の特徴~
①防御率ベースでは、投手WAR1位でかつ優勝した巨人には先発リリーフともに及ばない
②K-BB%が先発/リリーフともに1位の支配力の高さ
③K-BB%をBB%を抑えるのではなくK%の高さで稼ぐ
④先発陣はゴロを多く取り、リリーフ陣はフライを多く取る打球管理

防御率は然程よくないものの、奪三振能力が高く支配力のある投球を先発/リリーフともに出来ている点が、阪神投手陣の大きな特徴となっています。

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~主要投手個人成績の特徴~
①メッセンジャー/能見篤史/藤浪晋太郎/岩田稔という支配力の高い4枚の強力な先発陣
②圧倒的な支配力を持つクローザー・呉昇桓の存在

岩田を支配力が高いと評するのは少々違和感がありますが、メッセンジャー/能見/藤浪という高いK%を持つ先発陣は非常に強力ですし、リリーフも呉昇桓という絶対的なクローザーを中心に、福原忍/安藤優也と最低限の枚数は揃っており、勝ち試合の逃げ切りも十分可能な布陣となっています。

・守備

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~チーム守備成績の特徴~
①リーグワーストのUZR-38.3を記録
②内野は全ポジションでマイナスとゴロを打たせるには向かない守備力

どこかのポジションが集中して悪いというよりも、満遍なくマイナスを記録しており、大和というセンターラインをハイレベルでこなす名手こそいましたが、チーム全体で見た守備能力は非常に低かったことが分かります。

3.2017年横浜

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2017年横浜を同様にして成績を確認していきますが、同じくピタゴラス勝率が.500を割り込みながらもWARではリーグ1位を記録した2014年阪神とは違い、WARベースでもリーグ4位と戦力的にも苦しかったことが分かります。

・打撃

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~チーム打撃成績の特徴~
①得点571はリーグ2位だが1位広島の736とは大差
②wRC+はリーグ4位と攻撃力が明確な強みとならず
③ISO.139とwFA22.6はともにリーグ2位で長打力とストレート対応は強み
④BB%/K%ともにリーグ5位とアプローチはあまり良くない

横浜スタジアムを本拠地とする割には得点数を伸ばせず、攻撃力は強みとは成り得ませんでしたが、長打力やストレートの強さは一定程度あり、得点の分散の小ささや少々のストレートには負けない力はあったことが窺えます。

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~主要打者個人成績の特徴~
①筒香嘉智/ロペス/宮崎敏郎といったコア野手がwFA上位を占めるなどストレートに強い
②wRC+で比較すると、平均以上の5名とそれ以外の差が大きい

2014阪神と同様に上位打線を占める桑原将志/筒香/ロペス/宮崎が、いずれも高い攻撃力とストレートへの強さを持っている点が特徴的です。2014阪神と異なる点はアプローチが荒く、コンタクト力にも優れていないため、得点パターンが長打に頼りがちになってしまうことでしょうか。

・投手

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~チーム投手成績の特徴~
①先発リリーフともにどの項目も中位と、明確な強み弱みはなし
⓶先発陣のK%は高く、先発/リリーフともにゴロ性の打球を打たせることに長けている

大きく突出した成績はなく、強みとも弱みとも感じさせない数値が並んでいますが、先発左腕の今永/濱口/石田に起因する先発投手の奪三振能力の高さや、狭い横浜スタジアムに対してゴロ性の打球を打たせることに長けた打球管理は特筆すべき点でしょう。

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~主要投手個人成績の特徴~
①今永昇太/濱口遥大/石田健大と支配力のある先発左腕が3枚揃っている
②6名の二桁ホールド達成者に加え、エスコバーや須田を加えた手駒豊富なリリーフ陣
③山崎康晃/パットンという強力なエースリリーバー

先発左腕がどのチームも少ない中で、今永/濱口/石田と3枚の支配力に優れる左腕を擁していたのは大きな強みです。また山崎/パットンという支配力のあるリリーバーを軸として、対左打者要員の砂田毅樹、対右打者要員の三上朋也/加賀繁、パワー型左腕のエスコバー、伸びあがるような直球でフライアウトを計算できる須田幸太と実に多彩なリリーフの陣容となっています。この陣容にラミレス監督の智謀を巡らせた投手起用がマッチしてのCS突破だったのでしょう。

・守備

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~チーム守備成績の特徴~
①チームUZRはリーグ2位とトータルでは守備力に秀でる
②守備の要の二遊間は大幅マイナスとなっており、リーグ2位のUZRを額縁通り受け取れるかは疑問符

トータルでは広島に次ぐ2位の数値ですが、二遊間のUZRはリーグワーストであり、守備の要とされるポジションの守備が崩壊していたという点を鑑みると、数字上ほど強みとなっていたのかは疑問符です。

4.2019年ソフトバンク

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最後に突破したてで日本シリーズを目前に控えたソフトバンクですが、トータルのWARベースでもリーグ優勝の西武とは2.6の差となっており、戦力的には大差ないことが分かります。

・打撃

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~チーム打撃成績の特徴~
①ヤフオクドームを本拠地としながらリーグ4位の得点数と得点力に苦しむ
②wRC+98とリーグ4位で攻撃力全体も大したことはない
③ISO.159はリーグ2位で、wFA21.4はリーグ3位と長打力とストレート対応に強み
④BB%はリーグ6位でK%はリーグ5位と荒々しいアプローチ

狭い本拠地ながら得点数は伸び悩みながらも、長打力やストレートへの強さは一定程度あるという、2017横浜とチーム打撃成績は非常に似通ったものとなっています。アプローチ面も同じような数値となっており、怖いくらいのシンクロ率です。この辺りは、元々タレントを揃えながらもシーズン中は故障で欠く期間が長かったという点が大きいのでしょうが‥

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~主要打者個人成績の特徴~
①デスパイネ/グラシアル/柳田悠岐/松田宣浩など主要打者は軒並みストレートに強い
②柳田や中村晃以外はBB%が低くK%が高い

柳田という柱を欠いて、非常に苦労したソフトバンク打撃陣ですが、主軸打者であるデスパイネ/グラシアル/柳田/松田は軒並みストレートへの強さを見せている点は、これまた2017横浜と似ている点です。一方で、中村晃/柳田以外の主力打者はいずれも、アプローチ面に若干難があり、この両者を故障で欠く期間が長かったことが、打線のバランスを崩すことへ繋がり、得点力低迷へ陥ったのかもしれません。

・投手

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~チーム投手成績の特徴~
①WARベースでも1位だが防御率ベースでも先発/リリーフともに上位と強力
②K%が高いものの、BB%は先発/リリーフともに最下位と球威はあるが制球面に不安
③ゴロ系の投手が多く、本拠地の狭さに合わせた投球スタイル

球威のある投手が多く、K%が非常に高いのが特徴的な投手陣ですが、BB%は先発/リリーフともに最下位と制球面に不安を感じさせる投手が多いことが窺い知れます。ただGB/FBは先発/リリーフともに1位とゴロ性の打球を打たせることには長けており、狭い本拠地仕様の投球スタイルとなっていることが分かります。

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~主要投手個人成績の特徴~
①千賀滉大/高橋礼以外はパッとしない先発陣
②モイネロ/森唯斗/高橋純平/甲斐野央の高K%を誇り支配力抜群なリリーフ陣

個々では千賀の存在感が抜けていますが、その他の先発はアンダースローの高橋礼以外パッとしない成績が並んでいます。ただリリーフ陣は非常に強力で、高い支配力を持つ甲斐野/モイネロ/森と繋ぐ勝ち継投に加えて、高橋純平や嘉弥真新也も控えるという充実の布陣となっています。

・守備

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~チーム守備成績の特徴~
①二遊間に多少の綻びを見せたものの、リーグ3位のUZR18.4とまずまず
②リーグ1位、2位がそれぞれ西武楽天なため強みとはなっていない

二遊間のUZRがリーグワーストと足を引っ張ったものの、トータルではリーグ3位の18.4とまずまずでした。ただCSで対戦した西武と楽天は、いずれもソフトバンクを上回る守備力を誇ったため、強みとはなっていないことが分かります。

5.共通のエッセンスとは?

ここまで3チームの打撃/投手/守備について確認してきましたが、共通項を確認する前に、大前提としてピタゴラス勝率が低いわりにシーズンでは上位に入っている理由を考えてみましょう。

非常に単純ながら、競った試合をモノにする力に長けていたために、得失点差の割に勝率が伸びたと考えられます。

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実際の3点差以内試合の勝敗を見ても、3チームいずれも大幅に勝ち越しており、接戦には強かったことが分かります。

どうしても均衡した試合になりがちなポストシーズンの試合において、このような接戦への強さがCSを勝ち上がった大きな要因なのでしょう。

以上のような前提を抑えた上で、共通項を確認すると、
①上位打線を打つ選手がストレートへ強い
②先発/リリーフともに支配力のある投手を複数枚揃えている
以上の2点が3チームの共通項となります。

①については、短期決戦で一段と出力の上がる投手を相手に、コアの野手がファストボールヒッターであることで、得点力を保つことが出来るのではないかと考えられます。また、試合終盤に登場してくる投手は基本的に強いストレートを持っているため、その投手たちへの対応を可能にするとともに、接戦への強さも担保できます。

②については、ペナントレースを上位で勝ち抜くチームには打力のあるチームが多く、かつシーズン中以上に集中力も増す中で、打者を圧倒するような力がないと抑えきることが難しいためと推測されます。特にクローザーは3チームとも球界を代表するクラスの選手を有しており、短期決戦の接戦を勝ち切るためには支配力のあるクローザーは欠かせない存在なのでしょう。

守備力という点も注視してきましたが、UZRがリーグワーストであったり、二遊間のUZRが低くとも勝ち上がっていることから、あまり関係ないことが分かります。投手陣の支配力がより高まるため、守備力の関与するスペースが狭くなってしまうためなのでしょうか。

また、3チームいずれも突出した攻撃力は有しておらず、どちらかと言うとウェイトは投手陣にあるように感じます。2017年の広島、2019年の西武と高い野手力を有したチームを破っていることから、それは間違いないでしょう。野手力で負けていても、支配力のある投手陣で逆転することが出来るのが短期決戦ということでしょうか。

ここまで見てきたものはあくまでCSを勝ち上がるまでの特徴で、2014年阪神と2017年横浜は日本シリーズを勝ち抜くことは出来ていません。豊富な野手のタレントと鉄壁のリリーフ陣を誇るソフトバンクが、シーズンのピタゴラス勝率は低いながらも日本シリーズも勝ち上がることが出来るのか、要注目です。

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