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高卒投手がローテに定着するまで

今年のドラフト戦線を賑わせている投手を挙げるとすると、真っ先に名前が挙がるのが、大船渡高校の佐々木朗希と星稜高校の奥川恭伸の2名ではないでしょうか?

特に奥川は、延長14回に入っても150㎞台を計測するストレート、パワーカーブのような軌道で滑り落ちていくスライダー、140㎞台も記録するフォークを武器にプロの投手顔負けの投球を甲子園で披露し、プロに入っても即ローテ入りと言わしめるほどの完成度でした。

実際、高卒でプロ入りした投手が早々にローテに定着するケースは、今季で3年目を迎える山本由伸・今井達也・アドゥワ誠・種市篤暉らが既に定着しているように、以前より増加しているように感じます。

そんな中でも特徴的なのが、二軍で先発ローテを回り、経験を積んだ後に一軍ローテに定着という手順ではなく、山本由伸やアドゥワに代表されるようにリリーフ投手という形で一軍に定着し、レベルの高い打者との対戦経験を踏んだ後に転向するケースが出てきている点ではないでしょうか?

このように先発ローテへ定着させるまでの過程が変化しつつある中、高卒投手が先発ローテに定着するまでの過程は、過去からどのような変遷を辿ってきて、どのような手法を取ると、より育成の成功に繋がるのかについて検証していきます。

1.対象投手と検証手法

まず、対象期間等の条件について定めていきますが、
対象期間:1988年~2018年(平成期)ドラフトで指名された高卒投手
対象投手:現役期間内に15先発/シーズンの達成投手

という条件にて対象投手を選定していきます。

上記条件から対象投手を選定すると、下記表①のような投手達が対象となります。

年代別に見ると、2006年に田中将大や前田健太を中心としたハンカチ世代が入団して以降、安定して3名前後の投手が毎年のようにローテへ定着していることが分かります。

もしかすると、何か高卒投手をモノにするメソッドを、各球団が身に付けつつあるのかもしれません。

また、検証手法は
①キャリアで初めて15先発/シーズン以上を達成するまでにどのような過程を辿ってきたか
②達成後はどのようなキャリアを送ったのか

という2点から、どのようにして高卒投手が先発ローテへ定着していき、そこまでの過程がその後のキャリアにも影響してくるのかについて確認していきます。

2.先発ローテ定着まで

まず、上記①の15先発/シーズンを達成するまでにどのような過程を辿ってきたのかのついて検証していきます。

15先発/シーズンを達成した経験のある84投手を、プロ入り後何年かけて達成したのかについて一覧にしたものが表②です。

10年以上の時を経て達成する遅咲きの投手もいますが、おおよそ8割の投手は5年目までに達成するという点から、5年目の23歳のシーズンを迎えても先発として一軍に定着できないのであれば、リリーフ転向等の処置が必要となってくるのでしょう。

続いて、達成前年にどのような登板傾向を示し、翌年先発ローテ定着まで至ったのかを確認していきます。

表③に達成年数ごとの前年の一軍での登板数と先発数をまとめてみましたが、思ったよりも前年の一軍登板が先発メインの投手はおらず、一軍登板の半分以上が先発登板であったのは42.8%(前年一軍登板0の投手は除く)と、全体の傾向としてはリリーフ登板も重ねながら、まずは一軍レベルの打者との対戦経験を積み重ねていくようなものであることが分かります。

山本由伸やアドゥワのような一軍のリリーフとして戦力になっていた例は、石井一久や大竹寛もその例に当てはまるため、決して真新しい育成方法ではないことも分かります。

全体の傾向としては上記の通りですが、パッと見で達成年数によっては前年の登板数と先発数の関係にバラツキがあるように見えるので、達成年数ごとにどのような傾向にあるのか以下にて確認していきます。

達成年数ごとに登板数に占める先発数の割合を示したものが表④となりますが、ハッキリとした傾向として2年目に達成した投手については、75%と圧倒的に先発数の割合が高いことが分かります。

2年目に達成した投手の内訳を見ると、ダルビッシュ有・前田健太・大谷翔平といったMLBに渡ってもなお先発投手として活躍し続ける投手や、今中慎二・涌井秀章などエースクラスとして活躍する投手も多く、期待値の高さやそれに準ずる能力の高さが認められて、英才教育的に一軍での先発登板をメインとした登板傾向となるのでしょう。

その後、3年目以降はグッと数値が低下し、5年目までは30%台の数値で推移しています。

この辺りの年数で台頭してくる投手については、2年目に達成した投手とは違い、ある程度計画的に育成されているような傾向にあるのではないかと感じます。

3年目~5年目に達成した投手の登板傾向推移をまとめてみると、私の実感と同様の傾向が見て取れます。

1年目は一軍での登板数自体が少なく、二軍で時間をかけて育成され、その後は年数を経るごとに先発に限らず一軍登板数を増やし、経験を積ませるような傾向にあることが分かります。

5年目は3~4年目とは異なり、1~2年目時に先発登板の割合が高く出ていますが、5年目は斉藤和巳・河内貴哉・増渕竜義・岩嵜翔・中村勝といったドラフト1位入団の元々期待値の高かった投手が多かったために、先発割合が高く出ているのでしょう。

簡単にまとめると、3~4年目についてはリリーフから徐々に経験を積ませるような、ある程度計画的に育成を図った上で達成しており、5年目については同様の傾向は見られますが、元々期待値の高い投手が多く、早々に先発投手として活躍を期待された分、多少育成が遅れて5年目の達成となったのではないでしょうか。

6年目以降になると、千賀滉大・小林宏之・山口俊・平井正史など元々リリーフとして戦力になっていた投手も多く、育成というよりは立ち位置を変えてあげることで、本来持っていたポテンシャルを引き出させるような形なのでしょう。

このような形になってしまうのは、チーム事情もあるでしょうが、ポテンシャルを読み間違えたという側面もあると考えられます。

それとは別に、小野晋吾や戎信行など一軍二軍を行き来していて燻っている投手が、突如開花するケースもあります。

そのようなケースについては、計画的な育成が成功したというよりも、何か一つのアドバイスなどをキッカケに飛躍するケースが殆どでしょうし、何か特筆すべき過程は認められません。

6年目以降については、育成過程がどうと言うよりは、役割やコーチ等何かを変えてあげることが能力の開花に繋がっているような形となっています。

以上のローテに入るまでの過程の部分を簡単にまとめると、ドラフト1位入団で後にエース格への成長を期待できるような投手については、早い段階で一軍で先発の経験を多く積ませているが、それ以外の投手は先発のみならずリリーフも経験させながら、ローテ入りまでは段階を踏ませている、ということとなるでしょう。

3.先発ローテ定着後

では、先発ローテに入ることに成功した対象投手たちは、その後完全にローテに定着することはできたのでしょうか?

対象84投手の1〜3年後に15先発を続けている確率は、1年後で55.0%、2年後で43.8%、3年後で43.7%と、3年後まで先発に定着している投手は半数程度の数値となっています。

3年後には数値が半減していることから、長期に渡りローテに定着することの難しさは分かりましたが、そこにローテ定着までの過程の影響はあるのでしょうか?

2章で確認した先発へ定着するまでの過程を分類すると、一軍にて先発としての経験を積ませるパターンと、最初はリリーフから入り、徐々に先発へとシフトしていくパターンの2パターンが存在するように見えます。

それに加えて、二軍で経験を積んでそこから一気に先発に定着するパターンもあるため、正確には3パターンとなるでしょう。

この3パターンを達成年数ごとに確認していくことで、ローテへ定着させるにはどのような過程を経るべきなのかについて確認していきます。

3パターンについて、それぞれ達成率等をまとめたものが表⑦となります。

一軍で主に先発を務めるような過程を辿った投手については、4年目までにローテに定着した投手が3年後も継続的にローテに入っており、4年目までに定着することが一つタイムリミットとなっています。

リリーフを務めながら経験を積んだ投手については、各年で割合満遍なく3年後も継続的にローテに入っていますが、6年目以降の投手は上述のようにリリーフではオーバースペックであった投手であるため、こちらも極力3年目までにリリーフとして一軍で経験を積んだ後に、先発に転向することが望ましいと考えられます。

二軍でじっくり育成するにしても、4年目以降に定着者がほとんどいないことから、ローテに定着するには時間的に然程余裕があるわけではなく、3年目までには一軍で爪痕を残しておかなければ、ローテに定着することは難しいことが分かります。

以上の結果をまとめると、

①どのような育成過程を辿っても、4年目には15先発を達成することがローテ定着への条件
②一軍で先発起用しながら育成する場合は、2年目に早々に抜擢するか、4年目に定着させることを見越して段階的に登板を増やしていくような手法を取るべき
③リリーフ起用で一軍の打者との経験を積ませながら育成する場合は、2~3年目には一軍で相応量の経験をさせながら、実力を磨かせるべき
④二軍でじっくり育成する場合は、2年目までに一軍で通用すべき実力を身に着けさせるべき

となるのではないでしょうか。

ただ、数値ではこのように出ていますが、あくまで傾向であり、全員が全員これに当てはまるわけではないことは良く頭に入れておくべきです。

4.まとめ

以上の検証から、様々な育成過程はありますが、どれをとっても4年目までには先発ローテの一員に加わる必要があり、高卒投手とはいえども悠長に過ごしている余裕はないことが分かりました。

かと言って、早々に抜擢をしたところで、身体が出来ていない状態ではそれが故障に繋がるリスクもあるわけで、4年目が一つリミットにあるという傾向を抑えながら、各投手の現状の力量やポテンシャルをきちんと把握して育成すべきでしょう。

今季も高卒二年目の遠藤淳志(広島)、平良海馬(西武)がリリーフとして一軍経験を積んでいますが、この経験が彼等にとって将来的にプラスに反映されることを祈るばかりです。

#野球 #プロ野球 #投手 #先発 #ローテーション #高卒

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