見出し画像

鈴木誠也の本塁打と打点はなぜ伸び悩んだのか?

丸佳浩が抜け、名実ともにチームの顔となった鈴木誠也ですが、打率.335で首位打者、出塁率.453で最高出塁率の二冠輝くなど、自身初の打撃タイトルを獲得し見事中心打者としての役割を果たして見せました。

その一方で、自己最多の140試合という出場試合数を数えながら、本塁打は前年より2本減の28本、打点は7打点減の87打点と数値を落としてしまいました。特に打点は周囲の打者に左右されやすい指標とはいえ、打線の軸として得点と直結するような指標を伸ばせなかったのは、得点力に苦しんだ今季の広島を象徴するところかもしれません。

そもそも2019年シーズンは、5月終了時まで打率.351/15本塁打/41打点という成績を残し、坂本勇人と三冠王を争うくらいに打撃三部門の成績は突出していたにも関わらず、なぜ最終的には昨年以下の本塁打数と打点数に落ち着いてしまったのか。その要因について考えていきたいと思います。

1.年度間比較

まずは今季がどのような成績であったのかを、年度別成績の比較を基に明らかにしていきます。

画像1

画像2

大きく飛躍した2016年以降の打撃成績を並べたものを見ると、今季の成績の特徴としては①アプローチの向上②センター中心の打球方向の2点が挙げられるのではないでしょうか。

①アプローチの向上については、昨季自己最高を記録したBB%=16.9とほぼ同等の16.8をマークしながら、K%を22.3から13.2まで大幅に減らすことに成功しています。コンタクトヒッターが記録することの多い三振喫する割合が四球を選ぶ割合が上回るアプローチを、長距離打者である鈴木が記録している点は特筆すべき点ではないでしょうか。

②センター中心の打球方向については、過去3年Pull%が40%台を記録するなどプルヒッターの様相を呈していましたが、今季は34.9%(12球団中33位)までPull%が低下するとともに、Cent%が44.4%(12球団中3位)まで上昇しています。そのセンター方向への打球のOPSも1.166で12球団3位と、他の打者以上に強い打球を打ち返せていたために打率を伸ばすことが出来たのでしょう。強い打球を打つには引っ張ることが一番ですが、あえて基本に忠実にセンター方向に強い打球を打ち返すことが、他の打者との差別化に繋がったということでしょうか。

前年は足首の故障が完全に癒えず機動力を使えない中で、パワーに特化した打撃となっていましたが、打率を.320から.335に上昇させたように、三振を減らしセンター返しを意識するようなアベレージ寄りの打撃スタイルへ転換していたことが以上より分かるかと思います。

2.2019年時期別比較

今季の鈴木の打撃の変化については過去に2本のnoteを上げましたが、1本目は昨季まで引っ張り中心だった打撃がより広角に打てるようになったという打撃の進化について。2本目はパリーグの徹底的な対策に屈し、交流戦以降陥った打撃不振について。このような鈴木の進化や不振について、追っていきました。

ではその後、鈴木の打撃はどのような推移を見せたのでしょうか?時期別に区切って1章より細かくその打撃の変化を追っていこうと思います。

画像3

交流戦を境に打撃成績を区切ったものが表③となりますが、不振に苦しんだ交流戦を経て、打撃成績の中でも明らかに変化が生じている部分があります。それは長打力の部分です。交流戦前では51試合で15本塁打を放っていたのが、交流戦後は71試合で10本塁打と大きくペースダウンしました。その分二塁打は増えていますが、ISO*は12球団No.1レベルの.303から中距離砲と長距離砲の中間レベルの.195まで落ち込むこととなっています。そんな中でも打率は.352をマークしていることから、交流戦以降にアベレージ型の打撃スタイルへの転換が生じていることが分かります。

※ISO‥長打率-打率で計算される指標 純粋な長打力を示す

画像4

もう少し細かな指標で成績推移を追っていくために、月別の打撃成績を細かな指標にて追っていくと、FB%は常に50%を超えるなど元々のフライボールヒッターという性質には変化がなく、7月のみ引っ張りの傾向が強かったものの、それ以外はセンター方向中心の打撃という特徴が出ています。ですので、打者としての性質はシーズン途中で何か変わったわけではないことが分かります。

また、Hard%が6月以降は40%を超えたのが一度のみと強くボールを叩けなくなり、かつ打球性質がフライ時のOPSが2018年の1.505から1.105へと大幅に低下していることから、いわゆるバレルゾーン*に打球を飛ばせなくなったのではないかと推測されます。これが長打減に大きく結びついたのでしょう。

※バレルゾーンとは‥そのゾーンに入った打球は打率5割、長打率1.500を超えるという打球速度と打球角度の組み合わせで、最低でも打球速度は158㎞必要でその際の打球角度は26~30度の範囲のみだが、打球速度が上がるにつれてバレルゾーンとなる打球角度は広がっていく。参照:注目の指標バレルとは?打球速度と打球角度の重要性(https://www.baseballgeeks.jp/?p=1342)

このように長打減となった背景としては、おそらくつなぐ意識を強く持っていたことが大きいのではないかと考えられます。上記記事中にも「最初の方は自分が打たないとという思いが強かった。でも途中からとにかく塁に出ればそれでいい、つないでいこうという意識に戻った。そこを変えられたのは良かった」とのコメントが記載されており、そのような意識を強く持っていたことが窺えます。

推測ですが、バティスタや西川龍馬といった前後の打者の不振や、チーム状況の落ち込みを見て、自分が決めようという意識を強く持っていたことを逆手に取られた交流戦を契機に打撃スタイルを転換したのではないでしょうか?交流戦後の長打は少ないながらも打率は.352をマークし、K%も11.3%まで減らしている打撃成績からも、交流戦が転換点となったことを窺い知ることができます。

昨季までとは違い、主砲である鈴木を強力に補佐する丸佳浩のような安定感のある打者が今季はいなかったために、鈴木の打棒がチームの浮沈を左右するような側面が少なからずありました。そんな状況の中キャリアでも最低レベルの打撃不振に陥ってしまったため、いち早くチームに貢献できる状態を上げるためにアベレージ型のスタイルへ転換するという判断に至ったのではないかと考えられます。またシーズン序盤の打撃の状態が良すぎたために、逆に崩れた時に歯止めが効かなくなったという面もあるのではないかと考えられます。

このようなスタイルの転換に際して、打撃メカニクスにも若干の変化が生じていたように見受けられます。

画像6

上3枚が交流戦まで、下3枚が交流戦終了後の鈴木誠也の打撃フォームを比較したものです。打撃メカニクスの中でいわゆるトップと呼ばれるフェーズについて並べてみました。下の3枚を見ると、8/4のものは上3枚と比較して体を捻り切れておらず、力の元となる捻転差を作り出すことが出来ていません。8/20と9/1については上3枚と比較すると、分かりづらいですがグリップの位置が若干上に来ており、上から叩こうとする意識の強さを感じます。ただこれにより打球に角度を付けづらくなったのではないでしょうか。この辺りも長打減に影響しているのではないかと思われます。

また、交流戦以降は豪快なフォロースルーを見せるシーン(今季6号や7号のような)が減ったようにも感じますし、コンパクトさを意識していたことが何となく垣間見えます。

3.なぜ本塁打と打点が伸び悩んだのか?

最後に本題である「なぜ本塁打と打点が伸び悩んだのか」という点について、考えていきます。

本塁打については、上記のように交流戦を境にしてつなぐ意識を強く持ったことによる、アベレージ型への打撃スタイル転換が大きいのでしょう。その一方で打点については、前後の打者に左右される側面が強く、上記のみだと説明が付かない状況です。ですので、以下にて前後の打者の成績の変化についても確認していきます。

画像5

昨季と今季の鈴木の前後を打った打者の打撃成績を比較したものを見ると、前を打つ打者の打撃成績の低下が顕著に現れており、OPSでは.293も低下しています。やはり丸の出塁力と長打力が抜けたのが非常に大きいということがよく分かります。一方、後ろを打つ打者の成績はほとんど変わっていません。という点から、前の打者の打撃成績の大幅な低下により走者を置いて打席を迎えるケースが減少し(昨季は280打席/124試合に対し、今季は285打席/140試合と割合的には減少している)、かつよりマークが厳しくなったことも打点数に影響を与えたのでしょう。

打点の源となる得点圏での成績についても、昨季の158打席で56打点(打率.276)から今季は177打席で56打点(打率.285)ですから、得点圏での成績が打点数に影響したとは言えないものとなっています。

以上より、打点については、長打減のみならず前を打つ打者の出塁力を含めた打力の低下が影響を与えていたのではないかと推測されます。

ここから、本題の「なぜ本塁打と打点が伸び悩んだのか」という点についての答えは、前の打者の打撃力低下と鈴木自身のつなぎを重視した長打を捨てる割り切りのためと言えるのではないでしょうか。途中不振に苦しむ中で、その期間を極力短くし、鈴木が考えるチームに貢献できる最良の形がアベレージ重視のスタイルだったのでしょう。

以上のように、センター中心に広角に長打を打ち返していくスタイル→徹底マークで打撃を崩された交流戦→長打の意識を捨てアベレージを重視するスタイルという変遷を辿った今季の鈴木誠也ですが、個人的にはこのような成績で終わってよい選手ではないと思っていますし、もっともっと高みを目指してほしいと思います。

ただプラスに捉えると、打者としての新たな引出しを増やした一年とも言えるでしょうし、シーズン中でも打撃スタイルを変えるような調整がきくレベルの打者とも言えます。前後を打つ打者も含めてチームメイトのサポートは必須ですが、来季はアベレージスタイルにパワースタイルを加えた今季序盤のような打撃を一年維持して、今季の坂本のような三冠王に近い成績を残し、MLBへの道を切り開くことを切に願っています。

#野球 #プロ野球 #広島 #カープ #鈴木誠也 #本塁打 #打点

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?