今村猛

不屈の男・今村猛

勝ちパターンを担っていた一岡竜司・中村恭平が相次いで戦線離脱し、開幕から好投を続けてきたレグナルトもここにきて疲労感が拭えず、接戦を勝ち切る体制が崩れつつある中、救世主のごとく一軍の舞台に帰ってきたのが今村猛です。

7/3に遅めの今季初登板を果たして以降、無失点投球を続け、瞬く間に勝ちパターンに近い位置まで上り詰めました。

過去数年の勤続疲労からか、昨季は夏場前から失速し、ストレートの球速も落ちつつあった中で、この復活は驚嘆を感じずにはいられません。

どのような変化があって、ここまでの復活を遂げることが出来たのかについて、以下にて考察していこうと思います。

※成績は7/24終了時点でのもの

1.昨季の不振

2016年、2017年はそれぞれセットアッパー/クローザーとして、チームのリーグ優勝に大きく貢献しましたが、昨季は43試合の登板にとどまり、防御率も5.17と大きく成績を落とし、シーズン終盤は二軍で過ごすことも多くなりました。

では、なぜ昨季ここまで不振に陥ってしまったのでしょうか?

以前noteにまとめましたが、その要因としては下記の点が考えられます。

①ストレートの球速低下

2016年からのストレートの球速/wFA推移をまとめたものですが、セットアッパーとして復活を遂げた2016年以降、年々球速が低下しているとともに、wFAも比例して低下していることが分かります。

2016年の67試合登板や2017年の68試合登板に加え、日本シリーズでの6連投など、登板過多な状況が続いたため、勤続疲労によりこのような球速の低下が生じたのでしょう。

ストレートが配球の軸となる投手なだけに、球速の低下は以下のようなフォークへの依存という投球の歪みを生んでしまいました。

②フォークへの依存

2013年以降、低迷を続けた今村のキャリアに再び光をもたらしたのは、ストレートの復活とフォークを自身の武器と言えるレベルまで磨き上げたことでした。

2016年には、ホップ型のストレートと鋭いフォークの組み合わせで、凡打の山を築いていきましたが、前年の疲労の影響から生じたであろう2017年の球速の低下により、フォークへの依存度を高めることで、投球のクオリティー維持に努めました。

球種配分を見ると、フォークの投球割合が前年から16.2%も増加していることから、依存度を高めたことがよく分かります。

そのためか前年まではフライボールピッチャーの傾向を示していたのが、2017年だけはグラウンドボールピッチャーの傾向を示しており、投球全体の空振り率を示すSwStr%も14.7%まで上昇しています。

シーズン途中より、クローザーに就任したことから、リスク回避の意味もあってのフォーク依存だったのでしょうが、2018年にはさらに球速が低下したことで、このような一時しのぎ的な投球スタイルもあっさり通用しなくなってしまいました。

2018年の数値を見ると、球速の低下もさることながら、ボール球には手を出してもらえなくなり、コンタクト率の上昇とともに空振り率は低下と、厳しい数値が並んでいます。

昨年時点でまだ26歳と若いながらも、20代前半に次ぐ2度目の大幅な投球内容の劣化により、今度こそ今村の命運も尽きたかと多くのファンを思わせるところまで落ち込んでしまいました。

2.今季の復活

26歳時点で球速の低下が生じ、今後のキャリアに暗雲が立ち込めていたことが上記より分かるかと思いますが、2019年シーズンの現時点では未だ無失点投球を続け、それが解消に向かいつつあります。

一体今村にどのような変化があったのかについて見ていくと、以下のような点が挙げられると思います。

①球速の上昇

昨年の時点で、球速が年々低下していることは上記の通りですが、それが今季上昇に転じています。

昨季には142.6㎞まで球速が低下していますが、今季ここまで7試合の登板ながら144.1㎞まで球速を戻しています。

これにより、空振り率も3.8%から6.6%へと上昇し、ストレートの威力が復活しつつあることが分かります。

また、この球威の復活を受けてか、ストライクゾーンで積極的に勝負が出来ており、Zone%が42.4%から47.3%まで上昇し、BB%もここまで0%と、昨季の12.1%という数値から見違えるような変化を見せています。

ピッチングの基本はストレートとは良く言われたものですが、やはりストレートの球威が戻るだけで劇的にピッチングも変わってくることが分かるでしょう。

②球種割合の変化

昨季までの球種別の投球割合を見ると、ストレートを5割前後、スライダーを2~3割、フォークも2~3割という投球割合でした。

それが、今季の投球割合を見ると、ストレートは48.4%とほとんど変わらりませんが、スライダーが49.5%まで上昇しており、フォークはわずか2.2%とストレートとスライダーの2ピッチの投球となっていることが分かります。

元々、高校時代から鋭いフォークを取得した2016年以前までは、ストレートと縦に割れるスライダーが主体の投球でしたが、ここにきてもう一度原点回帰の投球を披露しているわけです。

上記リンクの動画を見ても分かりますが、左右の打者どちらでもアウトサイドに縦スラをコマンド良く沈めており、打者側からは対応が難しいボールとなっています。

このように縦スラのみの球種を絞った理由としては、フォークへ依存し過ぎたためか、球速の低下の影響からか、フォークが各打者に対応されてきたことが大きいのではないでしょうか。

上記表③を見ると、wSFや空振り率は昨季急落しており、見事に対応されていたことが分かります。

その一方で、昨季の6月末に一度二軍に落ちた後、8月頭に一軍復帰を果たした際には、フォークよりも縦スラを多く投じており、それも決め球としてきっちり機能していました。

その辺りも鑑みて、縦スラ主体の投球へと移行したのでしょう。

現在のプロ野球界を席巻する「スラッター」も、この縦スラを更に高速化したようなものですし、それに近い質のボールの割合を増やしたという点で考えると、しっかりトレンドにあった投球スタイルになっているわけです。

3.まとめ

・昨季の不振
勤続疲労の影響によるストレートの球速低下により、フォークへの依存が強め、投球クオリティーの維持に努めたものの、球速低下が続きわずか1年でその投球スタイルは瓦解した
・今季の復活
球速の上昇により、積極的にゾーンで勝負できるようになったとともに、昨季の時点で通用していた縦スラの投球割合を大幅に増やし、通用する球種のみに絞ることで、コマンド抜群の安定した投球が可能となった

以上が本noteのまとめとなります。

このように2度目の復活を果たした今村ですが、過去に2度潰れかけてしまったのには、間違いなく酷使の影響があるでしょう。

そこから、何か投手運用が改善されたわけではないため、このままのクオリティーの投球を続けていると、間違いなく再び酷使の対象となってしまう恐れがあります。

せっかく、ここまでのボールを取り戻してきただけに、もう一度無理な起用によって潰してしまうことはあってはならないことです。

過去の歴史からいい加減学んでもらいたいものですが‥

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