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そのイラストに、なにを見ているの?

そのイラストに、なにを見ているの?
特徴的な横顔の女性、シンプルと複雑が同居するその"世界"をじっと観ているうちに、心の中に言葉が浮かんできた。
ぼくは、なぜこのイラストが好きなんだろうか。
このイラストになにを見ているのだろう。

先日、夏休みを利用し、イラストレーター中村佑介氏の展覧会に行ってきた。

中村佑介とは、ロックバンド「ASIAN KUNG-FU GENERATION」(アジカン)のCDジャケットや、森見登美彦・著『夜は短し歩けよ乙女』などの書籍カバーなどを手がける人気イラストレーター。
その大規模な展覧会『中村佑介展』が、7/15(土)から9/18(月)まで、大阪芸術大学スカイキャンパスで開催されていた。

http://www.osaka-geidai.ac.jp/geidai/kh/ny15/

中村佑介本人曰く「人生初の大展覧会」であり、「人生最後の大規模展」。彼が活動をスタートしてから15年周年を振り返る、まさに”ベストアルバム的”展覧会だ。さらに開催場所は、彼の母校である大阪芸術大学のスカイキャンパスで、本人が10年間住んでいた街にできた「あべのハルカス」。
そこは、"過去"と"現在"、そして、"これから"が交差する空間だった。

圧倒的な"情報量"と熱量を感じる数々の作品をゆっくりとゆっくりと見ていくうちに、自分自身も、現在から過去へ流れていくように感じた。

イラストを初めて見たときの衝撃、CDジャケットをぼーっと眺めていた実家のひとり部屋。机の横にかけたカレンダー。
ひとり暮らしの部屋に飾ったポストカード。イラストをきっかけに読み始めた本。母の日に、"頑張ってます、これからもよろしく"とだけ書いて送った「通天閣」が描かれたポストカード。ドキドキしながら並んだ紀伊國屋梅田での画集のサイン会。何度も通った味園でのトークイベント…

イラストとともにあったあの日々の、においと、感覚と、考えていたことが蘇ってきた。
イラストを観ながらぼくは、過去をみていた。過去の自分を思い出していた。

すると、なぜこのイラストに惹かれるのかが、少しずつ輪郭を帯びてきた。
武田砂鉄さんの解説の手引きもあったかもしれない。
絵をみる素養のないぼくが、この横顔を好きな理由が、やっとわかってきたのだ。

か弱く見えるけれど、強い意志をもった女性の横顔は、見れば見るほど美しい。身体の曲線も綺麗だ。そして女性の周りにあるモチーフは、彼女の物語を感じさせる。
はじめ、女性の美しさへの興味なんだと思っていた。
だけど、過去と現在を漂ううちに、その感覚は、少し違うと思えてきた。憧れに近い。ぼくはこの横顔に、この世界に、"自分にないもの"を見ている気がするのだ。
未来を向いて、進まんとする意志の強さは、じぶんに足りていない部分でもあるし、こうなりたい像だった。
きっとはじめの衝撃は、そこにあったのかもしれない。言葉のない絵の中に感じる意志に心を動かされたのだ。

ぼくは、そのイラストに、過去をみていた。なりたいじぶんをみていた。
イラストを見ながら、自分自身を見ているのだ。
そのメディアは、女の子の顔をした、鏡であり、見えてなかったものを照らすライトのように思える。


そんなことを思いながら眺める、あべのハルカスからの景色は、少しだけ街の色がクリアに見えた。

#日記 #コンテンツ会議 #イラスト #中村佑介

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