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2017年 ヒップホップ・ベスト10

2017年のヒップホップのベストを10枚選び、ディスクレビューを書きました。ゴスペルや南部のソウル、ネオ・ソウルなどを導入した作品や、トラップをベースにした実験的なサウンドの作品が印象に残りました。ギターや管楽器などの生演奏を使った曲が多く見られた気がします。

1.Stormzy『Gang Signs & Prayer』

ロンドン出身のMCのデビュー作。シンセのループが強烈な"First Things First"を始めとするグライムだけでなく、ストリングスが感情の揺れ動きを伝える"Don't Cry For Me"など、生の管弦楽を使った楽曲が聴けるのが特徴だ。オルガンやクワイヤとMNEKの歌声が一体となり高揚感を生む"Blinded by Your Grace, Pt. 2"などのゴスペルがもう一つの特徴。ケラーニが艶っぽく歌う"Cigarettes & Cush"や、本人の独り言のような素朴な歌が温かい"Velvet"など、歌を主役にした曲の完成度も高く隙がない。

https://youtu.be/6nihV_JUiz4

2.Kendrick Lamar『Damn.』

コンプトン出身のMCの四作目。全曲が高いクオリティを誇っており、独立した話が並ぶ連作短編のように感じる。逆順で再生しても成り立つというのが頷ける構成だ。各楽曲は少ない音数で、ミニマルな繰り返しをベースに作られているが、目まぐるしい音の抜き差しや複数回のビートチェンジによって重層的な印象をもたらす。"DNA"での左右から飛んでくる声や、"Lust"でのギターのフレーズと逆回転を織り交ぜた独特のビート、"Pride"での震える歌声とカモメの鳴き声のようなサウンドなどが記憶に残る。

https://youtu.be/Dlh-dzB2U4Y

3.Little Simz『Stillness In Wonderland』

ロンドン出身のMCの二作目。グライムをベースにしているが、オリエンタルな響きのギターや、打楽器、鍵盤楽器、管楽器などを用いたカラフルな音使いと、空間的でサイケデリックな音像が独創的だ。"Poison Ivy"での唸りを上げるギターと炸裂するパーカッションにラップが交わるさまはスリリング。シーラ・モリス・グレイのトランペットが壮大な旋律を奏でる"King of Hearts"や、フルートが主役の"Zone 3"、サックス・アンサンブルが幻想的な"Our Conversations"など、管楽器のアレンジも魅力。

https://youtu.be/Yfy2UQnWQOw

4.Smino『Blkswn』

セントルイス出身でシカゴで活動するMCのファースト。レイドバックしたノリから超高速まで、喋るだけでグルーヴを生む楽器のようなラップと、味のある嗄れた歌声を行き来する縦横無尽なヴォーカルに圧倒される。"Spitshine"など太く低いベースが主役の曲と、"Netflix & D’usse"など跳ねるキックの連打が主役の曲を中心に、レゲエや四つ打ち、スウィングもありビートは幅広い。切ないファルセットや甘くソウルフルなバック・ヴォーカルも魅力で、ネオ・ソウルに影響を受けたというのも頷ける。

https://youtu.be/1TW1VbInoxM

5.Big K.R.I.T.『4eva Is A Mighty Long Time』

ミシシッピ州出身のMCによる二枚組のサード。1枚目ではトラップやサウスのビートとソウルフルな生演奏を融合。"Subenstein (My Sub IV)"での感情を解放するソロや、"Layup"での静かに燃えるソロなど、ギター・サウンドが印象的だ。2枚目ではバンド編成の曲も登場し、濃厚なゴスペルやソウルを聴かせてくれる。豪華ヴォーカル陣の中で、ロリン・アンダーソンの味わい深い歌声が存在感を放つ。シェドリック・ミッチェルのオルガンや、キーヨン・ハロルドのトランペットなど、演奏の見せ場も多い。

https://youtu.be/wkT0Q8y_xkM

6.Future『HNDRXX』

アトランタ出身のMCの六作目。トラップを基調にしているものの、ソウルやカリブ、ダブ、インダストリアルに、ブラジル音楽を感じさせる箇所もあり、音楽性が幅広い。スネアの音色とベースの震えに耳を奪われる"Damage"や、聖歌のような声が空間を覆う"Use Me"のサウンドには驚いた。ギターやピアノなどの生楽器をメインに据えた曲も。胸を締め付けるような切ないメロディなど、エモーショナルな表現も多い。古き良きアメリカをイメージさせる正統派の歌をリアーナと歌う"Selfish"も記憶に残る。

https://youtu.be/PWjRMuyXl2o

7.JJJ『HIKARI』

川崎市出身のMC/ビートメイカーの二作目。上物とドラムという区分けがなく、楽器の音とドラムを組み合わせて複層的なリズムを構築。トラップとジュークの間を行くような感覚がある。一音一音細切れに発声されるラップはビートと一体化して聴こえる。様々な音色のギターの断片が左右から降り注ぐ"EXP"と、雷鳴のようなギターと鋭い金属音が鳴り響く"COWHOUSE"のリズムとサウンドには打ちのめされる。反対にレイドバックした曲も魅力的で、"MIDNIGHT BLU"でのEmi Meyerの切ない歌声には抗えない。

https://m.youtube.com/watch?v=eJeGa79-Tb4

8.2 Chainz『Pretty Girls Like Trap Music』

ジョージア州出身のMCの四作目。冒頭の"Saturday Night"の重めのピアノと泣きのギターが生み出す感傷的な空気感に一気に引き込まれる。鍵盤のループを使ったトラップが多いが、70年代ソウルや爽やかなロック、レゲエなど音楽性は幅広い。マイク・ディーン作の"Good Drank"でフックにさり気なくシンセ・ストリングスを挟むアレンジには唸らされた。客演陣では"Realize"でのニッキー・ミナージュの貫禄の歌とラップと、"It's a Vibe"でのジェネイ・アイコの甘く蕩けるようなコーラスが印象に残る。

https://youtu.be/hXs1fWCgOW4

9.Drake『More Life』

トロント出身のMCによるプレイリストと銘打たれた作品。ヒップホップにハウス、トラップ、ダンスホール、バウンス、レゲエ、アンビエントR&Bと様々なリズムを使い、ゲストをメインにした曲を随所に配置。盛り上がりの山はなくフラットだが、長尺の作品でも飽きさせない。ハイエイタス・カイヨーテをサンプリングした"Free Smoke"を始めに、ループだけで聴かせるのも上手い。ジョージャ・スミスが切なく歌い、シンセの広がりと洒落たピアノに夏の夜のイメージが浮かぶ"Get It Together"がベスト。

https://youtu.be/V5fIsEu8fAk

10.Lil Uzi Vert『Luv Is Rage 2』

フィラデルフィア出身のMCのデビュー・アルバム。展開ごとにシンセの音色を次々に変えて行く"Feelings Mutual"が特徴的だが、シンセや鍵盤の音色とメロディを軸にした曲が多く、ヴォーカルなしでも成り立つエレクトロという印象を受ける。反対にビートが正統派のトラップで、本人のラップの音程が主役となる曲もある。ベースしか鳴っていないようなビートや、極端なエコーなど一癖ある曲が多い中、"Lil Uzi Vert"でのウィークエンドのセクシーで綺麗なヴォーカルが良いアクセントになっている。

https://youtu.be/EepkVbNveX0