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旅物語【韓国・原州(ウォンジュ)編】

ソウルは飽きることがないほど観光するところも多い大都市だ。
しかしたまにはソウル郊外にも足を伸ばそうと考えた。
日本ではまだあまり知られていない原州市(ウォンジュシ)だ。

韓国で一番スリリングな観光地

今回は軽い気持ちで出かけたシニア男の韓国旅物語だ。
定年退職して時間だけには不自由しないが、年金暮らしなので旅予算も節約した貧乏ひとり旅だ。

格安航空券で行く韓国

高速バスで神戸の三宮まで出た。
兵庫県北部の自宅から車でバス停まで行き、車を置いて高速バスに乗った。
もちろん駐車場は無料だ。

バスの料金は片道2,850円なので特急列車を使うよりは安い。
2時間ほどで到着したから時間的には特急列車を使うのと変わりない。
家を11時に出て三宮に着いたのは13時18分だ。

神戸三宮からは14時のシャトルバスで関空に向かった。
関空第二ターミナルには15時過ぎにほぼ時間通り到着した。

飛行機は初めて使う日本のLCC、ピーチ航空だ。

MM709便の出発時間は18時なので充分余裕はある。
機材はエアバス320neoで片側3列の座席が前後に27列ある。
チェックインをしてみなければ分からないが、もちろん最後部の席だろう。

第二ターミナルのベンチに座り三宮のコンビニで買ったサンドイッチを食べた。
多くの人が行き交う空港のターミナルは想像力を高めてくれる。

大きなスーツケースを引きずっている人はこれからどこに向かうのだろうと、大きなお世話だろうことを考えたりするのだ。

私の荷物はいつも通り普通サイズのリュックひとつだ。
ただしリュックと言ってもただのリュックではない。
背負うことに加え、手さげ、更にはキャスター付きで転がすこともできる3ウェイだ。

機内に持ち込みできるサイズなので受託荷物として預け入れもしない。
街歩き用のショルダーもリュックの中に押し込んだ。

出発の2時間前になったので自動チェックインに向かう。
チェックインは早いに越したことはない。
どれだけ安いチケットだろうが、早ければ窓側か通路側かを選ぶことができるからだ。
できれば窮屈な真ん中だけは避けたいところだ。

バーコードをスキャナーにかざしてチケットを発行したが、予想通り座席を3席の中から指定することができた。

いつもなら通路側だが今日だけは窓側の席を選んだ。

いつも飛行機に乗る度に、この出発時間とはどのタイミングのことかと思う。
出発時間になっても動かない時が多いからだ。

今日だけは早く飛んでくれと願った。
やっと滑走路に入る手前まで来てまた停止した。
飛び立ったのは18時15分だった。

それでも私の思惑には間に合った。
大きな太陽が淡路島の向こうに沈むところだ。

今日の日没は18時22分だ。
その夕日が見れるのは離陸後の少しの時間だけだ。
なぜならこの時期は、上空に上がってしまえば飛行機は太陽に向かって飛ぶことになるからだ。

しかも春にこれだけ輪郭のハッキリとした太陽を見ることができるのも珍しいことだ。
春は花曇りや西の空に雲がかかることも多いからだ。

飛行機の小さな窓の縁に手の甲を付けスマホを固定した。
カメラアプリを最大まで倍率を上げ、シャッターをタップした。
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10と心の中で数えた。
いつも動画を撮影する時にやっている私なりのルールだ。

撮り過ぎを防ぎチャンスを逃さないためだが、それでも10秒は長い方だ。
地上なら夕日は目に見えて動かないため期待したほどの映像にはならないが、今回は飛行機ということもあり期待できる撮影ができたはずだ。

ソニーのα6400も持ってきたが、そのズームレンズよりスマホの倍率の方が夕日を大きく撮影できることも分かっている。

20時過ぎ予定通り韓国の仁川国際空港(インチョン)に着陸した。
日本より西にある韓国と言えども、今日のインチョンの日没は19時だったので外はすっかり夜になっている。

ソウルのチムジルバン


汝矣島島(ヨイドトウ)に近いマポにあるチムジルバン

インチョン国際空港から目的の地下鉄麻浦駅(マポ)までは普通列車で1時間12分だ。
マポ駅のひとつ手前の孔徳駅(コンドッヨク공덕역)で空港鉄道から地下鉄5号線に乗り換えるだけだ。

車窓から美しいソウルの夜景は期待できない。
電車は途中から地下に潜るからだ。
時間が遅いので車内は空いている。
電車が途中の駅に停車したときホームを歩く人達を観察してみるが、私のような年齢の人はなかなか見当たらない。
ほとんどは仕事帰りのサラリーマンか若者だ。

マポ駅に着いたのは午後10時半になっていた。
今日はホテルを予約していないのでここへ来た。
2番出口から地上に出ると片側3車線の大きな道路の歩道の上だ。

ここはヨイド島から漢江に掛かるマポ大橋を渡ってすぐのところだ。

2番出口から真っすぐに少し歩いて左に曲がった。
この辺りはどう見てもオフィス街だ。
オフィス街を抜け、商店が多くなったところで目当ての네이버한방스파(ネイボハンバンスパ)という看板を見つけた。

今夜はここの地下で明日の朝まで過ごす。
ここはソウル駅近くのシロアムサウナが閉店した後に見つけたチムジルバンだ。
日本的に言えば24時間営業のサウナ施設だ。

料金は午後9時を過ぎているので少し割高だが、それでも日本円で1,000円程度だろう。

韓国料理の食堂や売店もあるからここでやっと夕食にありつける。
関空で食べたサンドイッチだけで今まで辛抱したのはここの食堂で食べるためだ。

腹は減っているが先ずは汗蒸幕(ハンジュンマク)で汗を流す。
その後、食堂で冷麺を頼んだ。
寝るのは扉のない掘ろ穴の中だ。
湾曲した天井の高さは1m程度だろう。
そのひとり用の穴に頭から潜り込んで休む。

明日は4時に起きて5時までにここを出る予定にした。
アラームは必要ないだろう。
スマホもカメラも鍵付きのロッカーの中だ。

スマホやカメラを持って汗蒸幕に入りたくないからだ。
私の年齢になれば朝起きるより眠る方が難しい。

ソウルから日帰り列車の旅

案の定4時には目も頭も覚めていた。

もう一度汗蒸幕に10分程度入ってからシャワーをした。
リュックを背負ってこのチムジルバンを出たのは5時前だ。

来た時とは逆の方向に歩いた。
少し遠回りをしてマポ駅に向かう。
急ぐ理由は何もない。
おそらくまだ地下鉄も動いていないだろう。

朝のウォーキングも兼ねて歩いた。
ここはソウルなのだから24時間営業のカフェが見つかるかもしれない。

さすがにこの時間は車も人も少ない。
焼肉屋の看板はよく目に入るが結局24時間営業のカフェは見つからなかった。

地下鉄の駅に降りてもまだ人は少ない。
通勤時間になる前に清凉里駅(チャンニョンニ)まで行くことにした。
マポからチョンニャンニまでは乗り換えをしても30分程度だ。

チョンニャンニ駅に着いたら6時を回っていた。
とりあえずここでKTXのチケットを手に入れなければならない。

チョンニャンニ駅でKTXの自動販売機を探して歩いていると中央線の時刻表が目に入った。
何年か前、冬ソナのロケ地で有名になった春川(チュンチョン)に行った時も、この駅でITX青春(ITXチョンチュン)のチケットを買うのに苦労した記憶が蘇った。

今日の目的地はソウルの東にあるウォンジュ市(原州市)だ。
ウォンジュ市に小金山(ソグムサン)グランドバレーというトレッキングコースがある。
韓国で最もスリリングなトレッキングコースだ。

最寄り駅はソウォンジュ駅(西原州駅)だ。

中央線の時刻表を見る限りソウォンジュ駅に停車するKTXは少ない。
チョンニャンニ発の一番早いKTXが9時22分発だ。

よく見ると7時34分発のムグンファでソウォンジュまで行けそうだ。
KTXとは違い各駅停車なので時間はかかるが、それでもソウォンジュに着くのは9時だ。
一番早いKTXより1時間も早く行くことができる。

しかも料金はKTXに比べかなり安い。
KTXが日本でいう新幹線ならムグンファ号は急行列車だ。

窓口へ行って「イルニュクサミル(1631)ムグンファ、ソウォンジュッカジ」と言ってチケットを買った。
1631はこのムグンファ号の列車番号だ。
チケットには3号車25番と座席番号が書いてある。

定年退職してからも趣味で韓国語の勉強をしているが、このような時には役に立つ。
韓国語の勉強ではハングルを読むのが最も簡単だ。
話す事や聞くこと、書くことに比べれば100倍容易だと言えるだろう。
ローマ字を読んでいるようなものだ。
1ヶ月も勉強すれば読めるようになる。

読めるだけでこの鉄道の駅名は翻訳する必要がない。
서(ソ)원(ウォン)주(ジュ)と読むだけだからだ。

ホームに入ると弁当を売っていたのでキンパプ(海苔巻き)と水を買った。
トッポッキ弁当と迷ったがキンパプにした。
キンパプは日本の巻きずしと違って酢飯ではないが、ごま油が効いていて当たり外れが少ない。

列車は漢江沿いを上流向きに走る。

ソウルの郊外に出れば車窓からは田舎の風景しか目に入らない。

KTXと違って停車駅はかなり多いが、このムグンファ号の旅も悪くはない。
どれだけ韓国が近いとはいえ、文化の違う海外の列車の旅だ。

車窓から見える光景も似ているようで日本とはどこか違う。

今日はソウルからウォンジュ市への日帰り旅だ。
今夜はソウルのホテルを予約している。

チョンニャンニ駅を出てから1時間近く経ちチピョン(砥平)駅に停車した時、私の隣の空席に私と同年代の女性が乗って来られた。
キンパプを食べ終わってお尻を座席の前に少しずらし、だらしない恰好でボーッと車窓を眺めていたが座り直した。

ご婦人は私に会釈して座席に着かれた。
私も軽く会釈した。

列車が動き出した時、ご婦人が「どこまで行かれますか?」と聞いてこられた。
急だったので韓国人と話す心構えができていなかったが、何となく聴き取れた。

「ソウォンジュです」と韓国語で言ったが日本人だと思わなかったようだ。
「私は慶州(キョンジュ)に住んでいる娘の所へ行くんですが…」とネイティブスピードでまくしたてるように話してきた。

最初は「そうですか」といった簡単な韓国語で適当に返事をしていたが、段々とそうも言ってられなくなってきた。
仕方なく「シルン~」(実は)「私は日本人で韓国語は少ししか分かりません」と言った。

そう言ってもご婦人の話は終わらなかった。
これも海外旅の一期一会だと考えればいい思い出になるはずだと思った。

そのご婦人のお蔭でソウォンジュまでは早かった。

小金山(ソグムサン)グランドバレー

ソウォンジュ駅は小さいがまだ新しい明るい駅だった。
タイル張りの駅構内に妙な柱のような照明が高い天井まで伸び、天井で放射状にライトが取り付けてある。

外に出るとバス乗り場やタクシー乗り場のような場所もあるが、そのどちらも出払っているようで見当たらない。
ソグムサングランドバレーの駐車場までは2キロ程度なので徒歩でも行けなくはないが、まだ体力は残しておきたい。

しかたなくカカオタクシー(韓国の配車アプリ)でタクシーを呼ぶことにした。
アプリを立ち上げ行き先のソグムサングランドバレー駐車場をタップするとすぐにタクシーが見つかった。
他の客をソグムサングランドバレーで降ろしてこの駅に向かっていたようだ。

ソグムサングランドバレーのだだっ広い駐車場には直ぐについた。
駅に降りた人は少なかったが、この駐車場には平日にもかかわらずそこそこの車が止まっている。

さあトレッキングの開始だ。

トレッキングと言っても5キロの整備された道を周回するだけの山歩きで、登山靴までは必要ないようだ。
駐車場から15分くらい歩くとチケット売り場があった。

無人の売り場もあるが、有人の売り場でリストバンド型のチケットを買った。

売り場を過ぎると입구(入口)と書かれた看板が目に入った。
家で行ったリサーチではここから500段の階段を登っていくようだ。
ハアハアと息を切らせて登った。
年齢のせいにはしたくないが私にはきつかった。

階段を登り切ると改札のような入口がある。
ここでリストバンドのバーコードをかざして中に入るようだ。

中に入ると青い吊り橋が目に入る。
幅は1.5mで全長は200mだ。
そして足がすくむほどの高さだ。

私は高い所が苦手だ。
高所恐怖症というほどでもないと思っているが、今までの人生でも高いところはできる限り避けてきた。
建築の仕事をしていたのにだ。

現役の頃、6階建てのビルの屋上のシート防水工事を請け負ったことがある。
大概のビルは屋内階段から屋上に登るが、この時のビルは最上階の外階段から外壁に取り付けられた梯子を登る作りになっていた。
脂汗をかきながらも平然を装い登ったことを思い出す。

2年前に国内車中泊旅で奈良県の十津川村に行った時、谷瀬の吊り橋を渡った経験がある。
その谷瀬の吊り橋はここより100mも長い全長300mだった。

しかしこんなには揺れなかった。
この恐怖感はどこに違いがあるのだろうと考えた。
後で調べ直して分かったが谷瀬の吊り橋は幅が2mだった。
ここの吊り橋はそれより50㎝も狭いから揺れるんだろうと思った。

もう引き返すことはできない。

この道は一方通行だからだ。
吊り橋の先の参道は山道をトレッキングしているというより、遊歩道を歩いているという感じだ。

次に現れたのが絶壁の腹に取り付けられた桟道だ。
足元は道路工事で使われるような下が丸見えのグレーチングだ。

手すりはあるものの妙に怖い。
私は見栄を張らず崖側を歩いた。
ここを抜けるのに5分くらいかかっただろうか。

次にあるのがスカイタワーと呼ばれる展望台だ。
確かに見晴らしは最高だ。
ただ今日は晴天ではなく曇っていて少し風もあるので肌寒い。

そして二つ目の吊り橋だ。
ここを渡らなければ帰れない。

全長は一つ目の吊り橋の2倍(404m)だ。
ただ幅は2mあるので何とか渡れそうだ。
普通の道を歩く場合は400mで5分だが、この吊り橋を渡り切るには10分ほどかかりそうだ。

しかもこの吊り橋は真ん中がガラス張りになっている。
絶対に下を見ずに渡ろうと思った。

春川(チュンチョン)にスヤンガンスカイウォークという、同じように真ん中がガラス張りの橋があるが、比べ物にならないほどの恐怖感だ。
リュックをどこかに預けて来るんだったと今更後悔した。
オズモポケット(カメラ)で動画を撮ることも忘れていた。

ここで50代くらいの人は見たが60代くらいの人は見かけなかった。
若い人は恐怖感を楽しんでいるようにも見える。
たまに吊り橋が揺れるとキャーという悲鳴も聞こえるが、本気の悲鳴には聞こえない。


休憩しながら何とかコースを周回したが、タクシーを降りた時の駐車場に戻った時間はやっと正午を過ぎたくらいだった。

高所の緊張がほぐれると急に腹が減ってきた。
そこで駐車場近くのレストランに入った。

焼肉定食を注文したが、焼肉を包む青菜だけでなくキムチやナムルなどの小鉢がテーブルいっぱいに並べられた。
日本では考えられないほどの量だ。
もう少し若ければこの量でもたいらげるところだが、今は頑張って食べてもすべて食べるのはどう見ても無理だ。

そう思っていると追加注文もしていないのに麦飯まで運ばれてきた。

これだけ料理が揃えばソジュといきたいが、まだソウルまで帰らなければならないのでマッコリを飲むことにした。
追加注文するとペットボトルに入ったままのマッコリとお椀が来た。
どうもこのお椀に注いで飲むようだ。

今日はまだ日本人らしき人はひとりも見ていない。
ましてや今この食堂に日本人が来ることはないだろう。
少し酔ったのか急に誰かと話したい欲求に駆られた。

来る時にムグンファで出会ったご婦人のことを思い出した。

後書き

この物語も後に更新しながら有料化したい記事だ。
フィクションを含んでいるが実際に行ってみたい人の参考になるよう情報は新しいものを使った。

写真を載せていないのは文章だけで想像してほしいからだ。
地図による位置情報は想像にも役立つと思い記事内に入れた。

物語というよりは情報を優先しているので、行ってみようと思う人に役に立つよう意識して書いたものだ。

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