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あまりに透明な少女の死と自分の妄想に騙される人間の可笑しさ

この文章は、一般社団法人金澤芸術文化交流ネットサルーテ主催「第2回インタラクティブ プロジェクション マッピング オペラ フェスティバル」として上演されたオペラ『朝比奈』&『泥棒とオールドミス』の劇評です。 日時・会場:2019年1月19日(土)17:00 金沢21世紀美術館シアター21 1本目の『朝比奈』(作曲:浅井暁子、脚本・演出:鳴海康平)は、同名の狂言を原作とし、自由な発想でアレンジした新作オペラ。上演時間は約20分。太鼓や木琴を演奏する打楽器奏者(神谷紘美)とピ

    • 【北陸の劇評】バストリオ+松本一哉『黒と白と幽霊たち』〜死者たちの鎮魂と愚かな社会への抗議〜

      シャン、シャン、シャン、……。3人の女性たちが床に座った観客たちの横をすり抜けて行く時、片方の足首に巻き付けた鈴が鳴る。それはまるで巫女によって祓い清められる神事のようだった。伝統的な宗教からの引用はそれだけではない。煙が立ち昇る線香を赤いワンピースの女(橋本和加子)がゆっくりとすり足で運んで行く。さらに金沢市出身のサウンドアーティスト、松本一哉が演奏する大小さまざまな鐘や直径1メートルもありそうな銅鑼の音は、そこに集っている者たちを瞑想の境地へと誘い込む。11月10、11日

      • 現代に響く反戦川柳作家・鶴彬の反骨精神~劇団coffeeジョキャニーニャ「T.AKIRA」

        冒頭、獄中で赤痢にかかった反戦川柳作家・鶴彬(岡崎裕亮)が、官憲(中里和寛)によって白い縄で縛られた姿で豊多摩病院へと連行される。病み衰えてベッドに横たわった鶴彬の目には、それまでの人生が走馬灯のように通り過ぎていく。現在の石川県かほく市で産声を上げた鶴彬(つる・あきら、1909〜38)は、大阪の町工場で働いた後、上京して川柳作家の井上剣花坊(新保正)らに師事し、プロレタリア川柳を生み出していく。入隊した金沢の第9師団歩兵第7連隊では雑誌「無産青年」を持ち込み、赤化事件の主犯

        • (劇評)晴れやかに娘を見守る父の眼差し

          伊藤郁女「私は言葉を信じないので踊る」の劇評です。 2018年8月4日(土)19:00 金沢21世紀美術館 シアター21 どうして私には友達がいないのか? どうして孤独を感じるのか? どうして私の中に暴力が存在するのか?… 8月4、5日に金沢21世紀美術館シアター21で行われた伊藤郁女(かおり)のダンス公演「私は言葉を信じないので踊る」(テキスト・演出・振付:伊藤郁女)では、郁女がマイクを使って共演者である父・伊藤博史や自分自身に向かってさまざまな疑問をぶつける場面が

        あまりに透明な少女の死と自分の妄想に騙される人間の可笑しさ

        • 【北陸の劇評】バストリオ+松本一哉『黒と白と幽霊たち』〜死者たちの鎮魂と愚かな社会への抗議〜

        • 現代に響く反戦川柳作家・鶴彬の反骨精神~劇団coffeeジョキャニーニャ「T.AKIRA」

        • (劇評)晴れやかに娘を見守る父の眼差し

          (劇評)パフォーマーから問いかけられる観客

          LIRY Project 01 in KANAZAWA『4xPersonne』の劇評です。 2018年7月20日(金)18:00 金沢21世紀美術館 シアター21 4人のダンサーたちが客席をグルグルと回り、笑顔で観客に話しかけたり、壁際で独り言をブツブツ呟いたり。それは決して幕間の気分転換などではなく、観客と一緒にいること自体がこの作品の目的であるようだった。7月20、21日に金沢21世紀美術館シアター21で上演されたLIRYプロジェクトの第1回公演「4 x Person

          (劇評)パフォーマーから問いかけられる観客

          (劇評)隣のお兄ちゃんがなぜテロに行ったのか?

          さいたまネクスト・シアター「ジハード」の劇評です。 2018年6月30日 14:00 彩の国さいたま芸術劇場 大稽古場 「ジハード」と聞くと、たちまち「テロ」を思い浮かべて恐れをなしてしまうが、アラビア語でそれはただ世の中を良くする努力といった意味の言葉なのだとか。数年前に「イスラム国」と自称するテロ集団(別名:ISIS、ダーイシュなど)がシリアで支配地域を拡大していた時、欧州などに住んでいた若い移民二世のイスラム教徒たちが続々とダーイシュに参加する流れがあった。さいたま

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          (劇評)人間の運命をAIが決める近未来?

          劇団ドリームチョップ「王様の耳は驢馬(ろば)の鼻」の劇評です。 2018年6月16日(土)20:00 金沢市民芸術村PIT2ドラマ工房 AI(人工知能)の急速な進歩により、2045年にはAIが人間の知能を超える「技術的特異点」(テクニカル・シンギュラリティ)に到達するとも言われている。劇団ドリームチョップ「王様の耳は驢馬の鼻」(作・演出:井口時次郎)では、人間の意思や運命をコンピュータが決定するようになった近未来社会の薄気味悪さを垣間見せていた。 売れない作家の里崎(中

          (劇評)人間の運命をAIが決める近未来?

          (劇評)説明しない、気配の演劇

          さざなみ企画「オズの魔法使い」の劇評です。 2018年6月3日(日)14:00 金沢21世紀美術館 シアター21 さざなみ企画「オズの魔法使い」(作・演出:南光太朗)は、糸車を操る少女・ドロシー(西田真実子)が病院で注射を打ってもらった後、尼僧院から脱出し、さまざまな人々と出会う物語、と言えば良いのだろうか?ドロシー役の西田と歌を担当した「ながとろ」は作者である南特有の繊細な感じやすさをストレートに表現していて、歌謡ショーのようではあったが、魅力的だった。一方ではむしろド

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          (劇評)王の野心に付き合わされる兵士たちの悲哀

          新国立劇場「ヘンリー五世」の劇評です。 2018年5月26日(土)17:30 東京・初台 新国立劇場中劇場 15世紀前半、25歳でイギリス国王に即位したヘンリー五世がフランス軍を打ち破り、敵国の王女キャサリンを妃に迎えるまでを描いた歴史劇「ヘンリー五世」(作:ウィリアム・シェイクスピア、翻訳:小田島雄志、演出:鵜山仁)が5月17日〜6月3日に新国立劇場中劇場で上演された。主な俳優陣はタイトルロールに浦井健治、キャサリンに中嶋朋子、庶民ピストル役に岡本健一といずれも新国立劇

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          (劇評)良心的であらざるを得ない人々が落ちていく蟻地獄

          文学座アトリエの会『最後の炎』の劇評です。 2018年4月14日(土)19:00 東京・信濃町 文学座アトリエ  一人の少年が交通事故で死亡した。不幸な出来事だが、やがて時間の経過とともに両親の喪失感も癒え、街の表情も再び日常の落ち着きを取り戻すかと思えた。しかし、そうはならなかった。少年の両親や目撃者、事故の原因となったトラックの運転手や所有者ら、さまざまな関係者たちが自分で自分を責め、それぞれに思いもよらなかった不幸の蟻地獄へとはまり込んでいく。ドイツ現代演劇を代表す

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          (劇評)震災を機に見つけた、転がり続ける生き方

          烏丸ストロークロック『まほろばの景』の劇評です。 2018年3月2日(金)19:00 東京芸術劇場 シアターイースト タイトルの「まほろば」には「素晴らしい場所、住みやすい場所、世界の中心」といった意味がある。烏丸ストロークロック『まほろばの景』(作・演出:柳沼昭徳)では、東日本大震災で家を失った男がそれまで縛られていた何物かから解放され、自由にまるで糸の切れた凧のように(というと被災者の方に失礼かもしれないが)転がり続けていく姿を描いた。彼が働いていた福祉施設からいなく

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          (劇評)活気に満ちた経済成長期の恋愛喜劇

          劇団フロンティア実験リーグ「はだしの青春」の劇評です。 2018年3月10日(土)19:00 黒部市・シアターフロンティア 日本人の心が空っぽになった敗戦を経て、とりあえずは1950年代から物質的な豊かさに向けた「高度経済成長期」が始まった。劇団フロンティアによる実験リーグ公演「はだしの青春」(作:宮本研、演出:天神祐耶)は、経済成長真っ只中の活気に満ちた都会を背景とする宮本研初期の恋愛喜劇であり、恋人同士の男女と田舎から上京してきた娘による三角関係を爽やかに描いた。

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          (劇評)立場を超えた、温もりという価値観

          奈良井伸子によるひとり芝居「ダキシメルオモイ〜見えない彼女〜」の劇評です。 2018年3月11日(日)18:00 金沢市民芸術村アート工房 抱きしめさせてくれませんか、と街角で通りすがりの人たちに声をかける一人の女。興味を持ったらしいテレビ局から取材を受けた彼女は、酔っ払って道端に倒れていた女性との出会いについてカメラの前で語る。その女性と抱き合い、温かさや安心感を覚えたことがきっかけになったようだ。3月11日に金沢市民芸術村アート工房で上演された奈良井伸子のひとり芝居「

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          (劇評)仲間の自殺が心に影を落とす

          劇団べれゑ『青に溶ける、ひかり』(脚本:oto-bit、演出:知名采音)の劇評です。 2018年2月24日(土)15:00 金沢市民芸術村PIT2ドラマ工房 女子高生サトコ(金代晶)の自殺に仲良しグループのアヤ(原田明日華)、サヤカ(知名采音)、ミイコ(古林珠実)は衝撃を受ける。サトコは同性愛的な関係にあるアヤから別れを告げられ、刃物で刺した。アヤは大事に至らなかったが、サトコは屋上から飛び降りた。卒業式の日、親友の不在が3人の心に影を落とす。何も起こらない日常に苛立ってい

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