セレブ相撲

「あら、随分とお部屋に優しい廻しをつけてらっしゃるのね」

土俵上で声をかけてきたのは美麗山関だ。西の前頭筆頭。十両から上がりたての私にとっては雲の上の存在だ。まだ立合いは成立していないので、塩を撒きながら答える。

「あ、ええ、幕内に上がったから」

「貴方にはお似合いの貧相な色合いの廻しだわ」

「そんなっ…」

この廻しは部屋で初めて幕内に上がった私のために、親方やおかみさんが選んでくれた大切なものだ。いくら前頭筆頭の美麗山関でも言って良いことと悪いことがある。私はムキになって言い返した。

「ふざけた大銀杏を結ってる人に美的感覚を問われたくありません」

「なっ…」

美麗山関はカールしたドリルのような大銀杏と唇を戦慄かせると手に持った扇を地面に叩きつけて、ぶちかましてきた!

(いきなりっ!?)

行事は止めない。口論から立合が成立したのだ!右下手を奪われる!


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