ラジヲ

#03 桜漬けの夢

2016年5月2日 月曜日

お昼、公園に招待された。

桜が満開で、桜吹雪が舞っていて、こんなにきれいなお花見は初めてだった。散歩のようにゆっくり歩いていた。気が付けば真っ白なクロスが敷かれた、角がまるっこくなっている四角いテーブルに辿り着いていた。

誰に勧められるわけでもなく、自然と席についた。左隣にはトクマルシューゴさんが座っていた。しばらくして、脚がすらっと伸びた綺麗な女性と、小太りな、しかし恰幅の良い白髪まじりの男性がやってきて、女性は私の前の席に、男性はトクマルさんの前の席についた。女性は細身のドレスを、男性はタキシードかスーツを身に着けていた。

「やぁ、ちょっと遅れてしまったね。」と男性が挨拶。

「ぼくたちも今来たところです。」とトクマルさんが返す。

向かいの席の2人をよく見ると、宮沢りえさんと西田敏行さんであった。私はなんと自己紹介したら良いのかわからずまごまごしていると、トクマルさんが「ぼくの、友達のような彼女です」と紹介してくださった。まったく不思議なメンバー構成になっているし、彼ともお付き合いしていないのでさっぱりなのだが、そのときは何も違和感を感じることなく若干どきどきしながら「こんにちは」と続けて会釈をしたのであった。

テーブルに並べられていた大きな瓶の中に、たくさんの桜の花びらが入っている。どうやら桜を漬けたお酒のようだった。はじめて見るそれは既に目の前にあったグラスにそそがれていたので、そっと一口含んでみた。

んんんん、うまい!!

香りがとてもふんわりしていて、飲みやすい。あまくて今の淡い桜吹雪の風がちょうど似合う感じだ。いくらでも飲めちゃいそうだ。お酒を口にした途端ぼんやりしていた頭の中の霧が晴れてきて、さっきトクマルさんが言っていたことを初めて気にしだして赤面した。顔を見れなくなってしまった…。

このお酒を飲んでいたグラスもまた、美しかった。細くてやや長めの華奢な身体。Aラインのウェディングドレスのように上品で、傾けるたびにきらきらと輝いた。

果たしてなぜ私がこの公園に呼ばれたのか理由は不明だが、ただ単にこのメンバーがお花見をしに集まったわけではないことを左側に現れた大きな大きなスクリーンを見て知る。なにやら、映画のようなものが始まった。

しばらく眺めていたけど、編集途中の作品のようだった。

「これ、本当に作っちゃうんだもの。すごいよねぇ。」

「ねぇ〜。これだけできれば上等だよね。」

「う〜ん…でもぼくは、もっとここを、こうしたい」

三人の会話を聞いていてようやくピンときた。どうやら、トクマルさんが新曲を作り、そのミュージックビデオにこの二人の俳優さんが出演したらしい。3〜5分の短編映画のように仕上がったその映像がたいへん好評だったため、それぞれの出演者のストーリーを新たに作り直し、繋げて、一本の映画を創ろうということらしかった。今日、この公園で制作途中の試写会というか、経過発表をしているという訳だ。なるほど。しかしなぜ私が呼ばれたのか…。

しかし、そんな疑問はどうでもよくなるほど映像に見入ってしまった。宮沢さん演じる幽霊になったバレエダンサー。踊っていくなか少しずつ自分の身体が透けていくのを理解しつつ、彼女は黙って自分の手足を見つめながら、ときどき長い呼吸をついて休みながらも踊り続ける。蝶ネクタイを着けた西田さんは指揮者を演じていた。(あれ、これってもしかして舞台で踊るバレエダンサーとその生演奏のオケの指揮を務めているのが指揮者なのかな。書いていて今気づいた。だってバレエダンサーの場面は練習用のスタジオで、月明かりの中顔の見えない男性と踊っていたから。場面はバラバラだったけど、そういう繋がり方をしていたのかも!)

ときどきストップモーションのアニメが流れた。質感はバラバラで、布やパッチワークで作られたネズミと、目が宝石でできている白くてふわふわとした猫、それから全身が真っ白な小人が4、5人集まって自分の身体よりも大きなラジヲをとんかちで「トンテンカン」と叩いている、斜視のこどもの人形が散歩をしている、など。トクマルさん曰く「ふたつの目でこちらの世界と映像の世界を観ている」とのこと。

そして最後に、トクマルさんのミュージックビデオが流れた。聴いたことのない曲。いつものバンドメンバーもいる。皆タキシードで椅子に座って演奏していた。トクマルさんはギターを抱えていた。向かって右に座るメンバーはビオラ、左はリズム隊。その他もろもろ。トクマルさんのアップから始まり、徐々に後方へカメラが退いていき全体が見えてくる。盛り上がるにつれて赤、青、黄、緑、金、銀の紙吹雪が舞い、ほどけたリボンがゆるゆると落ち、ラッパが遠くに鳴り響いてゆく。

映画本編は音がまだ編集しきれていなくて所々無音映画のようになっていたけれど、それも雰囲気がよかった。むしろよかった。

観ているあいだ、四人でお料理をつまんだり、ちびちび飲んだり、花の香りを楽しんだりもした。宮沢さんが「いろんな人が観てくれるといいな」とつぶやいていた。

あと、とっても印象に残ったメニューがある。春キャベツをたくさん使った炒めもの、だと思う。ほんのり色づき細切りにされていたにんじんと、あれはなんだろう、もやしかな。あとたまねぎとか。それらが一緒になって、少し汁気を含んだ料理だった。香りも好きだ。これも食べてみると…

うううう、おいしい!!

途中、そればかり食べていた。気づくとお皿の中が空になっていた。桜のお酒もおいしくてすいすい飲んでいたのだが、気づくとトクマルさんがなんてことないかのように私のグラスを取ってお酒を入れてくれたり、春キャベツに至ってはこれでもかというほどおかわりを盛りつけてくださっていた。やってもらってばかりで悪い気が…。

美味しくていい香りに包まれた、花より団子な夢でした。

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