居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜 P49
3.山本 皐月 故郷は遠きにありて⑭
夫が父を入浴させてくれている間に私は夫の食事の準備をする。
なんて変わらない日常だろう。
浴室から父の歌声が聞こえてきた。
買ってきたお弁当を軽く温め、冷えたビールを準備する。
準備しておくだけでテーブルにはまだ並べない。
あらかじめ並べてしまうと父がまた食べてしまうのだ。
父の分の食事が終わっていても、それは同じ。
だから父の食事が済んでいる時はテーブルには他の人の分の食事を置いておけない。
私は湯上がり用の水と飲ませなければならない薬を準備して父が風呂から出て来るのを待つ。
もちろん着替えやタオルは準備済みだ。
「おーい! 出るよぅ」
夫の声が聞こえる。
「はーい」
私は準備したタオルを持って父を迎えた。
「あー…いい湯だった」
湯上がりに父は必ず言う。
「良かったですね~」
私もニコニコと笑いながら父の身体を拭く。
そしてパンツ型のおむつを履かせたりシャツや寝間着を着せ身支度を整えてから薬と水の入ったコップを渡した。
「はい、飲みましょうね」
父はゆっくり薬を飲み下す。
そしてコップの水も飲み干し
「おやすみなさい」
と、頭を下げた。
「おやすみなさい」
私が答えると父は自室へ一人で入っていく。
少し間をおいて様子をそっと様子を見に行くと父はベッドで眠っていた。
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3.山本 皐月 故郷は遠きにありて⑮
へ続く
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