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居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜         P74

5.ロベルト・シュンク ヤーパン紀行⑮

「ジャン? どうかしたのかい?」
 野崎課長が不思議そうに問いかけた。
 ジャンは曖昧に笑って
「いや…その……。御神輿の掛け声が……フランス語に聞こえるんです」
「へぇ…。なんて言葉なんだい?」
 ジャンはかなり口ごもりながら……
「その…えっと……『為政者を討ち倒せ。貴族は◯せ』が一番近い……かと……」
「ブッ!!」
 黒田さんがビールを吹き出した!
 私もギョッとして肉片を喉に詰めそうになる。
「へぇ…過激だねぇ」
 野崎課長は一人呑気そうに笑っていた。

「安心して良いよ。ここは日本だ。御神輿を担ぐ時の掛け声であって暴動の…デモの掛け声じゃない。大丈夫さ」
 う〜ん…
 さすがは野崎課長。
 年の功とでもいうのだろうか……
 落ち着いている。

 勇壮な…男性のみの御神輿が列車の脇を通り過ぎる。
 ジャンはまだ緊張したような顔をしたままだが、黙って御神輿を見送った。

「そう言えば…野崎課長は今日は早く帰らなくてよかったんですか?」
 わざとらしく黒田さんが問いかけた。
「ん? あぁ…今日は大丈夫。子供達が夏休みなんで一足先に女房の田舎に帰ってるんだ。盆休みになったら私も行く予定だよ。しばらくは一人暮らし状態さ。いやぁ~婿養子はいろいろと気を使わなきゃだからなぁ…行くのが遅くてありがたいぐらいだよ」
 野崎課長は明るく答える。
「今頃はあっちでもお祭りやってるのかもなぁ」

居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜
5.ロベルト・シュンク ヤーパン紀行⑯ へ続く



 
 

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