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居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜         P61

5.ロベルト・シュンク ヤーパン紀行②

 ハッ!? もしやこれが日本でも珍しいコンセプトなのか?
 そんな予想をして私はキョロキョロと辺りを見回した。

 そんな私の様子などお構いなしに黒田さんは首を傾げつつ店の中に入る。
 もちろん我々も彼に続いて店内へ進んでいく。
 店内は冷房が効いていて一気に汗がひいた。
 ありがたい……。
 
 涼しい風に一息ついた私の目に入ったのは薄暗く絞った照明しかない店内にボンヤリと浮かぶ…券売機?

「この店は席を時間で販売しているんです。どのぐらい居ますか?」
と、黒田さんが訊ねる。
「う〜ん…2時間も楽しめば良いんじゃないか」
 野崎課長はそう答えて私とジャンに視線を向けた。
「どうかな? とりあえず2時間楽しんでみようと思うんだが…」
 そんな事を聞かれても基準がよく分からない。
「オマカセシマス」
 こういう時に使える便利な返事をした。
 ジャンも無言でうなずいている。

 黒田さんは我々3人からそれぞれ席料を回収すると券売機へ向かう。
 うん、どう見ても駅に有る特急列車用の指定席券売機だ。
「2時間だから…今日は『ベガ』までだな…」
 黒田さんの呟きが微かに聞えた。
『ベガ』とは何だろう?
 頭の中はクエッションマークだらけだ。

「はい、乗車券。失くさないように」
 そう言いながら黒田さんがこれまた特急列車の指定席券にしか見えない紙片を渡してくる。
 表面には【マリンパーク号 1号車 5A窓側】とか【オリオン駅(18:30) ー ベガ駅(20:30)】とかが印刷されていて裏側は磁気を読み取らせるかのようなコーティングがされていた。
 そっか…『ベガ』って駅の名前か…と、納得しかけた…が……。
 え? 電車に乗るの? だから『列車』居酒屋なのか?
 と、更に頭の中にクエッションマークが増える。

 そんな私になどお構いなしに黒田さんは店の奥へと入っていく。
「いやぁ〜話には聞いてだけど凝ってるねぇ…」
 野崎課長は感心したように黒田さんに話しかけている。
 私もジャンも置いて行かれないようについていくだけで精一杯だ。

「ですよね~。凝ってますよね〜。だから何で祭囃子が流れているのかが不思議で…」
 黒田さんは黒田さんで私とは違う意味だとは思うが首を傾げている。

居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜
5.ロベルト・シュンク ヤーパン紀行③ へ続く





 

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