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居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜         P45

3.山本 皐月 故郷は遠きにありて⑩

 雨はまだ降ってるかしら……。
 窓の外に目を向ければライトアップされた海の絵がぼんやり浮かんでいる。
 雨脚は弱まりつつあるようだが止む気配はない。

 う〜ん…そろそろ降りる時間なのよね……。

 乗車券は次のサザンクロス駅までだ。
 ポツポツ他の乗客も乗ってくる頃合いだと思うし何より食後に飲ませなきゃならない薬を持ってきてない。
 夫だって帰ってくる時間だし……。
 何だか焦る。
 
 お腹もいっぱいになった事だし延長せずに帰らなきゃ。
 傘…買ったほうが良いかな?

 隣の席では父が『裏山で猫が集会をしていた話』をまだしている。
 私はニコニコと笑いながら聞いてはいるが帰りの心配しかしていなかった。

 高齢の父には食事毎に飲む薬がある。
 食事が済んだ後、あまり時間を置かずに飲まさなければいけないのでは?
 あ、夫の分の食事どうしよ?

 父は『裏山で猫が集会をしていた話』を話し終えて満足そうに水を飲んでいた。
 グラスのデザインのせいか冷酒に見えてしまう。

 水だよね?

 父の食事内容は自分で仕切っているのに何を心配してるのやら……。
 自分の考えに思わず苦笑が浮かぶ。

 夫の分の食事……
 何かテイクアウトできないかな?

 メニューを確認するとお弁当のテイクアウトが可能という案内が書かれていた。
 私は胸を撫で下ろし、お弁当を買って帰る事を決意する。

居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜
3.山本 皐月 故郷は遠きにありて⑪

 へ続く


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