先輩の秘密-#3-

あれから2週間。
朝日からの連絡どころか、顔すら見ていない。

最初の2.3日は少し気になっていたが、今では思い出さなくなるぐらいすっかり元の日常に戻っていた。
やっぱり男子校生なんておバカで気まぐれな生き物だ。少し意識してしまった自分もバカだけど。

そんなことをボーッと考えながら国語の眠たい授業を聞いていたら、LINEの通知がきた。
あいつからだ。

どんなタイミングよ…。

私はLINEを開いた。

朝日《先輩なにしてるんすか?》
私《授業。》
朝日《オレ今保健室。お見舞いきて》

こいついったいなんなの・・・。

「ん?ももちゃんなんか言った?」
思わず心の声が漏れていたようだ。夢香が振り向いて私を見ていた。

「ごめん、なんでもない」
私は慌てて答えながら、なんて返信しようか考えていた。

言われた通りにのこのこ保健室行くなんて私のプライドが許さないし、
かと言ってこのまま放置するのも……
あれ、放置でいいじゃん。
呼ばれたらすぐ行くなんて約束してないし。
私は返信しないままスマホをポケットにしまった。


ーーーー


昼休みのチャイムが鳴る。
生徒たちは一斉に席を立って、各弁当を持ち寄ったり売店に出かけだす。

夢香はいつものように椅子を後ろに向け、私の机にお弁当を出した。
「やっと午前中終わったねー。毎日しんどいわ」

「だね。夢香、今日は居眠らなかったね」
「まぁね。毎回先生に怒られるしさー」

持参したサンドイッチを食べようとした頃、スマホに着信が入った。
名前を見るとまたもや朝日からだった。

「うわ」
私は小さく悲鳴をあげる。

「だあれー?」
夢香がスマホを覗き込もうとする。私は咄嗟にスマホをカバンの中に放り投げる。

「ママから。多分大した用じゃないから」
「え、出たらいいじゃん」
「ううん、大丈夫。後でLINEしとくし」

しかし着信は切れることなく鳴り続ける。あまりに長いのでこっちから切ったが、またかかってきた。
あーもう!しつこい。あいつ、ほんと何考えてんの。

「夢香ごめん、やっぱり緊急っぽい。ちょっと電話出てくるね」
そう言って私は教室の外へ出た。

ため息をつきながらスマホを耳に当てる。
私「なに」
旭「もも先輩なんで無視なのー」
私「謎の呼び出しには応えません」
旭「えー、俺病人ですよ?」
私「病人なら帰りなよ」
旭「先輩ひどいー。来てくんないなら教室まで会いに行きますね」
私「はっ、ダメ。あんた来たら色々ややこしくなるじゃん」
旭「じゃあ、待ってる。保健室ですよ」
プツッ

こっちの返事も待たずして電話が切られた。
想定していたよりも厄介な男らしい。なんとも嫌なところを突いてくる。
教室に来て仲良く喋りかけられても、男に興味ない設定を貫いてきたのが水の泡になる。その後、周りから二人の関係を捜索されるのも面倒くさい。
腹立たしいが言うことを聞くしかないようだ。

ーーーーーー

保健室は静かだった。先生は外しているようだ。
奥のベッドだけカーテンが閉まっている。おそらくあいつがいるのだろう。

奥まで進み少しカーテンを開ける。
やはり朝日がいた。目を閉じているが眠っているのか?
その顔は恐ろしいほど整っていた。

「来たよ」
小さな声で呼んでみた。
その声に反応して彼の目が薄く開かれる。

「あぶね。寝ちゃうとこだった」
彼がムクッと起き上がり、ボサボサの髪をだるそうにかく。
そして私の方を向いて眠そうに言った。
「遅いよ、先輩〜。朝から待ってたのに」

「急に呼び出さないでよ。暇じゃないんだけど」
「んー、怒らないでよ。久々じゃないですか」
私の腰に両腕を回しながら抱きついてくる。
こうやって甘えた仕草で今までもわがままを許してもらってきたのだろうか。

「2週間ぶりですね」
「そうね。もう忘れたのかと思ってたのに」
「まさか。会いたかったですか?」
「まさか」
「ですよねー。俺は会いたかった」
「2週間、何してたの?」
「ちょっと家のことで学校休んでました」
「ふぅん。じゃ、私教室戻るから」
「え?!冷た!
俺、女の子からこんな雑な扱いされたの初めてなんだけど」
思わず顔を上げて驚いた表情を見せる旭。
それを見て少し笑いそうになったが、グッと堪えた。

「私もあんたみたいなの初めてよ。とりあえずわざわざ来てあげたんだしもういいでしょ」

腰にまわっている腕を剥がして体の向きを変えようとすると、朝日が私の腕を掴んだ。

「待って」
そして力の入った腕はそのままグッと引き寄せられる。

「もう少し一緒にいてくださいよ」
さっきとは違った、甘い声が私に囁く。



to be continue

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