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アートとロマン派と戦争

Relight Committee初日。アーティストの宮島達男さんのお話をうかがった。

いくつも心を貫くような言葉がある中で、とりわけ「アートは戦争の方向へ行かせないための力」という言葉が深く響いた。

回覧された宮島さんの著書『芸術論』の中に散りばめられていたのは、私にとって馴染み深いイギリスロマン派の詩。

宮島さんが大好きな哲人の言葉という、シェリーの『西風に寄せる詩』の一節。"If Winter has come, can Spring be far behind."(冬来りなば春遠からじ)。ブレイクの『無垢の予兆』も紹介されていた。そう、ロマン派詩人たちが訴えているのは想像力。想像力こそが、差異、偏見、分断、憎悪、戦争、絶望、この世の不条理を乗り越える力になる、ということ。

戦争とロマン派。宮島さんのお話を聞いた後、私は大学の恩師である出口保夫先生のお話を思い浮かべていた。

出口先生は、ロマン派詩の翻訳を数多く世に送り出された、ロマン派研究の第一人者。先生の元で研究をしていた修士課程最後の年、退官を迎えた先生最後のゼミで「こういう話は今までしたことがないし、本当はしたくないんだけど」と切り出されたのが、次のようなお話だった。

10代の時に戦争が起きたこと。学徒動員で働いていた工場が空襲にあい、同級生がみんな死んでしまったこと。そして、自分ただひとりが生き残ったこと。その後生涯をかけてロマン派の詩の研究をしてきたこと。

あの頃は色々と思うところがあり、私は結局研究室を飛び出して他の道に進むことになるのだが、この最後の授業は忘れられないものとなった。今回宮島さんのお話に心打たれて、研究はやめてしまったけれど自分の想いはあの頃と何も変わっていないことに改めて気づかされた。

思えば戦争を体験したたくさんの人たちと時間を共にしてきた。先生以外にも、祖父母や、広島の語り部の方たち。今はもう多くの人が故人となってしまった。彼らが私に伝えたことを、私は誰かに伝えられているだろうか。伝えていけるだろうか。

明日から8月。原爆の日、終戦記念日。お盆を迎える。
そして、この8月はReborn-Art Festivalで宮島さんの作品「時の海ー東北」も公開されている。
平和な夏の今日、生きていること、自由であることに感謝して目一杯楽しもう。そして同時に、亡くなっていった多くの人たちに目一杯想いをはせよう。そんな月にしたいと改めて思った。

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