昨日、おねしょしちゃったみたいなんです

症例1

主訴:昨夜おねしょした
現病歴:生来健康な40代女性。G2P2。今朝起きたら布団と下半身が濡れていた。下着も濡れていて、おねしょのようだ。匂いはあまりなかった。昨夜は特に変わったことはなく、入浴後にパジャマを着て就寝した。飲酒なし。眠剤使用なし。これまでおねしょしたのは幼稚園低学年の頃くらいしか記憶していない。初めてのことで、何か体に異変が生じたのかも、と心配になり受診。起床後は普通に尿意を感じて、普段通り排尿している。頻尿、残尿感などはない。普段から激しく飛んだ時などに少し尿漏れをすることがある。
産婦人科には定期的にがん検診に行っていて、1年前異常なかった。
既往歴:なし
家族歴:特記事項なし

泌尿器科の先生に教えてもらおう!

婦:ここまでで、何を考えて、どんな身体所見を取りますか?
泌:まず、夜尿の基本をおさえましょう。
 主訴が夜尿、という時点で、日中の排尿機能は問題になっていないんだな、ということがわかります。日中の問題があれば、それを主訴にするからです。夜尿には、3つの要素があります。
  ① 尿の量が多い
  ② 膀胱の機能が悪い
  ③ 眠りが深い
①〜③全てが揃った時に、夜尿が起こります。

① 尿量
一般的に、睡眠中は抗利尿ホルモンが出るので尿量は減少します。夜間尿量が1日尿量の1/3以上の時、夜間多尿と定義されています。普通の睡眠時間が8時間、1日の1/3の時間に、1日の1/3以上の尿が出てるのはおかしいよね、という、ざっくりの定義です。尿の濃縮が悪いと判断したら、ミニリンメルト内服について考慮します。「夜間多尿」の保険病名では女性には適用がありませんが、「中枢性尿崩症」の病名をつければ、ミニリンメルト60,120、240には使えます。初期量は60で良いでしょう。

夜間多尿でなくても、飲水が多い、利尿作用のあるものを飲食した、などの理由で、1日尿量が増えて多尿になることがあります。月経開始日以降に尿量が増えることもあるので、月経周期との関連は確認しましょう。黄体ホルモンで体に水が溜まったものが、月経期に黄体ホルモンが下がることで、間質の水がでて尿量が増えるのかな、と思います。他に、糖尿病や下垂体機能不全など尿量が増える疾患もあります。

②  膀胱の機能
膀胱機能は体温や尿生成速度、尿の質によって変化します。
例えば、蓄尿テストで膀胱内に冷たい生理食塩水を注入すると、普段200,300ml蓄尿できる人でも100ml程度で尿意を感じるものです。冷たいものが、早い速度で膀胱に入ってくるからです。
カリウムを多量に含む尿も、排尿反射が早くなります。生野菜や果物をたくさん食べると、尿が近くなります。
婦人科疾患が膀胱機能に影響することがあります。以前、卵巣のう腫を持つ若い女性で、歩いていて止まった時に尿意を感じる、と訴えた人がいました。卵巣が慣性の法則で動いて膀胱を押すのかな?とアセスメントしました。

③ 睡眠の深さ
高齢者は、尿が多くて膀胱の機能が悪くても、夜尿に悩まされる人は少ないです。それは眠りが浅いからです。反対に小児は、尿の濃縮が悪く、膀胱が小さく、眠りも深いので、よくおねしょします。

この患者さんへの対応

内診を含む一般身体診察をしましょう。また、排尿日誌をすすめましょう。
以後のエピソードが何もなければ、このとき「たまたま」尿量が多くて睡眠が深かったのかもしれない、といった、夜尿のメカニズムを説明すると患者さんは納得、安心されるかもしれません

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