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続・『日本車は生き残れるか?』 はじめに

 「世界中を一緒に回って、自動車の取材をしたことを、一冊の本にまとめませんか?」共著者で、シリコンバレー在住の桑島浩彰さんからそんな誘いを受けたのは、コロナ禍を受けて緊急事態宣言が発出された間の出来事だった。2020年2月後半までは、それこそ世界中を駆け回って、自動車産業の変革を目の当たりにしていた時期で、突然、コロナ禍で往来が制限されることになり、いったい何をしたらいいのだろう?と途方にくれていたのも事実だ。
 たしかに、以前からこれまでの取材をまとめるというアイデアはあったのだが、なかなかまとまった時間が取れなかった。筆者自身、長年続けてきたジャーナリストの仕事に加えて、戦略コンサルに勤務するという二足のワラジを履いており、自分より若い才能あふれる人たちと一緒に仕事するという環境に慣れるだけでも精一杯だった。幸か不幸か、コロナ禍において出社の前提が崩れたり、体制変更もあったため、戦略コンサル勤務の方は契約を終了して、いったん自由の身になって考えようかという矢先の出来事だった。それだけに、渡りに船と飛び乗ることにした。
 とはいえ、コロナ禍で往来がしにくい時期だっただけに、編集者とも共著者とも、ほとんど会わずに、オンラインでの打ち合わせを中心に仕事をすることは困難を極めた。執筆する上でも、一冊の本にまとめるとなると、雑誌の記事とは異なることも多く、なかなか一筋縄ではいかない。
 2021年5月。何度目かの緊急事態宣言が発出されて、外出が制限される中、ようやく一冊の本が出来した。通勤客が途絶える中で、ビジネス書を発売したのだから、売れ行きは芳しくないだろうと案じた。だが、予想に反して、滑り出しが好調で、時間が経った今でも、コツコツと販売されている。販促のイベントなども一切できなかったのだけれど、ポップで推薦してくださった書店の方、書評を書いてくださった方、SNSでシェアしてくださった方、授業で参考図書にしてくださった先生方、そんな皆さんのおかげだと感謝している。
 ただ、初版の出版から多少の時間が経ち、更新すべき情報も増えている。当時は最先端の研究開発の対象だったCASEも、技術開発が進んだ結果、いよいよ、実装される時代になりつつある。となると、がぜん気になるのは、次なるキーファクターだ。全個体燃料電池なのか? EVなのか? はたまた水素なのか? いや、ソフトウェアなのか?
 重要なのは、個々の技術ではなく、自動車のような高速で走る物体が安定した回線につながる時代になった今、インターネット産業の一部に自動車産業が取り込まれることになるということであり、そのために大きな産業構造の変革が求められるということなのだ。
 日本の産業の主軸である自動車産業の行く末を占うというほど大袈裟なものではないが、日本の産業を支えるべく、日々、研究開発や事業開発に邁進している、自動車産業に携わる方々にとって、少しでも役立つ情報を提供していけたら…と考えて、このnoteを立ち上げることにした。

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