ブルエーレの音楽隊の物語~アース・スカルド・サーガより~


そして膝をついた重騎士はミョルニルを

打ちのめされた魔法剣士はスキルニルを

死に際の聖騎士はその手にグングニルを取る

深淵の際で 呼んでくれ
混じりけの無いこころのひかりで
呼んでくれ

求めた

そして武器を選ぶんだ
君のためだけの
君の愛するものを守る力を

求めるんだ
形振り構わず
叫んだ

そして死に際の騎士は
その手にグングニル

運命を選べ 掴み取れ

是は英雄たちの物語
自らの手で
希んだ未来を掴み取った勇者たちの物語

~レジェンド・オブ・スリー・ブレイヴァーズ序文~




さて宵闇も深まりました
焚き火のなんとあたたかな橙のあかりとぬくもりでしょう
聖騎士ブレイヴとその仲間たちの英雄譚
勲の多さに
一晩では謳い尽くせませぬ
ので
ここから語るは
この吟遊詩人(スカルド)自身の物語
まあまあそう言いなさるな つまらなかったら寝ればよし
しかし最後まで聴いてくれ
なんたって、きちんとブレイヴは出てくるのだからね
何故かって?
まあまあそう先を急ぎなさるな

では謳おう
其は英雄たちの物語
自らの手で 希んだ運命を掴み取った勇者たちの物語――




時は戦乱
リガリア帝国の紅い蹂躙の風が吹き荒ぶ
ここはエウロパ
大ユーラシアの西のほう
偉大なる撰帝侯達が築き揚げた 平穏は跡形もなく
我ら立ちし者達は
ワカンの教えさえ忘れかけて 互いに争い傷付きあった

そんな世に
ちょいと捻くれ者の鶏の男がおったのさ
名はギヨメ
いつもリュートを持ち歩き 帝国軍を皮肉った唄ばかり歌っていたのさ
「腐ったチーズは最低 匂いもキツイしクセも強い でも食べられる
 底の抜けた桶も最低 汲んでも汲んでも水は逃げていくばかり
 でも薪になる
 だから一番最低なのは リガリア帝国の傍若無人の剣
 子供に年寄り 力ない女たちの命まで奪うだけ
 ただそれだけしか能の無い 最低なのはリガリアの剣」

そんな調子なものだから
ギヨメはとうとう帝国兵に捕まって あわやイグドラシルに吊るされるオーディンよ
しかしギヨメはそれをこそ狙っていた
「ヴェルファルドⅥ世撰帝侯閣下を侮辱した報いは大きいぞ!」
罪が大きかったギヨメは
撰帝侯御自らの前で首吊りの刑になるはずだった
しかし
その首に縄がいよいよかけられたとき
ギヨメは唄った
正しい勲の唄を
かつてのリガリアの撰帝侯達が命を懸けて護ってきた
本当の国の歌を
処刑人の手が止まり
兵士たちの心は立ち竦み そして ぎゅうっとなった

我々は一体何をしているのだろう?
我々が本当に護るべき国とは――

撰帝侯自らも思わずギヨメの唄に聴き入り 立ち上がった時

だが

邪悪なる白い女鹿モイライはすぐに気付いた

「おのれ貴様 その魔法の声音 吟遊詩人(スカルド)であったか」

モイライはすぐさまギヨメに向かい沈黙の呪いを放ったが
ギヨメは雄鶏お得意の朝一番声で
モイライの魔法を弾き返し 颯爽と処刑場から逃げおおせた

だがギヨメは悔しかった

本当なら自分の唄で撰帝侯閣下を 正気に戻せたはずなのに
そうして 白い女鹿の魔の手から たくさんの国を救うはずだったのに

意気消沈のギヨメ 国中にふれが出回り
あくどい賞金稼ぎ達も ギヨメを狙う

仕方なしに たったひとつの友リュートを抱えて
リガリア帝国が南のジェノヴァ王国とせめぎあっている間に
手薄な北へ北へ
フィンラントはブルエーレまで落ち延びた

意気消沈のギヨメの歌声には もう磨き上げた魔法の力もないように思えた

そんな時
出逢ったのは同じように戦乱で追いやられた、同じような吟遊詩人たち

くせっ毛のハーディガーディ
ふさふさの尻尾の先はリガリア兵に危うくちょんぎられそうになった
「おいらのクラリネットは魔法の音色、畑を焼こうとしたリガリア兵に鳴らしたら、まるでハーメルンのネズミのようになったものさ。しかし隻眼の梟、リシリューの魔法にやられちまって、この様さ。ああもう自由にこれを吹ける日はこぬものか」

ぶち犬のジャック=ジャック
彼のフィドルは魔法の音色、聴いたら踊らずには居られない
「オレのフィドルは魔法の音色、女子供だけになっていたリュミエールのコロンバン城塞都市に攻め入ろうとしたリガリア軍も踊らしてやったのさ
 なのに将軍・鳥殺しのセシオンに危うく焼き殺されそうになって、こんなとこまでやってきた」

笑いえくぼのオ・ニール
ここいらじゃみかけない、蛙の男、いつもにっこり大きな口
「おいら口でかいけど、唄うより太鼓を叩く方が好きさね、どんどんどん!そういう要領で故郷のスコットランドまで攻め入ってきたリガリア軍の鼓膜を叩き破ってやったね、でも将軍・サラマンドのグスタンにあやうく喰われそうになったんだ、だから火蜥蜴なんてたまらなく嫌いだね、あんなの将軍にしているリガリアはおかしいね」

同じ悲鳴の旗を目印にして、北極星の女神の導きに従い四人は出逢った

ギヨメ「そうだ、マルグレーテⅠ世撰帝侯閣下の御世、こんな世情は思いもつかなかった。今のリガリアを背後で動かしているのは、そう、あの白い女鹿の魔女!世界をこんな悲しみと苦しみに包み込み、一体どうしようというのだ?」
ジャック=ジャック「このままでは唄さえ歌えない」
ハーディガーディ「絵描きも好きな絵さえ描かしてもらえてないっていうじゃないか」
オ・ニール「ワカンを称える美しいもの、モイライはすべてを消そうとしている、憎んでいる」
ギヨメ「――ああ、唄うことしか出来ない我が身に、どうしてあの魔女に立ち向かう術、なかろうか!?」
ギヨメが泣きながらきんきんに澄み渡った北の夜空に向かって叫んだ時――

『その“唄”こそが、戦士達を奮い立たす“魔法”と成る』

どこからともなく、声が響いた
まるで心にそのまま語りかけるような、羽が振るえるような不思議な声

『どれだけ逃げようとも お前達はうたうたい それ以上にも それ以下にもなることはない』

その言葉が偉大なるワカンの心そのものだと、四人はすぐに悟った
四人の頬にあたたかな涙がつたった
そう その言葉をこそ待っていたから

『唄うことしかできないのなら、その唄に込めればいい
 生きていること 立ち向かう意志 不屈の闘志 何者をも恐れず
 真実を探求する勇気を』

「――偉大なるワカンよ!!でも私達の楽器では、リガリア兵の太刀も防ぎきれません!」

『ならばリガリアの過ちを正す剣を支える盾となればいい
 さあ黄金の御子ブレイヴは待っている
 涙に暮れて膝をつき 今 死に際の騎士はグングニルを見失い泣いている
 行って唄うのだ ブレイヴに唄うのだ
 忘れないで どうか その目の前の景色を 守ること 諦めないで と』

そして四人はすぐさま南へ走った
もう迷うことなんてなかったさ
人生で大切なことはいつだって 単純明快
四人は出逢った地、ブルエーレから名前を頂き、“ブルエーレの音楽隊”としてブレイヴの旗の下へ加わった
聖騎士ブレイヴがくじけそうな時 悲しみで胸を潰した時
いつだって雄鶏ギヨメの声音が、ハーディガーディの魔法のクラリネットが、ジャック=ジャックの風のようなフィドルが、オ・ニールの勇ましい鼓笛が
幼き英雄王・ブレイヴとその仲間達を支えたのさ……

ええ私?
まるで見てきたように語るとな?
おお、そういえば私もギヨメと同じ、雄鶏とな?
そういえば わたしの名前は?ですって?

では最後にこの唄を贈りましょう
ブルエーレの音楽隊、傑作の中のひとつをね

――そして死に際の騎士はグングニルを見失う
   すべては闇に包まれ もう一歩も動けないと君は泣く
   だけど 世界で一番 一番暗いのは夜明け前
   昇り来る朝日の中に 君はもう一度それを見出すだろう
   忘れないで いつだって 君のために唄うよ
   怖れないで 君の心を 心の底まで見つめて問い掛けてごらん
   ここにいるよ 確かに君に触れたよ
   だいじょうぶ 守りたいものがあるのなら
   君の心こそがグングニル
   君が希むなら
   ブルエーレの音楽隊はいつでも駆けつけて
   唄うよ
   大きな声で りんりんと
   君のこころ だれかのこころ
   それぞれの中に ちゃんと居るから

   忘れないで 僕らが確かに闘った理由
   それは たったひとつ たったひとつのひかりの衝動
   
   そう これは英雄たちの物語
   自分達だけの 勇気の唄を見出した
   運命を選び取った勇者たちの物語
  
   レジェンド・オブ・スリー・ブレイヴァーズの物語――

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