ねずみの騎士デスペローの物語 ~アース・スカルド・サーガより~

其は英雄と妖精と魔法使いたちの時代
神々は近かりし
されど群雄割拠、力と力はぶつかりあい
我ら立ちし者たちは迷い、争い、傷付き、求めた

「神よ どうかこの混迷の闇を討ち祓う 光を」

ワカンは応えし
一人の御子を地上に遣わし

やがて御子は神槍を継ぎし王と成らん

運命を選べ 掴み取れ

是は英雄たちの物語
自らの手で
希んだ未来を掴み取った勇者たちの物語

~レジェンド・オブ・スリー・ブレイヴァーズ序文~





ねずみのデスペロー 生まれはドイッチュラントの北のほう
貧しい農家の五男坊
生まれたときから 絶望的(デスペロクス)
小さい体に青白い顔 なのにおっぽは真っ黒だった
嘆いたおっかさんこう言った

「貧しい村の 貧しい農家の 7人目
 生まれたときからお前の運命 絶望ね
 名前もついでに デスペロー」

デスペロー それでもなんとか10と4年目まで育った
体は相変らず 小さく 顔は青白い
世はリガリア帝国の紅い蹂躙の風が吹いていた
デスペローの村 何度も兵隊に畑を襲われた
デスペローは我慢して あまり食べずに黙々と
荒らされた畑をおっとさんのために耕した
おなかはいつでも ぺこぺこだ
そんなデスペローなぐさめたのは
教会にあるたくさんの本 伝説の封じられた数々の吟遊詩

英雄アレギウスのタペストリー見ては 溜息ついた
「おいらもあなたみたいになれたらなぁ!」

ある日おとっさんこういった
「デスペロー お前にやる畑はないんだよ
 お前の上には5人も兄貴がいるからね
 修道院に入って 大いなるワカンにお遣えしなさい」

デスペロー 分かっていたが やはり哀しい
月に照らされるアレギウスのタペストリー見て涙を流した
「おいらはあなたみたいな騎士になりたいのになぁ!」

やがてデスペロー 神の家に入る日がやってきた
しかしその日に リガリアの帝国軍がやってきた
国境をめぐる 戦争がまた始まっていた
帝国軍は村を襲いにやってきた

「ああ神様!」

逃げ惑う村人 火を放たれる畑
デスペローの胸に怒りが込み上げて涙が溢れた

「おいらにアレギウスのような力があればなぁ!」

その時
一迅の風と共に現れし
ダンデライオンにハートの紋章
黄金の旗を振り揚げしは
ハンザ=パルティザン(※1)

「聖騎士ブレイヴの名のもとに 帝国に粛正を!」

正義の騎士達は
あっというまに帝国軍を蹴散らした
畑の炎は 魔法使いが雨を呼び 消された

デスペローは一人の騎士に駆け寄った

「おいらも騎士になりたいんです! 黄金の御子ブレイヴさまにお遣えしたいんです!」

おっかさん慌てて止めた

「デスペロー 騎士さまになれるのは 騎士さまのお家に生まれたものだけ
 お前は貧しい農家の末っ子で もやしっこ
 とてもとても この人たちのようには戦えない」

デスペロー こう答えた

「おっかさん おいら確かにチビでひょろひょろ
 年中顔も 青白い
 でもおっかさん
 それでもおいらは騎士になりたい
 ただ畑を燃やされるのを黙ってみてるのはもう嫌で
 ただ守ってくれる騎士さまを待つだけはもっといやだい
 おいら 騎士になってみんなを守るためにいきたい
 おいら 生まれて来た意味を自分で選びたい」

おっとさん とうとう泣きながらなけなしの飯を
ズタ袋に詰め込み 息子を抱き締めた
おっかさん ただただ 泣いて
息子を 引きとめた
ハンザ=パルティザンの騎士は
「早く支度をしておいで 我らの王は
 生まれや育ちを問いはせぬ ただ問うは
 “君の勇気を我に示せるか”」

デスペロー つむじ風のように
こっそりあつめたブリキで作った鎧をまとい
教会の尖塔のさきっぽ 謝りながらひっこぬき
それを からだにつりあわぬ大きなランスに見立てた

「では行こう、ちいさなねずみのスクワイヤ(※2)よ!」

デスペローはこうして旅立った
ちいさなねずみのデスペロー

おっかさんは最後にこう叫んだ

「命を惜しむものに死神は忍びよりますよ!
 命を懸けた者には、オーコン(※3)の祝福がありますよ!!
 だけどしっぽだけは大事にねぇ!」

デスペロー 一度だけおっかさんを振り向いて涙した
おっかさんのあたたかい胸を思い出して涙した

やがて昇りくるは黄金の朝陽
デスペローのブリキの鎧を照らし出す

それはまるで聖騎士ブレイヴの黄金の鎧のように見えた
それはまるで祝福された魂の唄のようだった

デスペローはこうして
ハンザ=パルティザンと聖騎士ブレイヴのもとへと旅立った



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