冬野ゆな@web作家

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冬野ゆな@web作家

いろいろと書いてる人です。 ▼ お仕事依頼はこちら ⇒ yuna.huyuno@gmail.com ▼ 冬の魔術師 ⇒ https://note.com/wizard_winter/

マガジン

  • エーゼルランド島の怪物【怪物ホラー短編集】

    海外ホラー風短編集。怪物ホラーや怪奇幻想文学を目指したホラー作品集です。 収録作:「エーゼルランド島の怪物」「フラッフィー」「緑の沼」「死体処理」「ある幻覚剤について」「ウォーターベイビー」「マッドサイエンティスト」

  • 短編置き場

    主にノベプラやカクヨムなど、小説投稿サイトの企画などで書いた短編をまとめて置いておく場所です。

  • 【短編集】夏のまぼろし

    平成最後の夏に捧げた、ちょっと不思議な夏の思い出話。 蒸し暑い日に蜃気楼の中に入り込んでしまう「蜃気楼の夏」、二百年ぶりに日本で羽化する巨大な蝉の羽化を見に行こうとする「宇宙蝉」など、「私」にとっては特に不思議でもなんでもない夏の幻想譚。 100字未満のものから3000字程度のものまでサクッと読める短編集。 カクヨム掲載版よりちょっと変わっています。

最近の記事

マッドサイエンティスト【怪物ホラー短編】

「フレデリックさん、あなたのその個性は素晴らしいものですわ」 「ありがとう。誇らしいですよ」  満足げな表情で握手を求めた女に、フレデリック・コーウェンは車椅子に座ったままにこやかに応じた。  だが女が立ち去ってしまうと、彼は忌々しげな表情でこう呟いた。 「くそくらえだ」  そうして肘掛けでバランスをとりながら、膝から上まで無い両足を座り直す。  こんなことがあった後は、彼はいつも私に愚痴を言うのが恒例だった。 「何を勘違いしているのか知らないがね。奴等はいつも、ただ自分の足

    • ウォーターベイビー【怪物ホラー短編】

       素晴らしい家だった。湖畔にほど近い家は二階建てで、白い壁紙は染みひとつ無い。前の住人の家に対する心配りを考えると幸運なほどだ。妻のジェシーを伴ってここにやってきたとき、本当に来て良かったと思った。ジェシーは普段より少しだけ大人しかったが、それで充分だ。彼女には気分転換と療養が必要だと僕は確信していた。  時が哀しみを癒してくれるなどという言葉は、戯言にすぎないのだ。  最近のジェシーを見ていると殊更にそう思う。僕だってこの哀しみをどう癒せばいいのか、そもそも癒えるものではな

      • ベレ族のハーブ【怪物ホラー短編】

         祖父が残したインディアンの羽冠を店に飾ると、客には好評だった。  かつてこの国の先住民族であるインディアンたちが住んでいた平原近くの小さな町で、わたしは酒場を営んでいる。この町はアメリカ開拓時代の雰囲気をまだ残していて、レンガ造りの建物も多い。わたしが営む酒場も開拓時代を思わせるサルーンのような店構えにしてある。内部も当然、当時の面影をできるだけ再現したものになっていた。これらの工夫は、訪れた人々の心のなかにあるフロンティア精神を大きく刺激するものになった。この町は以前起き

        • 悪魔の召喚【怪物ホラー短編】

           いくらオカルト好きっていったって限度がある。  特にソフィア・カニングムには毎回辟易させられた。  彼女は友達ではあるけど、変なところで「本格的」なことに拘りすぎるきらいがあったの。  そもそもの話をするとね。私がオカルト好きっていうのは、ネットに転がってる都市伝説やそれこそネットロアを読んだり、クリーピーパスタの怪物やSCPの絵を見たり、最近のUFO動画がどうやって作られているのかを見て時代の変遷を感じたりするのが好きなわけ。もちろん、昔ながらの魔術やハロウィンの時期が

        マッドサイエンティスト【怪物ホラー短編】

        マガジン

        • エーゼルランド島の怪物【怪物ホラー短編集】
          16本
        • 短編置き場
          10本
        • 【短編集】夏のまぼろし
          7本

        記事

          死体処理【ホラー短編】

           それは知事選の始まる少し前のことだった。  あんな事さえなければと何度も思った。  いままでの人生で一度きりとて、サンライズ・ストリートになんか来たいとも思わなかった。いまだってそうだ。ここは良い噂などひとつとして聞かない、社会の底辺だ。この国の掃きだめだ。そう思っていた自分がここに来る羽目になるなんて。  国家に仕える公務員として順調にキャリアを積んでいたはずの私は、仕事で大きなミスをし、ほぼ左遷同然で異動を命じられた。住んでいた寮も追い出され、ほとんど一文無しでだ。私は

          死体処理【ホラー短編】

          緑の沼④【ホラー短編・全4話】

           それからブランドンは、仕事に取りかかる前に苔掃除をすることにした。だがそれは一筋縄ではいかなかった。なにしろ苔はあれから毎日のように、ウッドデッキを占領してしまったからだ。ここに来た時はそんなことはなかった。隅の方で申し訳なさそうに住処を作っていただけの苔が、いまや自分達の領域になったと言わんばかりにウッドデッキそのものを喰い尽くしている。一度侵入を許してしまったせいなのか。そんなことがあるのかと首を捻る。そういう種類の苔なのだろう。  新種かもしれないと検索をかけたことも

          緑の沼④【ホラー短編・全4話】

          緑の沼③【ホラー短編・全4話】

           パラパラとページをめくり、軽く読めそうな部分に目を通す。いくらかそんなことを繰り返すと、この事故死した人物の――おそらく男の――ことがなんとなく察せられた。男は精神を病み、療養のためにここへ越してきたのだ。文字は角張ったような神経質そうな字で、これを書いた人間の精神性がそのまま投影されたかのようだ。年齢はブランドンより年上と見え、だいたい中年くらいを想像してしまった。うだつの上がらない、陰鬱な表情をした神経質そうな男。骨張った手がこの本に角張って妙に堅い文字を書き込んでいく

          緑の沼③【ホラー短編・全4話】

          緑の沼②【ホラー短編・全4話】

           翌朝、カーテンの向こうから差し込む光で目が醒めた。時計を見ると、もう十時近くなっていた。専業になってからずっと遅い起床が続いていたが、何も考えなくていい起床とはやはり違う。いい加減起きるべきかとあくびをかみ殺し、下に降りることにした。  軽く朝食をとってから、昨日と同じく物置の扉を開けた。デッキブラシとバケツを手に、ウッドデッキに出る。こんなことは久しぶりだ。ちらりと見ると、緑色の苔が床の隅にもついているのがみえた。昨日は気がつかなかったのだろう。滑らなくて良かった。苔をそ

          緑の沼②【ホラー短編・全4話】

          緑の沼①【ホラー短編・全4話】

           五月も終わりに近づき、夏のはじまりが訪れる季節に、ブランドン・ホーニングはやむにやまれぬ事情から住み慣れた都会を離れる決意をした。ブランドンはもうすぐ三十歳になるかという男で、作家としてペンの代わりにキーボードを叩いて日銭を稼いでいた。長年の夢を叶え、六年ほど前に一冊目を出版して以来、原稿に向き合ってきた。だが最近ではもっぱら退屈と怠惰の中に沈み、原稿に向かう手も遅々として進まなかったのである。  ブランドンはもともと文学を志していた。ヘミングウェイやドストエフスキーにひと

          緑の沼①【ホラー短編・全4話】

          フラッフィー③【ホラー短編・全3話】

          「くそっ、どこだ!」  俺はまず一発、撃った。床に穴が開いた。続いて弾数も考えずに、三発撃った。ラックに置いてあった瓶に当たって中身が飛び出し、ガラスが割れ、壁にも穴が開いた。煙があがった。たったそれだけだった。叫び声すらしなかった。婆さんや外に銃声が聞こえるかもしれないが、知ったことか。 「う、腕が。俺の腕があっ……」  パニックに陥った声が聞こえてきた。イライラした。静かにしてほしかった。もう少しで、黙れと言ってしまうところだった。ちらりと後ろを見る。引きちぎられた方のシ

          フラッフィー③【ホラー短編・全3話】

          フラッフィー②【ホラー短編・全3話】

           計画はいつだって"慎重に、そして順調に"だ。それが最高にクールだ。相手を殺す時もそう。仕方ないことだからな。運が無かったんだよ。俺たちを発見しちまうっていう、最悪な運勢を引いちまったんだから。俺たちだって、侵入ルートから逃走用のルートも確認し、いつ頃であれば誰も通らないか、いつ頃なら誰もいないか。ちゃんと調査するんだ。今回ばかりはちょいとうかうかしてる暇はなかったけどな。だってこんなバツグンの場所、いつ他の奴等にとられてしまうかわからない。迅速にやらないといけなかった。だか

          フラッフィー②【ホラー短編・全3話】

          フラッフィー①【ホラー短編・全3話】

           俺たち四人はなにをするにも一緒だった。  四人でいれば無敵で、なにもかもうまくいくと。  だから、メリッサ・ヘイズンの屋敷に忍び込んだ時も、きっとうまくいくと思っていた。  最初に話を持ってきたのは‪”‬情報屋‪”‬のアンディだった。アンディは茶色いくりくりした目の童顔の男で、普段は売人に顧客名簿とか売りさばいているやつだ。身長も低くて、いつだって実年齢より幼く見られてたから、どこにでもすぐに入っていけたのさ。本人はどっかで日系の血が入ってるって言ってたけど、どこまで本当

          フラッフィー①【ホラー短編・全3話】

          デニー通りの賛美歌【ホラー・短編】

           ザゲ市にあるデニー通りの人々は決して賛美歌を歌わない。  それは通りに住む人々ならよく知っていることだった。  あの通りに住む人々がべつだん不信心で不義というわけではない。少し北へ行った通りには小さな教会があって、日曜に開かれる礼拝に毎週出向く人もいるくらいだ。反対にそれほど熱心な教徒でなくても、わざわざ日曜に出向いて石を投げるほど暇ではない。単に、歌いたくてもデニー通りを通る時は歌わない方がいいというだけの話だ。そもそも賛美歌は大勢で歌うことや、教会で歌うことを想定され

          デニー通りの賛美歌【ホラー・短編】

          エーゼルランドの怪物④【短編小説・全4話】

           それからしばらくして、とうとう祭りの日がやってきた。  山に向かうのは夕方からということで、それまでは街の中で祭りを見てみることにした。この日ばかりは普段研究に勤しむ研究者の中にも、街の中で祭りを楽しむ者がいるようだった。服装がずいぶんと違うために目立った。  そういえば祭りなのだから、なにか神を象徴するようなものがあるのではないか。そう思って、きょろきょろとあたりを見回す。だが、やはり存在しなかった。結局、ブランチャードは少しぶらぶらとしただけで宿に戻り、夕方になるのを待

          エーゼルランドの怪物④【短編小説・全4話】

          エーゼルランドの怪物③【短編小説・全4話】

           翌日からは、ブランチャードは研究と偵察を兼ねて街の中を歩いてみることにした。  まさに中世の町並みを歩いているかのようだった。ただ、本物の中世と違うのは清潔感があったことだ。文明レベルが中世だといっても、大きく違う所は当然ある。加えて下水道が発達したらしく、一般家庭でもトイレなどは現代に近い作りになっているのだろう。汚物を窓から投げ捨てるような猛者はいなかった。人々の足元を見ても、ぺたんこの靴で歩いている。  商店街も活気があったし、なにより食べ物が充実していた。食べ歩きの

          エーゼルランドの怪物③【短編小説・全4話】

          エーゼルランドの怪物②【短編小説・全4話】

           各人に割り当てられた部屋に通されると、ようやくブランチャードは一息つくことができた。  宿の部屋の中は、右手側の壁の真ん中に、大きめのベッドが一つ。その脇には抽斗のついたクローゼットが置かれていた。左手側の壁には装飾のされた大きな鏡がひとつかけられている。その手前に丸テーブルが一つと椅子が二脚置いてあった。本棚もあったが、そこには何も置かれていなかった。クローゼットの中もまだ空っぽだ。  トイレや風呂まで中世風ではないかと勘ぐっていたが、入り口を入ってすぐのところにあるシャ

          エーゼルランドの怪物②【短編小説・全4話】