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あのおでんの味はどこに

帰省の途中、とある郊外の住宅地にある小さな駅に降りた。

ここは、僕が幼い頃暮らしていた場所だった。

本当に小さかった頃のことだから、ほとんど記憶がない。
けれど、一つだけ、覚えていることがあった。

この駅には、市民プールがある。
当時の僕の家には冷房がなかったので、近くのプールが夏の大事な涼みどころだった。

そして、帰り道にある謎の駄菓子屋さん。

プールに近いためか、うきわやらビート板やらにまみれた挙句、一番の目玉が。
夏場のおでん。
プールの後に食べるこのおでんがとてもおいしかったことを、子供心に覚えている。

まだ、あるのだろうか。

市民プールの横を抜ける。
かしましい子供たちの声が響く場所を抜け、路地の途中。

その場所は、ただの家屋になっていた。

立ち尽くす僕の横を小学生たちが抜けていく。彼らは、近くのコンビニへと入っていった。

なるほど、今はあそこが涼み処か。

彼らの背に誘われて、僕もふらりとそちらへ向かった。