二年後日本で

いつものように素っ気ない別れだった

彼は三階で僕は二階だから、二階でエレベーターのドアが開いた

抱き合って背中をたたき合い、お互いに素っ気なく手を振った

そうなるだろうなとは予想していた

やはり悲しくなかった

涙も出なかった

でも二人にとって意味のあることではある

素っ気ない

彼との別れはいつもそうである


自分の部屋まで行って着替えとお風呂用具と100円玉をとった

寮では共同のシャワールームを使うことになっている

シャワーを浴びながら自然と軽く思いをめぐらせた

彼との出会いは大学に入学してすぐの事だった



サークルに新入生を勧誘しようとチラシを持ったthe大学生が構内を徘徊していた

新入生と思われる人にサークルのチラシを押し付け、5歩くらい歩調を合わせながら使い慣らされた誘い文句を浴びせる

そんな状況で

僕もさいわい新入生と認識されたらしい

一枚もらってからは、”僕は新入生です”と誇示したようなもので次々とウェイウェイ大学生がたかってくる

気づくと僕の両手には数十枚のチラシがあった

この前の入学式でもらったやつも含めるとすごい量だ


サークルにあまり興味はなかったが、友達を作るために、と、無料でご飯を食べるために新歓には行くことにした

実のところは友達にもあまり興味がなく、ただ周りに流されただけであった


ものが配置される、しかるべき位置が決まってないこの部屋で、サークルのチラシを一枚ずつ見てみた

あわよくば入る予定であるから、チラシのつくりからサークルの雰囲気を予測するように眺めた

色黒の男女が集団でピースをしているスキューバダイビングサークルのチラシは見た瞬間に捨てた

手書きで書かれた優しい感じの民族音楽サークルのちらしはとっておいた

五枚だけ残った

とりあえずこの合唱サークルに行こうと決めた

合唱サークルの明日の予定に”ケーキ会”と書かれていたからである



翌日、学部の説明会が終わってサークル棟一階にある部屋に行った

ドアは開いていて靴が無造作に並んでいた

すこし入るのに勇気が要った

靴を脱いで中に顔をのぞかせると

どうぞどうぞと手厚い招きに呼びこまれた


すでに三人ほどの新入生がいた

先輩と話していた

どうやら新入生が履修登録の相談をしているらしい

履修登録とは大学生が自分で時間割を決められる仕組みである

何学部かと聞かれた

経営学部だというと、経営学部らしい先輩に履修登録を教えてもらうことになった

その先輩に、講義名が埋め込まれた時間割表を手渡され

「これ、写して」

と。言われた。

「え。」

とおもった。音を発したわけではない。

履修登録の仕組みや、各講義の内容、アドバイス、とか

そういうことかと思っていた

その先輩曰く、この時間割が一番単位を取りやすく、

らしい

そういうものかと納得しようとした

楽に単位をとるために大学にきたんじゃないと思うのは新入生限定のことなのかもしれないと


一年後の僕もこの部屋で、一個下の後輩に、楽単を詰め込んだ時間割表をフッと渡しているかもしれないと


とりあえず今は、うんうんと頷いておいて部屋でじっくり考えようと思った

「楽なんですね!ありがとうございます。」

心にもない言葉をこんなにも自然に言える自分


履修相談会、というより履修書写会が終わって、何かやろうという流れになった

よくみると部室には、麻雀台、テレビゲーム、漫画、ピアノなど、あそび道具が揃っていた


普段から合唱よりもこういうことをやってるんだなと思うと楽しそうで何よりだ



麻雀をやることになった


僕はルールブックを見ながら台を見つめた

先輩二人、新入生二人が台を囲んだ


麻雀は覚えるのが大変

チーとかチョーとかホーとかカタカナワードが多すぎる


台を囲む新入生の一人が留学生らしい

片言の日本語であり

慣れた手つきから麻雀のルールは知っているっぽいことを察した




切なくなった




ある瞬間にある感情が沸いたときに、その二要素の結びつきがわからないことはよくある

人間とは矛盾する”いきもの”である

というよりは現象を分ける”いきもの”であるがゆえに、そこにおいて矛盾するのである

分けるという行為そのものが不可能だからである



僕は麻雀台に対する留学生らしき彼に、なぜか理由もなく、切なさを感じたのである





麻雀を見、スマブラをし、合唱を聞き、ケーキを食べた

とある大学の、とあるサークルの、新歓が一通り終わった


一通りの中で同じ新入生達と型っぽい会話をした

彼は韓国から来たらしい

割と日本語は喋れる

日本に来たのは初めてで、韓国の日本語学校に1年通っていた

書いたり読んだりはできるけどコミュニケーションは苦手

僕と同じ寮に住んでいる

ことがわかった


そして、会が終わったら一緒に帰ろうと言われた



僕の心は取り乱された






僕は孤独が心地よい

今日ここに来たのも

友達を作るためではなくケーキを食べるため

もちろん一人できて一人で帰り

人との結びつきがゼロの状態を保ちたかった

僕はそういう人間性をもっている

と思い込んでいる

ましてあまりコミュニケーションがうまく取れない留学生と25分間、電車内で何をしゃべるのだろう

想像しただけでも苦しくなるような

できないわけではない

割と合わせるのは得意な方だし、高校まではうまく取り持ってきた

しかし、高校卒業した瞬間に感じたあの解放感

から

また人間社会に引っ張り戻される気がした


かといって純粋な彼の目を濁すわけにはいかない

1年間言語や文化を勉強しただけの異国に一人できた

反韓の人がごく少数かもしれないけれどいることはなんとなく予想がつく

なんのためにきたかはわからないが相当な覚悟のうえで決断したのだろう

そんな個体に対して、冷徹な断り

しかも理不尽で理由の見つからない断りをするわけにはいかない


おっけー

帰るときに声かけるね


同じ寮ゆえに今後も接してくるであろう個体

人間関係をすっきりさせておきたい我

二要素が整合した結果だった


大学から駅までは20分くらい歩く

ここで彼と何の話をしたかは覚えていない


なぜなら

電車内での会話が印象に残っているからだ


かれはこんなことから切り出してきた

「もしダメだったら断ってもいいんだけど」

「こんなことはなしてもいいかな」

「政治とか…」

恐る恐るというか

僕の顔をうかがいながら

.....の感じで聞いてきた



「いいよ」


そこからだった



韓国の教育は洗脳だと思っていること

地元の友達がみんな洗脳に気づいていないということ

国民が無駄に政府に対して批判的であること

母国は好きだが、政治やそれに対する国民の反応は間違っていること


そんなところだったとおもう

正確に彼の意見をインストールできているわけではないので誤解もあるかもしれないが、その辺はご容赦お願いしたい


素直にすっきりした

同じ匂いがするというか

多分この子の方が知識があって、身に染みる体験があって、懐疑しているのだろう

そして僕にそれを伝えた

対して、ぼくは思っても人には言わない

言ったって、なんの話してるの、とか、めんどくせー、とか思われるだけだから

あと、そんなに頭が良かったり、知識が豊富ってわけではないから、自分理論が正しいと自信を持って言えないから

The Haji Culture である


駅を出て寮まで5分

僕がどういう人なのか、いくつかの質問に責められた

答えた in Japanese.

エレベーターにのった

彼は三階で僕は二階だから、二階でエレベーターのドアが開いた

お互いに素っ気なく手を振った



ーーーーーーーーーーーーーつづくーーーーーーーーーーーーーー
























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