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声の射程

「スーパーロボット大戦」の最新作『スーパーロボット大戦T』が発売中だ。

「スーパーロボット大戦」シリーズは、作品のテンションや世界観の異なる古今東西のロボット、マジンガーZ、ガンダム、エヴァンゲリオンなどが集まって、共通の敵と戦うシミュレーションゲームだ。ぼくはこのシリーズが25年前から好きで、今でも新作が発表されると上記のようなPVを自宅のテレビに大写しにし、お気に入りのロボットがどのような動きで登場するかチェックするぐらいには関心がある。

ゲーム内容としてはアベンジャーズ×将棋みたいな、割とシンプルなもの。ただ、将棋と違う点が一つある。「射程」だ。各ロボットを将棋盤ように四角く区切られた盤面で動かしていくのだけど、将棋のようにロボット同士が隣り合ったり、乗っかったりしないと戦いが起きないかというとそうではない。

ビームやライフルで武装しているロボットなら遠くからでも相手を射撃できるし、剣しか持っていないやつは近づかないと斬りつけることができない。もうちょっと具体的に言うと、アムロとνガンダムならフィンファンネルを使って超射程から仕掛けられるけど、シンジくんとエヴァンゲリオン初号機は相手のすぐそばまで行ってプログレッシブナイフでぶっ刺す必要があると、そんな具合だ。要は、各ロボット、パイロットごとに得意な「射程」があり、それを考慮した部隊編成・展開が求められるのである。それを練るのがまた、たのしい。

そんな「射程」について思いを巡らせずにはいられないことがあった。

昨日、PRディレクターの片山悠さんが主催し、弊社ツドイが企画・運営している連続トークイベント「しみこむPR」の第2弾を開催した。会場は第1回と変わらず永田町GRIDで、ゲストは「戦略PR」という言葉を日本に広めた功労者の本田哲也さん。今回もたいそう盛り上がった。

そのすばらしい内容については、いずれ詳細なレポート(第1弾のレポートはこちら)が出るのでそちらにゆずるとして、今回は登壇したふたりのトークのトーク力に触れたい。本田さんも片山さんも、めちゃくちゃ話がうまいのだ。

会場の50人強の人たちにとって適切なスピード・長さ・大きさ・テンション・構成で話すのでほれぼれしてしまった。ぼくも進行役として少し話したが、自分で思い返しても聞きづらく、お客さんにストレスを与える話し方をしてしまったなと思う。同じ会場・同じマイクだったので、それが余計に身にしみた。

この差、もちろん基礎的な能力・トレーニングの違いもあるのだろうけど、得意な「射程」の差でもあるんじゃなかろうか。近距離、つまり一対一で話すのが得意な人もいれば、ふたりのように50人相手に話せる人もいるし、1万人以上の人に向けて話しても伝わってしまう、オバマのような人もいる。

たとえばウイスキーのおいしさを説明するとき、バーでとなりに座っている人になら「そもそもウイスキーには『神の水』という意味があってね……」みたいに10分かけて丁寧に話すのがいいかもしれないけれど、50人相手のときは「アメリカでは、ウイスキー税への反対運動が大きくなりすぎて、12,500人の兵士が出動したことがあります!」と、印象的な事実から話をはじめた方が伝わるかもしれない。話にも、確かな「射程」がある。

自分の得意レンジがどのあたりなのか、また、射程距離によって話し方や話す内容にどんな調整が必要なのか。次また人前で話す機会があれば意識していきたい。余談だけど、ブッシュ政権を影であやつっていた(と言われる)副大統領ディック・チェイニーは、めちゃくちゃ演説が下手だったらしい。詳しくは映画『バイス』で。