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サウナの不動明王

近所の銭湯に行ったら、背中いっぱい、首から腰まで入れ墨の入った男性と一緒になった。右の肩甲骨のあたりには縦書きで「不動明王」と書かれている。なんというか、ファッションではない入れ墨だ。年の頃なら、23歳ぐらいだろうか。ぼくの住むエリアは割と「入れ墨OK(と明言もしないんだけど)」の銭湯が多く、彼のような人がいるのは珍しい光景ではない。

サウナに入ると彼もやってきて、最上段に座るぼくのすぐ前の位置に腰を落とした。こんなに近くで入れ墨を見る機会もないので凝視する。不動明王と目が合う。こちらをにらんでいる。

サウナに備え付けのテレビはぼくらの右側にあり、そこでは『笑神様は突然に』が流れていた。レイザーラモンRG、青山テルマ、ロバート秋山、TM NETWORK木根(全員敬称略)による「撮影スタジオに行って、たまたま出くわす有名人と一緒に歌う」というロケが放送されている。

入れ墨の彼がそれを観て、声を出して笑っていた。6人ぐらいの人がサウナにいたが、声を出して笑っていたのは彼だけだった。それも「ガハハ」というよりは「フフ」「クスクス」という感じの、親近感のわく笑い方。

肩越しに見える笑顔は無邪気で、一流の寿司職人がカップラーメン好きだったり、大会社の社長がビジネスホテル好きだったりするのに驚くような、「勝手に持った偏見がたまたま覆され、それに無闇に感動する」という心の動きをぼくに与えた。そりゃヤクザだって、ロバート秋山で笑うよね。