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自分以外になろうとしないでいいと思う

この業界に入る前から出版不況という言葉は聞いていた。前の職場では昔は本が売れたから毎年社員旅行に行っていたらしい。そんな話を昔話として聞かされた。

最近では(というか私がこの業界に入ってからずっと)ただ出すだけでは本は売るのは難しい。SNSで宣伝したり、著者のイベントを企画したり、新聞や雑誌に書評を書いてもらったり、新聞広告を出したり、TVでとりあげてもらったり、どこの会社の編集者もみんなそれぞれ自分のやり方で売り方まで考えて実行している。幻冬舎の箕輪さんはその一番の成功者だし革命家でもあると思う。

「これからの編集者は売り方まで考えなきゃいけない」
「著者をどうやって売り出すか、著者をプロデュースしなきゃいけない」

そんなことをよく言われる。全くその通りだと思う。私も本を企画するときからどうやって売るかまで考える。できる限りのことをする。

でも一方で、それにそこまで興味を持てない自分もいる。私がどうして編集者の仕事をしているか考えると、「本という物が好きで、自分が好きな物を作りたいから」が一番にくる。

だから企画を考えるときは、タイトルや著者やテーマを考えながら、その本はどういう形がふさわしいかを想像する。手触り、サイズ、持ち歩いてもらう本か、ハードカバーかソフトカバーか、どんな人のどんな本棚にしっくりくるか、寝る前にベッドで読むのか電車で少しずつ読むのか、読んだ後に人に貸したくなるのかそれともずっと自分の本棚に置いておきたくなるのか、物体としての存在感は柔らかいのか明るいのか賢そうなのか、そんなことを考える。

そういうことを想像していると、自然とどんな物体なのか、だんだん見えてくる。そのイメージを具体化してくれそうなデザイナーさんにデザインをお願いする。

そういうスタイルの編集者なので、たぶん売り方とかプロデュースとかが得意な編集者にはずっとなれないと思う。少なくとも今は、なりたいと思ってないからなれない。

出版社も各社それぞれ問題があるし、厳しい業界だろうけれど、私はただ好きで本作りをしているから、それを続けるしかできないなと思う。

それに物としての本に対する嗅覚とか感覚は、自分の編集者としての強みだとも思っている。私は小さいときから本が好きで、好きという言葉では軽すぎてほとんど自分の一部だと思っているのだけど、たぶん人より紙の本に触れてきた時間と冊数が多くて、物としての本を見たときにそこから感じるものや想像するものの量が多いんだと思う。

最近どこかで聞いた言葉ですごくしっくりした言葉がある。
「自分以外になろうとするのはやめた」
たぶんだれかとの会話で聞いたんだと思うけど、この言葉が今の私にはすっと入ってきた(すごく良い言葉だと思ったのにどこで誰から聞いたのか全く覚えていない・・・)。

私も自分以外になろうとするのはやめる。
自分以外になろうとしなくても、自分にしかできないことはもうすでにある。自分にしかできないことは自分が楽に得意に無理せずできること。頑張ることがつらくないこと。

これはたぶん全ての人に言えることで、私はよく著者の方と取材で話すときも、「自分にとって一番普通だと思うこと、自分にとって当たり前のこと」を聞くようにしている。そうすると、「すごく簡単なことですけど」とか「たいしたことじゃないですけど」とか枕詞をつけて、すごく面白い話をしてくれる方が多い。

自分以外の人がすごく見えることは多い。でも人をすごいと思うことと、自分もそうなりたいたいと思うこと、それを目指さなければいけないということは全く別次元のこと。

もちろん仕事だから結果は出さなきゃいけない。でもその「結果」が自分が本当に欲しいものなのか、自分の特性に合ったものなのか、は一度考えたほうがいい。

○○を目指せとか、○○がすごいとかそういうことを煽るメディアは溢れてるけど、もうみんな自分以外になろうとしなくていいと思う。普通の自分が一番個性的だし素敵、ということを人にも自分にも言っていきたいと思う。

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