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Chants of Sennaar:言語の持つ”良さ”を教えてくれる謎解きADV

みなさん、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。自分は相変わらずゲーム三昧の日々を送っています。さて、秋といえば、ゲーマーとして見逃せないのはブラックフライデーを始めとする各種セールです。今回、自分はSteamのオータムセールで、前々から気になっていた「Chants of Sennaar」を購入しました。

Chants of Sennaarは神話をベースにした世界観で架空言語を使った謎解きをするという、自分の好みの属性がてんこ盛りなゲームです。そんなこともあり、ぶっ通しで遊んでトロコンまでしてしまいました。

10時間ほどでクリア!

完走した感想は「うわっすげー!」って感じです。よろしければお付き合いください。あ、ネタバレはガッツリなので、未プレイの方はブラウザバックをお願いします。

Chants of Sennaarの架空言語はクオリティが高い

架空言語で謎解きをする本作ですが、その架空言語のクオリティがかなり高いと思いました。

五つの民族と言語が登場するのですが、最初に出会う言語ほど未熟で、だんだんと成熟していきます。例えば、複数形を表す際、最初に出会う教徒の言語では単語を重ねるのに対して、後の言語では複数形を示す単語が登場します。

単語の形も序盤の言語は象形文字みたいなのに対して、だんだんと抽象的な形になっていきます。現実世界の言語の進化を見ているようで、めっちゃ面白かったです。

さらには、本作の架空言語には文法の概念もあります。主語、動詞、目的語、複数形と否定形の表現方法などですね。架空文字ではなく、文法を含めた架空言語を使って謎を解くのが本作のミソだと思います。

Chants of Sennaarの謎解きはすごく多面的

本作の謎解きは二つのフェーズを持っているのが特徴的です。

辞書埋めは「Return of the Obra Dinn」に似ている

フェーズ1ではその民族の言語の解読。これはよくある謎解きと同じく、マップにあるオブジェクトから単語の意味を推察し、辞書を埋めていくものなります。新たなマップに着いたとき、これでもかとわからん言語を浴びせられて途方に暮れてしまうんですが、それをひとつひとつ紐解いていくのは楽しかったです。自分は日本から出たことないですが、海外に行くとこんな感じなんでしょうか。

フェーズ2は本作最大の謎解きで、異言語間の交流、つまり翻訳です。これが前述した文法を理解する必要があり、中々難しいです。さらに、文法がわかったとしても、単語とその中身の認識(つまりクオリア)が各民族で違ったりするので文脈も理解しなければなりません。しかし、その分、解けたときの「やったったぜ感」はかなりありました。

Chants of Sennaarはレベルデザインが良い

本作を終えて、思い返してみるとレベルデザインがかなり良いことに気付きました。

前述した架空言語は最初に象形文字が出てきて、ある程度形からその意味を推測できます。なんとなくで解けるようになっているので、ゲームに慣れていない段階で謎が解けない、という状況を回避できています。

また、単語の意味が正解かどうかは辞書を埋めるとわかるんですが、すべて埋めると正解が発表されるものではなく、見開き1ページの3~5つの単語ごとに発表されます。つまり、どうしてもわからない単語が一つあっても、そのページのほかの単語がわかっていれば総当りで正解を見つけることができます。これが結構いい塩梅でした。実際に、自分は「もうダメや……」と感じたらある程度総当りしていました。

文章が文中の単語をすべて解読すると自然な表現になるのもよかったです。これのおかげで、単語は理解しているけど文章を理解していないという、自分では間違いに気付きにくい状況を防げています。単純に物語への没入感も高くなりますし、何より相手の言っていることが理解できるのは嬉しいですからね。

ただ、ひとつだけちょっと微妙なところがあります。これはレベルデザインではないですが、移動が微妙です。ポイント&クリックでキャラクターを移動させるんですが、視点がグリグリと変わるので、誤クリックか結構多かったです。謎解きのためにマップのあちこちを行ったり来たりしないといけないので、移動が微妙なのは明確にマイナスポイントです。

Chants of Sennaarの世界観は直球勝負

架空言語を使った謎解きが本作のテーマですが、その世界観はかなり直球勝負だと感じました。

コアとなる題材は皆さんご存知のバベルの塔です。旧約聖書に出てくる、神が人間の言語をバラバラにした伝説のあるアレです。本作ではバベルの塔の伝説の後のお話なのか、バラバラになった言語を翻訳することで分かたれた民族をひとつするというストーリーになっています。最初はそれぞれの民族は敵対しているのですが、翻訳を重ねていくとお互いの溝が埋まり、交流が増えていく様はエモかったです。架空言語がテーマの作品としてこれ以上ないくらい満点でした。

バビロンの空中庭園っぽい

アートワークもバベルの塔(というかメソポタミア)を意識しているのか、どこか民族チックで極彩色が映えます。スクショの撮りがいのあるゲームが好きな自分としてはかなり良かったです。

Chants of Sennaarはすげえ

本作を総括すると、「言語」が持つ単語、文法、文脈などの性質や魅力を様々な角度から表現し、それを適切なレベルデザインの謎解きに落とし込んだゲームだと感じました。ストーリーやアートワーク、BGMもバベルの塔という「言語」と密接に関係する題材をモチーフにしており、ゲームという総合的なエンタメとして高いレベルで纏まっています。ぶっちゃけると、面白さよりもクオリティの高さに圧倒されました。

神話好き、架空言語好き、謎解き好きな方に遊んでほしいゲームです。気になった方はぜひプレイしてみてください。では、また。


以下、考察と攻略メモ

未クリアの方は見ちゃいけません。

各民族について

教徒

プレイヤーが最初に出会う民族。最下層におり、神を信仰している。神を見つけるために上層に行きたいが、戦士が邪魔をしていて上がれない。しかも、戦士に悪魔と呼ばれている。かわいそう。

文法はSVO形(Sは主語、Vは動詞、Oは目的語)。複数形は単語を重ね、否定形は単語の前につく。単語は五民族の中でも一番象形文字っぽい。となると、ヒエログリフがモチーフなのかもしれない。教徒自体が古代エジプトモチーフなのかも。

戦士

プレイヤーが二番目に出会う民族。名前の通り、剣と長い兜と肩当てをつけてるやつしかいない。上の層にいる吟遊民が鐘を鳴らすのを待っている。無骨な割に音楽好きというかわいらしい面がある。

文法はSVO形。複数形は単語の前、否定形も単語の前につく。ロングシップが宝物庫にあったりするので、モチーフはたぶんヴァイキング。となると、単語のモチーフはルーン文字。とはいえ、星座と単語が対応している感じがあるので、ルーン文字×星座ってところかも。天文航法を活用してこの塔まで来たのかもしれない。

吟遊民

プレイヤーが三番目に出会う民族。こいつらは上の層を目指さず、のんびりと優雅に暮らしている。と見せかけて奴隷っぽい階級があるみたいで、なんだか物騒。実は後述する科学者と兄弟の関係にある。戦士によって守られているけど、こいつらはそんなに戦士のことが好きじゃない。戦士かわいそう。

文法はOSV形。複数形は単語の後、否定形は単語の前につく。目的語が最初に来るので翻訳するのがかなり大変。単語のモチーフは見たまんまアラビア単語。とはいえ、吟遊民自体はすごい古代ギリシアっぽい。アゴラ(広場)とか劇場があるし、奴隷制度もそう。

科学者

プレイヤーが四番目に出会う民族。上層につながる扉のカギの合成方法を研究している。

科学者の文法はSVO形。複数形は単語の後、否定形は単語の前につく。独特な表記法の10進数がある。単語のモチーフは数学的な概念がある魔法陣な気がする。数字の単語はまんまカギの形。扉のカギを研究する過程で発展していった表記法なのかも。科学者はペストマスクみたいなのを被っているし、14世紀頃のヨーロッパがモチーフかも。錬金術も流行っている時期だし魔法陣とも関連しそう。

G1405 S812 C46

孤独の民

プレイヤーが最後に出会う民族。VRゲームか何かで遊んでいる引きこもり。すごいディストピア感がある。

文法は特に考えなかったので不明。ここまでの民族の言語をちゃんと解読していると、半自動的に孤独の民の言語を理解できる。単語はかなり抽象的だけど、単語の中に別の意味の単語が入ってることがあり、意味もそれなりに対応している。つまり、漢字がモチーフ。

黒幕っぽいやつは多分神、の偽物。教徒が目指していた神は、結局のところ民族同士のつながりだったからね。偽の神がいる感じはグノーシス主義っぽいテイストを感じる。

以上!

ゲーム代やお供のお菓子やドリンク代にかわります