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#小説

背に沿って島、落ちる貝

背に沿って島、落ちる貝

 貝の背中。

 ランゲルハンス島みたいだな。ランゲルハンス島って知ってる?
 海に浮かぶ島の話じゃなくて?

 その島の話じゃなくて。

 きみが海の話をすると、エミは僅かにからだを硬くするのが分かる。エミは海を知らない。エミは野原も知らない。エミは自然観察の歓びを知らない。エミが好きなのは碧空だけなのかも知れない。ふたりで道を歩いていくと、エミはスマートフォンで何枚も空と雲の写真を撮った。

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断章 / ミルナは鏡のなかにいる。

断章 / ミルナは鏡のなかにいる。

 ミルナは鏡のなかにいる。

 行旅死亡人(こうりょしぼうにん)とは、日本において、本人の氏名または本籍地・住所などが判明せず、かつ遺体の引き取り手が存在しない死者を指す言葉で、行き倒れている人の身分を表す法律上の呼称でもある。「行旅」とあるが、その定義から必ずしも旅行中の死者であるとは限らない。なお、「行路死亡人」は誤り。(Wikipediaより)

     
 行旅死亡人について考えていた。

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(444書)「渚ちゃん」

(444書)「渚ちゃん」

 渚ちゃんは、ワインをかっくらう。帰宅したらささっと化粧を落として、フレッシュローソンで買った良い感じのチーズを齧りながら、ワインをのむ。グラスではなくて、麦茶をのむ為にあるようなガラスのコップでのむ。
 渚ちゃんは泣かない。渚ちゃんは高円寺に住んでいる。そしてギターがじゃかじゃか弾ける。マンションの隣人は怖くない。マンションの隣人も、ベースの練習をするひとだからだ。反対側の隣の部屋にはシェパード

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(tw300ss)「一緒にゴール」

(tw300ss)「一緒にゴール」

 Aはattention pleaseで、Bはbe careful──生徒がふたり並んで、先生が開いたカードの文字の英単語を先に云った方が勝ち。そういうゲーム。
 佑と私が接戦だった。何度カードを捲っても私たちは同時に答え、また引き分け、とクラスに笑いが起きた。
「じゃあ次の問題が同時だったらふたりとも優勝」
 痺れを切らした先生が云ったとき、佑は私の手を一瞬握った(同時に答えよう)彼女は囁いた。

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「冷静になる呪文」

「冷静になる呪文」

 理系生物クラスのsという子と当時仲が良くて、高校生になった頃から、大学生活の日々の相談まで、そのあいだ色々と話していた。彼女は生物クラスで私は物理クラス。だが、お互い高校では国公立理系ということで、数学の勉強は共に出来た。私は高校に入ってから保健室に篭り気味で、sは配布される授業についての藁半紙の裏に、手紙やメモを書いて保健室まで渡しにきた。

 或るとき「冷静になる呪文」というメモが渡された。

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twitter300ss「影絵の子」

twitter300ss「影絵の子」

 影絵がすきなの。
 ゆぅちゃんは云う。
 きつね?
 うん、きつねもあるけど。ほかにも出来る。
「私、かに、出来る」
 私たちは暗い部屋に居た。西日が射して、ゆぅちゃんが指を折り曲げて襖にかざした。
「はと」
「ほんとだ」
「白鳥」
「すごいね」
「オオカミ」
「へえ」
「やかん」
「……やかん?」
「やかん。……へん?」
「や、ううん。うん、やかん、ね」

 ゆぅちゃん以外に薬缶の影絵を知って

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女子校生だった話(番外・スカート陰翳)

女子校生だった話(番外・スカート陰翳)

 いきなりの番外。
 第1回の話はこちらです。

 男子はズボン、女子はスカート、そんなジェンダ論の押しつけを撥ね退けたいひとの声を聞きながら、何が違うんだろう、とぼんやり悩む。私は女子高生だった。そして女子校生だった。中学と高校の一貫校は女子校だった。

 制服はスカートだった。
 ジャンパスカートで、喩えるならアニメの新世紀エヴァンゲリオンに登場する中学生の制服を、駄目な感じに改造して駄目な感

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twitter300ss「新学期」

twitter300ss「新学期」



 ねえ、今日一緒に帰ろう。

 ただの、そんなことが、怖かった。

 お弁当をひとりで食べていることについて、何も動じていない筈だった。〝ぼっち〟という解りやすい痛みに心を仕立てる軽薄さを、見くだしている、筈だった。
 中学校からバス停まで徒歩、バス停のあちらこちらで、言葉を交わす同じ中学の生徒たち。俯くわたし。    

 夜。
    
 ふいに涙があふれる。
 誰も一緒に帰ってくれない。

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ロープウォーク

ロープウォーク

 かおを見て話すのは初めてのことだ。
 真如は東の彼方から渡ってきた。
 五反は西の彼方から渡ってきた。
 ロープウォーカーズたちである。

「コバさん、はさみ要りますか?」
 それが五反の第一声だった。真如は一瞬、虚を突かれたが、
「はさみは、持っています」
 答えてから改めて名前を名乗り、頭を下げた。
「よろしくお願いします」
 五反も軽く頭を下げる。
「どうぞよろしくです」
「ところで……」

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0190606/はてな・加筆

0190606/はてな・加筆

『レッド』を最終章まで読んで暫くして、『安住の地』を古書で買って読んだ。連載時に立ち読みをしていたけれど、当時新刊書で買うお金が無かったし、Amazonは使えなかった。つまり最近、Amazonの古書で安価に買ったのだ。(Amazonのリンクを貼ったらとんでもない高値が表示されましたが、数百円で買えます)

 初めて『ビリーバーズ』を読んで山本直樹に触れ、『BLUE』や『レッド』を読んだ感覚では、セ

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