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0190606/はてな・加筆

『レッド』を最終章まで読んで暫くして、『安住の地』を古書で買って読んだ。連載時に立ち読みをしていたけれど、当時新刊書で買うお金が無かったし、Amazonは使えなかった。つまり最近、Amazonの古書で安価に買ったのだ。(Amazonのリンクを貼ったらとんでもない高値が表示されましたが、数百円で買えます)

 初めて『ビリーバーズ』を読んで山本直樹に触れ、『BLUE』や『レッド』を読んだ感覚では、セックスとカルトを描く方向性が強いのかな、と思っていたけれど、本書を読んでなんとなく、〝ブレを掬い上げる〟漫画家なのかな、と思った。セックスの最中の感覚の揺れや相手と自分が性的快感を感じているそれを身体という境目で共有出来ない差異のブレ(『BLUE』)、カルト宗教に入ってひずんでゆく意識や記憶(『ビリーバーズ』)や、言葉の交換と交感、通じているようで通じない会話、記憶しているようで無かった過去、そのブレを、レイヤーをずらして、ずらして、汲み取ってゆく。

 そう思って『レッド』を読むと、連合赤軍兵士の青年たちが、同じ志を持っているようで、ただの違う人間たちだったという事実として汲みとれる。人と人のあいだには身体という境界線があるのだ、ということは拙著『微笑みと微睡み』にも書いたし、もはや古典のように引くなら旧作の『新世紀エヴァンゲリオン』はこの事態に直面することで物語が進む。こういう創作がしたいなあ、と思った。

『BLUE』をリンクしたらまたとんでもない高値で出ているけれど300円くらいでAmazonで買えます。『BLUE』は山本直樹作品のなかでも、有害図書として叩かれた頃から何度も何度も絶版になったり復刊になったりしているので、もし惹かれる何かがあったら、出合ったが運で即買うのを薦めます。
 ちなみに私が持っている『BLUE』は、この記事のヘッダ画像に写真に撮って納めた超綺麗な装幀で、もう絶版です。いいだろ〜う? というのは嘘で、Amazonで今たぶん1円くらいです。

(そういえばキッドピクスを使っているか何かの場面で、セックスシーンで線がブレブレに加工してある頁が『BLUE』のなかに収録されていて、衝撃的だったしそのPCで表現する技法がとても素敵だった。これはブレの具象化?)「学校」も同じ校舎内に居るひとたちの行動が全きに同じでないというブレが、とても鋭いコマ割りで描かれていた。

 それにしても『安住の地』の登場人物の女の子(主にミナミ)は可愛いのに、男のひと(ニシさんとヒガシさん、他)は全然かっこよくない造型で、大体いつもこの作者の描く男のひとは唇の厚さが強調されたり、大仏みたいだったり、サングラスを掛けていて怪しいだけだったりする。器量良き男性はあまり登場しない。ミナミは可愛かった(表紙の、ルーズソックスを穿いている子です)何故だ。  
 IKKIコミックスで連載されていた頃、子どもだったのであまり雑誌を買うお金が無くて、立ち読み出来る本屋さんを把握していたりした記憶がある。そして立ち読みしているとえっちな場面になって、困っちゃって薄く開いたりしていて、本屋で痴漢に遭うのだった。そんな子ども時代。その話はどうでもいいわ。

「心は“ひとりひとつ”」っていうのは最近大森靖子さんも歌っていましたね。

 究極の(まあ究極じゃなくてもそれなりの)愛情を以て見つめ合うふたりの世界を美しく描く文章も良いけれど、青春に・自己との対峙に・生きる道に・または怪事件推理譚や運命に翻弄される王女や勇者の冒険譚に懸けた本も面白いけれど、結局は【自分vs世界 ≒ 自分vs孤独】を描くことに落とし込んでいくのが今の自分にとっての小説を書くことだと思います。と、誰も訊いてくれないのに自分で今云う。ちょっとでも聞いてくれたらそれはそれで嬉しいです……。『安住の地』を読みました、という記事の筈だったのにこういう落とし所になったのは何故だろう。


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