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【連載短篇】 アイネ・クライネ・ナハトムジーク(2)

(全4話・短篇小説 / 原稿用紙13枚)(1)へ  ⇔  (3)へ

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「蒼也くん、ミルクを飲みなさい」

 赤岸もな美は数回繰り返したが、蒼也は背を向けたままで、要らないとぶっきらぼうに返すばかりだった。
 夜になっていた。あまねは既に帰ってしまい、部屋にはもな美と蒼也のふたりきりだ。

「飲まないとおおきくなれないわよ」
「おおきくなんかならないよ、知ってるくせに」
「あっためてあげようか?  それとも、ココアを入れたら飲む?」

 もな美を聞こえないふりをして重ねて云った。

「昨日から何も飲んでないわ、一体どうしたの」

「……あいつ、誰なの」

 蒼也がじっと黙ったあとぽつりと云った。怒っているうえに、傷心であるようだ、と、もな美は思う。蒼也は重ねて云った。

「どうして毎日一緒にいるの? お茶なんて飲んじゃってさ」

 左近あまねとは、この建物で暮らし始めてから仲良くなった。それが以前から親しかった蒼也には面白くないのだろう、と、もな美は思った。
 蒼也と知り合ったのは、もな美が十二歳だったときのこと。彼は一冊の推理小説のなかにいたのだ。もな美は彼が大好きになったし、蒼也はそれからずっと、もな美の傍に一緒にいてくれた。
 それから六年経った今、少年はそのときも今も変わらず十一歳で、もな美だけが歳をとってしまった。

「あまねなんてさ、変な名前」

 蒼也が唇を咬んで付け加えた。

「もな美だって……変な名前だけど」
「あたしの名前?」

 もな美は少し驚く。

「モナミは仏蘭西語で、愛する人、という意味よ」

 もな美がそう云うと、蒼也は彼女の首に腕を回して抱きついてきた。

「もな美、好きだよ」

(3)へつづく

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