月ノ美兎・本間ひまわり 『帰れない百物語』 概略と考察

にじさんじ所属のバーチャルライバー、月ノ美兎・本間ひまわりによる企画『帰れない百物語』が終了した。

「怪談を百篇語り終えると本当の怪異が訪れる」という日本古来の伝承をベースに、約11時間に及んで生放送されたこの番組は、視聴者やVtuberから寄せられた怪談を、パーソナリティの月ノ美兎、本間ひまわり、そして招かれたゲストたちが紹介していくものだった。

一見シンプルな怪談バラエティのように見えるこの番組、しかしその中にはいくつかの違和感があった。不可解な言動、不自然なお便り、挙動不審な出演者… やがて視聴者は、それらの違和感たちがひとつのストーリーへと帰結することに気づかされる。

ここではそのストーリーに関しての考察を整理したい。

(以下、本編のネタバレを含みますのでご注意ください。)

4つの違和感

番組中に発生した奇妙な点は、主に4つ挙げられる。

まず初めに視聴者が違和感を覚えた点は、開始から約5時間後、otvunarという人物から寄せられた怪談を紹介したシーンだろう。

https://www.youtube.com/watch?v=d53jcJWb4TE&t=17455s

怪談の内容を要約すると「夜道で2人組に襲われ、腕に噛み付くなどして抵抗したものの、連れ去られ監禁された。」というおぞましいもの。 読み上げていた月ノ美兎は途中で不自然に言い淀む。洒落にならない事件の話が紛れ込んだ、という雰囲気になって、読み上げはまもなく中断された。

 そして、この出来事から程なくして、twitter上で @otvunar というIDの人物が助けを求めるツイートをしていることが、視聴者の間で発見された。

 

次の異変は前半終了時に訪れた。パーソナリティのふたりが前半終了の挨拶をして、画面が暗転するも、配信が終わらない。しばらく無音が続いたあとに突然「すみません、ここどこですか?」と、聞き覚えのない女の声がする。

https://www.youtube.com/watch?v=d53jcJWb4TE&t=20230s

 

3つ目は後半が始まり、ゲストに静凛が訪れたとき。身の回りの怖い話を求められた静凛が、 <最近様子がおかしい友人>に関する話を始めた。

https://www.youtube.com/watch?v=3Cd8RnbOW7g&t=2060s

内容は、「やたらと友達を作りたがっている」「インドアなのにキャンプ用品コーナーでロープを買っているところを見た」「手首に変な痕があった」というもの。そしてこの話の最中に、手首を隠す月ノ美兎に関する言及があった。

 

4つ目の、そして最も大きな謎は、後半の放送中にも関わらず本間ひまわりのチャンネルにて行われた<何者かによるゲリラ配信>である。タイトルは『無題のライブイベント』だった。 内容は以下の通りである。

あ、あー聞こえてますか?コメント今見えました。ラグがあるんですかね?色々とSOSとか送ってみたんですけど、全部あの2人に妨害されてるみたいで。今どこにいるのかも、私を閉じ込めた人が誰なのかもよくわかってないです。私がさっきいた場所は何も見えませんでしたし、すごい狭いところにいたんで...箱みたいな物の中に閉じ込められてたんだと思います。箱からは出られたんですけど、連れてこられた建物からは出れてないままです。えーっと、目の前には立てかけ式のマイクみたいなものがあって。あと、さっき誰かが自己紹介する声が聞こえて、名前が確か... 

配信は突然打ち切られ、アーカイブは非公開になった。

配信の主はその声質から、前半終了時に入り込んだ女声と同一人物と推測される。

そしてこのゲリラ配信とほぼ同刻、本編の方では月ノ美兎がVTR視聴中にも関わらず「トイレに行く」といって不自然に離席している。

一部の視聴者はこのゲリラ配信に気づき、コメント欄では動揺の声もあがっていた。

 

4つの違和感(考察)

これら4つの不可解な出来事は、<月ノ美兎と本間ひまわりがotvunarという人物を誘拐・監禁した>と仮定すると体系づけられていく。

2人に誘拐されたotvunarは、SOSの意を込めて、藁にもすがる思いでお便りを送信。このお便りは「これは5年前の出来事で、今は平和です」という旨の書き出しから始まる。しかし月ノ美兎の読み上げは途中、「自分が今どこにいるのかもわかりません。冒頭の部分は…」で言い澱み止まった。そして本間ひまわりと小声で口裏合わせのようなやりとりをした後、取り繕うように早口でお便りの続きを読む。これはもしかすると、言い淀んだ先、本当は「冒頭の部分は嘘で、今も監禁されている」と、助けを乞う内容だったのかもしれない。露骨なSOSではなく番組視聴者の体裁を保つことにより、誰かしらの目に触れようとしたとも考えられる。

そして前半終了後のさまよう声、また、『無題のライブイベント』を配信した声は、どちらも監禁されたotvunarによるSOSと解釈できる。

静凛の話す <友人>とは月ノ美兎のことで、これは「インドアなのに」という発言からも裏付けられる。買ったロープは誘拐・拘束用、手首の変な痕は誘拐の際にotvunarに噛まれたものということになる。

誘拐の理由としては静凛の話から、友達を作るためだと推測できる。

またここで、前半に葛葉がゲスト出演したときのことが思い出される。挙動不審でしきりに周囲を気にする葛葉が「黒い箱が…」と発言し、パーソナリティの2人が言葉を詰まらせスルーする、というシーンだ。

https://www.youtube.com/watch?v=d53jcJWb4TE&t=10990s

この箱にはotvunarが入っており、それが『無題のライブイベント』における「箱みたいな物の中に閉じ込められてたんだと思います。」という発言に繋がる。

月ノ美兎の不自然なトイレ離席は、ゲリラ配信に気づいたからだと思われる。


百篇目とその後

その後はしばらく目立った動きなしに番組は続き、ついに百篇目の怪談となった。

紹介されたのは個人Vtuber、夜野ねおんから送られてきたVTR。内容は「死んだ友人とそっくりな話し方のVtuberを見つけた」というもの。作中では、お経のような音をバックにサウンドオンリーで喋る、恐らくもうこの世にはいない、魂のみのVtuberが描写されている。

https://www.youtube.com/watch?v=3Cd8RnbOW7g&t=19085s

 この作品が百篇目に採用された理由は、番組の裏で並走してきたストーリーと主題が一致しているからだと推測される。それは<Vtuberの魂と身体>を扱ったものという点においてである。

このVTRによって、身体を持たない魂だけの存在でもVtuberたり得る、という前提が確立される。

 

百篇目の紹介が終わると、ついに百本目の蝋燭が吹き消される。

画面は暗転する。

「魂よ、剥がれろ。」

そうユニゾンする2人の声と共に、次に映し出されたのは、魔法陣の上で拘束された実写の女だった。この女がotvunarだろう。

太いロープで拘束されうずくまる、凄惨な画面とは裏腹に、どこか嬉しそうに言葉を交わす2人。内容は「百物語の力で肉体から魂が剥がれる」「これでお友達が増える」などというもの。

百物語を達成したことで発生する怪異の力によって、otvunarの魂を剥がし、新たな二次元の体に移し、一緒に遊ぶ計画なのだろう。そして儀式を終えた2人は口を揃えて「にじさんじへようこそ。」と、聞き覚えのあるセリフを言った。

 

しかしその後、エンディングトークで状況は一変する。明らかに月ノ美兎の魂が入れ替わっているのだ。これは声質や言動、さらにはタピオカを嫌わない点においても明らかである。そしてこの異常な月ノ美兎の声は、otvunarのものと酷似していた。

 これは、otvunarの魂を剥がすつもりが月ノ美兎の魂までも剥がれてしまい、月ノ美兎の身体にotvunarの魂が入り込んだという事故的なものと推測するのが今のところ有力だろう。『帰れない百物語』の意味が変質していく。

 最後には、明らかに月ノ美兎ではない、しかし月ノ美兎の外見を持った人物が「気をつけ、着席。以上、月ノ美兎でした。」と挨拶をする、ショッキングなラストを迎えた。

 

全体の考察

 では何故、月ノ美兎と本間ひまわりはこのような物語を作ったのか?

誘拐のプロットに関しては、以前に月ノ美兎と本間ひまわりがゲーム『Project Winter』の大規模コラボ配信に参加した際、2人が結託して個人Vtuberである名取さなのキャラクターを殺したあとに言い放った印象深いセリフ「にじさんじへようこそ。」から逆算して作成されたとも推測ができる。

構成に関しては、ライブ感によって話題性を出すため、そしてメタ的表現を用いたリアリティによって恐怖心を煽るために効果的だった。

では、月ノ美兎の魂が全くの別人に入れ替わるラストを迎えたのは何故か?

それは、先述した<Vtuberの魂と身体>の特性を用いたセンセーショナルなパフォーマンスと解釈することも可能であろう。

 

月ノ美兎と魂を交替した“otvunar”という人物。その声の主は未だわかっていないが、名前はVt no ura(Vtuberの裏)のアナグラムという説が出ている。

2019年に入って、Vtuberの身体はそのまま魂が入れ替わるという出来事がいくつか発生し、世間でも様々な議論を呼んだ。

生身の人間では絶対に起こり得ない、人格あるいは声の切り替えも、Vtuberならいとも容易く行うことができる。

それはバーチャル特有の強みであると同時に、彼らのアイデンディティの動揺に他ならない。どこまでの要素が彼らを彼らと定義するのか、その境界線が不明瞭になっていく。可変性の高さが、彼らの本質を隠していく。これは本編の神楽すずの話、ヒメヒナの話に通ずる点もあるだろう。

 最後のシーン、魂の交替によって持ち味の多くを失った月ノ美兎と、無視して会話を続ける本間ひまわりの不気味な違和感。

これは諸問題に対する皮肉とアンチテーゼを込めて、Vtuberにとっての魂と身体の不可分、もしくは魂の絶対性を訴える側面を持っていたのか。

または、魂の交替というタブー視されている行為そのものを利用し、逆手に取って、全く新しいエンターテイメントへと昇華したのか。依然として多くの解釈が提唱されている。

どちらにしろ、Vtuberの特質を最大限に利用した素晴らしい配信だったと言えるだろう。

 -

以上です。皆様の解釈の整理にご活用いただけたら幸いです。加筆修正の希望ありましたらご連絡ください。

月ノ美兎のチャンネル

https://www.youtube.com/channel/UCD-miitqNY3nyukJ4Fnf4_A

本間ひまわりのチャンネル

https://www.youtube.com/channel/UC0g1AE0DOjBYnLhkgoRWN1w

-

(追記)

9/1の23:53頃、月ノ美兎のtwitterアカウントとotvunarのtwitterアカウントに動きがありました。

番組終了後も、魂の交替は続いているようです。

-

(追記2)

9月5日の配信にて魂の問題に決着がつきました。

-

(追記3)

月ノ美兎さん本人のnoteが更新されました。

百物語以降のストーリーに関しての意図が説明されており、当記事で紹介した解釈たちと合致している部分もあれば相違していた部分もありました。

当記事は放送直後の視聴者の考察の記録としてそのまま残しておきますので、ぜひ以下のリンクより、本当の委員長の意図をご確認ください。

また、百篇目に採用された夜野ねおんさんによる文章も発表されました。みなさまの理解の手助けになるかと思いますので、合わせてご紹介します。https://www.pixiv.net/fanbox/creator/42890664/post/539505?utm_campaign=post_page&utm_medium=share&utm_source=twitter




この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

168

ゆれ

Vのオタク / Twitter → @yureyurayu

Virtual Life

バーチャルとリアルの行方
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。