「嵐ねぇ。」

🐾「春の嵐ね。」

魔女ラーニャは、東京の街から箒で20分の場所に住んでいる魔女。周囲を森に囲まれた場所に、三毛猫のマナと住んでいる。マナは、勿論、魔女の飼い猫ですから、お話するのはお手の物。今日は、雨がしきりにふっていて、白やピンクで部屋が光ったと思ったら、天が唸り声をあげる。雷の音と大粒の雨が窓を叩く音が響いている。

「こんな雨の日は、少し、これからのことでも考えましょ。」

魔女ラーニャが、腕を組み指先を顎に乗せた。まるで、ロダンの考える人のように。それを見て、三毛猫のマナがラーニャにこう言った。

🐾「ラーニャ、随分前にさ、パリのロダン美術館で見たポーズそっくりだね。」

「そ、そう？」

🐾「あれって、人間が馬鹿なことを表した像なんでしょ？」

「ば、ばか！？ちょっと、人類の遺産的なブロンズ像よ。なんてこというの、マナ！？猫だからって、唐突にそれはちょっと言い過ぎじゃない？」
🐾「だって、ブロンズ像、ずっと考えてるじゃん。ばかだよねｰ。行動しないの。考えるだけ。考えるだけで、行動しない人間を表してるんでしょ？あーだ、こーだ、考えるだけで、まだ準備が足りないだの、失敗が怖いだの、自分には無理だの、単にめんどいだのって、実践行動に移せないっていうのを象徴してんでしょ？」

「あ、そう言う事？た、たしかに。それは、そうも言えるかもね。像だからしかたないのよ。考えたままだもんね。」

🐾「でしょ？」

「『行動する人』って、ちょっと像に作ることは難しそうね。『考える』も『行動する』も抽象度の高い言葉だけど、”考える”は、状態を表してるから一瞬をきりとって像として表しやすい。一方で、”行動する”、これって動作だし、行動する方法って、それこそ無限にあるから、像として見ただけで”行動する”って表題が付けられるのようにつくるのって不可能に近い。走ることも書くことも電話をかけることも全部、行動に含まれるから。

考える人っていう題は、ロダンが作ったわけではないけれど、

ロダンの考える人は、

”詩人”という別名もあるの。本来は人が考える脚であり知性的な生き物であることをブロンズ像にしたのよ。ダンテの神曲に霊感を得て作られたとも言われてるわ。」

🐾「ふ～ん。」

「だから、高尚な人間の特質としての考える人、なわけ。考えず行動する人は、ばか。それに、天才はもちろんのこと、理性的な行動をとれる人、バイアスにとらわれず、開けた目で物事を見れる人は、”考える人”。だからよ。」

🐾「正しく考えられる人って、結構少ないよ。」

「それもたしかに。そうね。マナの言う『正しく考える』って、”自分の人生をより充実して意義あるように物事を考える”ってことよね。」

🐾「そうそう。人間は、人生を充実させる逆のこと、つまり何かの”悩み”が起きると、外部にばっかり原因求めて、自分の考え方が歪んでいたから悩みが生じた、なんて考えてない人けっこう多いよ。」

「悩み解決方法を智慧ある人達に聞くのは、かしこいことよねｰ。だけど、内側にもたずねるとぐっと成長するわね-。マナは、ダイレクトに自分を満足させて、周囲にも幸を広げられるけど、人間ってなかなかそうたやすくはいかないこともあるのよ。」

🐾「やっぱりばかだ。」

「ばかだって気が付くことが始まりなのよ。人って、一度、ちゃんと内側に向き合って、自分の人生を有意義にしていくために、自分はどんな価値観を大切にして生きているのかっていうのを考えて、その価値観を満たす生き方ができるように考えてみたり、

悩みが続いているのなら、悩みを生み出した原因を自分の内側にも求めて、考える方法の歪みに気づくことが大切なの。」

🐾「歪みって、心理学的にいったら、認知の歪みとかバイアスってやつね。スピリチュアル的に言えば、メンタルブロックとか言ったり、要は思い込みのことね。自分を不幸にしてしまう考え方。人間ってめんどいね。それに、生きるのに価値観を探すなんて、必要あるんだ。探さないとわからないの？

ラーニャの価値観は？」

「わたしが大切にする価値観は、人にはない自分だけの能力を磨くこと、魔法磨きよ。それからそれを使って自分自身と他者を元気にすることよ。独創とか、向上、成長、探究、それから他者貢献や奉仕かしらね。」

🐾「わたしは、簡単。美味しいものを食べる事、心地よい場所で眠ること、それからラーニャの傍にいること。己の至福を追求すること。わたしは、猫だから素直にそうやって動いても他者からの搾取にならないの。人間は、やり方によっては搾取になる。猫って、いいでしょう。」

「そうね。至福を追求してね。そうすれば、わたしまで潤うの。言っておくけど、わたしも、外せないのは、大事な存在と愛に満ちた日々を過ごすこと。つまり、マナとね。そのためには、価値観に沿った生き方を実践して、まず自分が幸福度の高い状態でいられるようにする。嵐、収まらないわね。きっと明日起きたら、空がきれいだわ。」