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歌い踊るように、手話をする未来へ。ー「ヴァンサンへの手紙」


【ろう者】
生まれつき耳が聞こえないか、言語を聞いて身につける幼少期に聴力を失った人。

映画「ヴァンサンへの手紙」は、監督・レティシア・カートンさんの友人ヴァンサンが、自ら命を絶ってしまったことをきっかけに企画されました。
ろう者であったヴァンサンが抱えていた苦しみと向き合い、それを世の中に伝えるためにろう者の内面をとらえるドキュメンタリーを、10年かけて制作したのだそうです。

「聴覚障害」を持った人は、世界に約4億7千万人。つまり世界の約5%で、日本国内では10万人といわれています。見た目で判別できないだけで、ろう者は身のまわりに多く存在しているのかもしれません。


「音のある世界」との間にある、深い溝

「手話があるから、話せるのだろう」
わたしはこの映画を観るまで、ろう者に対してそう思っていました。しかし実際のところ、手話をつかえる人は少なく、ろう者でも正しい手話が使える人は少ないといいます。

外国で言葉が通じず相手にしてもらえなかった経験は、誰しもあると思うのですが、そのようなことが生まれ育った地で日常的に起こっているのです。そう考えると、彼らが心から安らげる場所は本当に少ないのだと思います。

自分のホームに帰り、雄弁に語り始めるろう者たち。
彼らの間に、深い安心感と強い結束が生まれます。普段、いかに「表現」することを抑制されているのかがよくわかりました。

また、8年前まで、130年ものあいだ手話を禁止されていたという事実にも、驚きを隠せません。「音のある世界」と「音のない世界」に優劣はないのに、後者がマイノリティであるがゆえに彼らが深い傷を負ってしまったのです。

**ろう者は、目で語る

力強いまなざしと豊かな表情**

本作では、手話の魅力についても描かれています。
あえて字幕をつけずに、ろう者の手話を映すシーンがいくつかあったのですが、手の動きと表情をじっくり見ていると、手話がわからなくても、彼らの話していることが伝わってくるような気がしました。

手話の教師であるステファヌは、「目をしっかりみること」を特に強調していました。力強いまなざし、豊かな表情、やわらかで時に力強い身ぶりは、感情を豊かに表していて、手話は心と心で話せるとても魅力的な言語だとわかりました。


歌い踊るように、手話をする未来へ

本作に出演している、トルコ生まれのレベントさんは俳優/演出家で、「サインポエム」(手話詩)をつかった劇をやったり、詩を読んだりすることで、世界から注目を浴びています。手話ともジェスチャーとも違う独自の表現は、まさに芸術。
やわらかい指の動きと、あふれ出す感情に、思わず見入ってしまいます。

ずっとみていると、彼らのからだに流れるメロディが聞こえてくるような気がします。

ろう者が抱えている苦しみや悲しみを多くの人に知ってもらうには、きっと時間がかかります。しかし、このサインポエムのように、手話を超えた芸術はとても大きな可能性を秘めていると思います。
それが入り口になることで、手話やろう者を理解してくれる人は格段に増えるはずです。

「映画」というと、フィクションなどの楽しめるものが多いですが、本作のように、多くの人が知らない世界を伝えるということも、映画の大切な役割の一つだと改めて思いました。

芸術には、理屈では通らないことを覆す力があります。この映画が「音のある世界」と「音のない世界」の架け橋になってくれたように、
手話が芸術として、いつか必ず両者の世界をより強く繋げてくれると信じています。


<上映予定の映画館>
UPLINK渋谷、その他全国12か所で上映予定
http://www.uplink.co.jp/vincent/theater.html

こちらの記事は、映画メディア「OLIVE」にも掲載しています。お時間がある時に是非のぞいてみてください。
Twitterアカウントも:@olive_movie>

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