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徳永英明が歌う詞に感情揺さぶられる【好きな曲を語る】

 『VOCALIST』(2005年)の「涙そうそう」が2023年に聴いた曲で一番泣いた曲でした。いままで音楽を聴いて自分の経験照らし合わせながら泣くなんてなかったのに少しずつ経験増してくると聴き方もさらに変わってくるんだなぁと。

 夏川りみが歌う力強く伸びやかな美しい声も艶やかで心地よいのですが、徳永英明のもの悲しくも美しい声と、息継ぎのタイミングなのか、フレーズごとの余韻と休符のタイミングなのかゆったりした間とストリングスの掛け合いがしっとりと美しいです。

 ロックやスウィングとかが好きで、2拍目4拍目がグンッと沈む感じが好き(だから布施明の「きみは薔薇より美しい」が心地よい)ですが、こんなに1拍目3拍目の休符や音を置きにいく感じが気持ちいい曲、なかなかないんじゃないだろうかとまで感じさせられます。

 2サビが後の間奏部分からもう1回Bメロに戻るときの【(休符)B♭AFCB♭】のように、頭の休符(2:42)みたいにこのはじめの四分休符の間ととても心地よい曲です。

 というくらいに、フレーズの間や休符のタメにあわせて歌詞も余白がたっぷりしているためか、辛い部分や複雑な心情の隙間に明確に入り込んでくるような感覚になります。とにかく想像の余白にひろがりとゆとりが多い曲です。

「会いたくて
 会いたくて」

この詩を聴きながら文字起こしすると改行含め印刷する視覚性にとされる中原中也の音楽感が想起されました。音楽の持つこの「間」や「時間」、「空白なる空間」を視覚的に訴えたかったんだろうというこの切なさ、歌詞の情緒感をすっと伝わるよう後押しするようなメロディーだと感じさせる時間感覚に深く影響され実際にわたし自身「あぁ会いたくて」と感じさせられるのが悲しいです。

B♭からのイントロのピアノやストリングスの印象が強いながらも、歌うギターと控えめなドラムが情緒かき乱される感立ってて本当に素敵。

 車窓から曇りの空で、どこの学校かわからない冬の藻だらけのプールみながら地元でもない近鉄沿線の景色にただただ大阪というだけで地元知ったるような気分で

「晴れ渡る日も雨の日も」

という歌詞をなぞるのも今しかできず、でもこれからもデジャヴ的に体験したり、まだ体験しない自分の悲しみと照らし合わせながらこういう音楽を体験するのかという想像とともに。

参照:中原中也――沈黙の音楽 (岩波新書) https://amzn.asia/d/97xG99B

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