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【パンおじさん】

500名もの方が入所されている大きな施設なので、私が勤務していた事務所は利用者の方が生活されている建物から少し離れていました。

一番近くの建物からでも、歩いて5~10分くらいもかかるでしょうか。

そんな事務所に時々、数名の利用者の方が遊びに来ます。

ごくたまに遊びに来るAさんは、パンが好きな方でした。

施設の朝ごはんは、パンの日が多いです。

「今日はジャムパンだった。
 ジャムパンはダメだ。
 俺はあんパンが好きだ。
 ジャムパンだめだ。」

と、ただひたすらパンのことを話します。

何もわからない初めのころは、私はどうすればいいのか悩みました。

Aさんは私に何をして欲しいんだろう?

給食に連絡してジャムパンをやめてもらうようお願いすればいいのか?

でもAさんが来るたびに給食に連絡していたら、給食の職員にも迷惑がかかるし・・

困惑したひきつった笑顔で「はい、はい」と聞いていましたが

Aさんはひとしきりパンの話しをすると

「じゃあな。また来る。😄」

と笑顔で帰って行きました。

Aさんは、ただ話がしたかったのかもしれません。

いつも関わっている職員とは違う「誰か」に、ただ聞いてもらいたかったのかもしれません。


Aさんはときどき、突然やってきてはいきなりパンの話しを始めました。

「ジャムパンだめだ。」

ダメだと言いながらも、毎日全部食べているようでした。

「今度のあんパンの日が楽しみですね。^^」

次第に私も、笑顔で答えられる余裕ができました。

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