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ヒプマイ楽曲が引用・オマージュしてる洋楽ネタを検証してみた vol.7

こんばんは、先日初めて大阪銘菓「りくろーおじさんの焼きたてチーズケーキ」を食べたナカジです。
あんなに美味いものが725円で売ってるなんて大阪って街はどうかしている(褒めてる)
なんで関西に10店舗しかないんだ〜関東にも進出してくれ〜頼む。

さて今回は前回の予告通り、白膠木簓のソロ曲「Tragic Transistor」をピックアップします。
この曲に関しては、過去6回のように1曲に対して元ネタ1曲という形ではなく、元ネタや影響を受けているポイントを複合的に解説していきますね。
あと、これまで聴き比べ用プレイリストをApple Musicでしか作ってなかったんですけど無課金ユーザーでもプレイリストはサクッと作れたのでSpotify版も作りました。
Spotify派の人は活用してくれよな!

●イントロ/アウトロは吉本新喜劇のアレ

ではまずイントロ/アウトロから。
曲の序盤と終盤に使われている超有名な吉本新喜劇のテーマは、元は1918年に作曲された「Somebody Stole My Gal」というジャズ・ソングです。


これは私も調べて知ったのですが、吉本新喜劇で使われているのはトロンボーン奏者のPee Wee Huntがレコーディングしたバージョンだそう。
著作権法では作曲者の死後50年が経過すると著作権が消滅しますが、この曲の作曲者はすでに50年以上前に亡くなっているので、そのまま使用できます。
もしかしたら演奏はPee Wee Huntのものではないかもしれませんが、曲は「Somebody Stole My Gal」そのものを使用しています。

●リズムは「レゲトン(Reggaeton)」

次に土台となるリズムをについて。
ここに使われているのはレゲトン(Reggaeton)と呼ばれる音楽です。
レゲトンとはヒップホップから派生したラテン音楽の一つで、カリブ海に浮かぶ島、プエルトリコで生まれました。
ヒプマイ楽曲はこれまでミクスチャー・ロックやファンクなど色々な要素を引用してきていますが、レゲトンを持ってきたのは「Tragic Transistor」が初めてですね。

レゲトンの世界的ヒット曲はいくつかあるんですが、私が「Tragic Transistor」を聴いて一番最初にパッと思い浮かんだのはこれ。
プエルトリコ出身のアーティスト、Daddy Yankee(ダディ・ヤンキー)の2004年のヒット曲「Gasolina」です。
もう一例挙げるなら、翌2005年リリースのShakira(シャキーラ)の「Hips Don't Lie」もレゲトンを取り入れた世界的大ヒット曲です。
ちょうど2020年2月、スーパーボウルのハーフタイムショーでも披露してましたね。

この2曲と「Tragic Transistor」を聴き比べれば、リズム面の類似は一目(一耳?)瞭然ですよね。
ちなみに私はレゲトンのリズムのことを「スットコドッコイ」と呼んでいます。
いやマジであのレゲトンの「ズンタカタッタ!」ってリズム、「スットコドッコイ」の語感にピッタリなんですよ。
つまりラテンぽいノリでリズムがスットコドッコイ言ってたらレゲトン(あまり真面目に信じないでください)。

●その他、この辺に影響受けそうだな〜って要素

ラップが始まると右チャンネルの方で主張の強いトランペットがずっとループで鳴っています(イヤホンで聴くとわかりやすいです)。
これについては明確な元ネタを特定できなかったので、近いスタイルの曲から引用文化について触れたいと思います。

この音で、まず私が想起したのはJason Derulo(ジェイソン・デルーロ)の2013年のヒット曲「Talk Dirty」。
こっちの曲はサックスですが、フィーリング的にかなり近いものがあると思います。
2013年というと1回目で紹介したKendrick Lamarの「Swimming Pools」と同年のリリース曲なので、「Talk Dirty」が作曲者の方の耳に入っていてもなんらおかしくないかなと思います。
あとこのチャラいPVも個人的に大好きなので観て(宣伝)。
ちなみにJason Derulo、悪夢的映画と評判の『CATS』にもラム・タム・タガー役で出演していますのでご覧になった方は「あいつか!」と思いながらお楽しみください。

前回、盧笙ソロ曲の「Own Stage」のイントロのフレーズはCommon「Be」のオマージュだけどCommonの元曲自体が別のアーティストの音源をサンプリングしているということを書きました。
で、実は「Talk Dirty」の印象的なフレーズもサンプリングで、元は別のアーティストの曲です。


元ネタはアメリカ系イスラエル人によるバンド、Balkan Beat Box(バルカン・ビート・ボックス)が2007年に発表した「Hermetico」です。
彼らはジャズとかワールド・ミュージック寄りのグループではあるんですが、ヒップホップ界からの支持も厚くて、2018年に若くして急逝した人気ラッパーMac Miller(マック・ミラー)の「Goosebumpz」にもサンプリングされています。
異国の村祭りっぽい音楽が好きな人には超おすすめですBalkan Beat Box。

話が逸れましたが、ホーンのループが印象的な大ヒット曲をもう一例挙げておきましょう。
Jennifer Lopezの2005年のヒット曲「Get Right」です。
ちょっとイントロの劇シーン長いので曲だけサクッと聞きたければ1:18までジャンプしてください。

奇しくもこの曲も、2020年2月のスーパーボウル・ハーフタイムショーでパフォーマンスされました(今年はさっき名前を出したShakiraとJ.Lo2人がショーを担当)。
印象的なサックスのフレーズはMaceo and the Macks(メイシオ・アンド・ザ・マックス)というジャズ・バンドの「Soul Power '74」からのサンプリング。
このバンドのリーダー、メイシオ・パーカーは「ファンクの帝王」と言われたジェイムス・ブラウンのバックバンドを長く務めた人です。
「Soul Power '74」も元はジェイムス・ブラウンの曲「Soul Power」をメイシオが自分のバンドで再録音したもの。
盧笙の曲の元ネタは遡ると1977年に行き着くと書きましたが、簓の曲にも70年代から続くファンクのエッセンスが息づいていると言えるかもしれません。

以上の2曲を例に挙げた通り、既存曲から印象的なホーンのメロディを引っ張ってきてループさせるスタイルというのは昨今のポップスの音作りにおいてよく行われている手法です。
簓の曲もこの手法を参考に大部分が構成されていると言えそうです。

ここから先は私の個人的な感想なので読み飛ばしてもらっていいんですけど、本っ当に簓役の岩崎諒太さん、すっっっっごいですね。
2019年秋に6ディビ版になったオールスター曲が発表されて簓パート聴いた時から「えっうますぎでは????」と思ってましたが、オオサカのEPが出て完全にオオサカ推しになってしまいましたもんね私……。
もともと洋楽ロック畑で長くライターやってるので元ネタが一番楽しいのはナゴヤなんですけど、ラップのフロウは簓/岩崎氏がダントツで好きです。

なんと言っても彼、英語の発音がめちゃくちゃ上手い。
以前ツイッターで英語は得意ではないと呟かれてましたけど、それでこんなに発音いいってことは素晴らしく耳がいい上にそれを自分の口で再現する能力に長けているということだと思います。
一郎役の木村昴さんはもともとヒップホップがお好きな上にドイツ語バイリンガルということで、やっぱりラップのフロウも英語の発音もこなれてる感ありますけど、ラップも英語もキャスティングされてから本格的に練習してこれだけモノにできてるっていうのがビックリ。
いや〜本当にすごい人を見つけてきたもんだと感動しました。
あ〜ヒプライ楽しみだな!

次回は楽曲的な元ネタではなく、ヨコハマの曲から読み解くアメリカの社会問題とラッパーたちについて書いてみようかなと思っています。
このシリーズで紹介している曲はApple Musicに聴き比べプレイリストも作ってるので作業用BGMとかにどうぞ〜。


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