Twenty One Pilots「Trench」を共に作り上げた第三のメンバーの正体

こんばんは、更新サボり気味なナカジです。
ここのところBROCKHAMPTONの事ばかり書いてましたが、今日は久しぶりに別のアーティストのことを書きます。

2018年10月5日、Twenty One Pilotsが待望の3rdアルバム「Trench」をリリースしました。
もうお聴きになった方はどんな感想を持たれたでしょうか。

私が一周聴き終わって真っ先に思ったことは

これ3分の1くらいMutemathの新作じゃんね???

ということです。

何を隠そう、「Trench」をプロデュースしたのはニューオーリンズ出身のロック・バンド、MutemathのフロントマンであるPaul Meany。
アルバムのクレジットを確認するとタイラーと並び共同プロデューサー、そして14曲中7曲の作曲者としてクレジットされています。
ポールは「Trench」において、第三のメンバーとして深く関わった人物と言っていいでしょう。

ではこのポールとは一体何者なのか?
この記事ではTOP及び「Trench」がMutemathから受けている影響と、彼らがポールをプロデューサーに選ぶまでの経緯を振り返ってみたいと思います。
何しろ筆者はMutemathオタク歴11年目、MutemathとTOP両方に取材経験があります。
このトピックを語らせたら右に出る者はいないぞ(断言)

MutemathはTOPが明言している数少ないルーツの一つ

(写真:MutemathのDarren King。2014年ヒューストンにて筆者撮影)

そもそもTOPは自分たちのルーツについて語りたがらないアーティストです。
インタビューでも、影響を受けたアーティストやアルバムについて具体例を挙げることがほぼありません。
試しに「twenty one pilots influences」で検索してみれば、本人達が具体的なアーティスト名を挙げた記事や動画が出てこないことがわかると思います。

これは私がクロスビート在籍時の2012年、彼らの初来日時にインタビューした時からそうでした。
初来日・誌面初登場のアーティストについては、まず彼らの音楽性と共にどんな音楽やアートに刺激を受けてそのスタイルにたどり着いたのかを明らかにするため、必ず影響を受けたアーティストに関する質問をします。
ところがTOPの二人はこの質問を実にうまくかわしてしまい、具体的な名前は一切挙げてくれませんでした。
「とにかくいろいろだよ」みたいな答えだったと思います。

恐らく、実例を挙げることで自分たちがそのアーティストに影響されているという先入観や固定観念を持たれることを嫌っているからでしょう。
ライターとしては非常に困りましたが、それだけ彼らが当初から自分たちのイメージ・コントロールに意識的かつ慎重であったことがわかります。
だからこそTOPは今日、ここまでの成功を手にしていると言えるかもしれません。

そんなTOPですが、ドラマーのジョシュが自らのルーツについて明言していることがあります。
それは「自分のドラムスタイルはMutemathのDarren Kingを参考にした」ということです。
ダレンはMutemathの結成メンバーで、2017年まで在籍したドラマー。
テクニカルながら野性的、ミニマムなセッティングから恐るべき手数の多さで豊かなサウンドを鳴らす彼のドラム・サウンドとプレイスタイルは、唯一無二の存在感を放ちます。
ジョシュは2015年に初めてダレンと会った時、「僕のスタイルはあなたから盗みました」と本人に向かって告白しています。
これに対してダレンは「なんて光栄なことだろう」と友好的に返し、彼らは良き友人になりました。

確かにTOPのアクロバティックで情熱的なライヴ・パフォーマンスは、Mutemathのパフォーマンスに通じるものがあります。
特に曲のアウトロでメンバー全員でドラムを叩きまくるパフォーマンスは、2007年からMutemathがずっとやってきたライヴのハイライト演出。
この点だけでもTOPのショウがMutemathを参考にしたというのは充分頷ける話です。

そしてTOPは2016年、「Blurryface」のツアー「Emotional Road Show」のUSレッグにMutemathを誘います。
ポールも以前からTOPの音楽を聴いて彼らに興味と好感を持っていたそうで話はトントン拍子にまとまり、TOPの前座にMutemathというツアーが実現します。
ツアー中、彼らは単なる前座とヘッドライナーという関係に留まらず、毎晩アンコールではセッションをプレイしました。

そして2016年末には「TOP×MM Sessions」を発表。
TOPの楽曲を2人+Mutemathの4人、合計6人でプレイしているセッションです。
これは現在もYouTubeで観ることができ、音源もApple Musicなどで配信されています。
TOPの楽曲を完璧にMutemathワールドに引き込んだこのセッションの時点で、彼らはもう次作のプロデューサーにポールを迎えることを決めていたのかもしれません。

プロデューサー/作曲家のPaul Meanyとは何者か

(写真:一番手前がPaul Meany。2017年、Santa Anaのライブ会場にて筆者撮影)

ポールはMutemathのフロントマンであるだけでなく、メインソングライターであり、実質的なバンドのリーダーです。
また自宅スタジオを持つプロデューサーでもあり、Mutemathメンバーのソロや別プロジェクトのプロデュースを手掛けてきました。

けれどTOPほどの大きな仕事は今回が初めて。
2017年10月に私がポールにロサンゼルスでインタビューした時、彼はMutemathの今後の予定について「全くの白紙」と言っていましたが、おそらくこの時にはTOPのプロデュースはほぼ決まっていたのでしょう。
ポールはMutemathのツアーが2017年10月末で終了すると、そのあと9ヶ月間、みっちりTOP作品のプロデュースに携わっていました。
ちなみに2018年の注目作品である「Trench」は守秘義務も厳しかったようで、彼は2018年8月29日にInstagramを更新するまで、自分が「Trench」に関わっていたことを一切口外していませんでした。

TOPのこれまでの作品を聴いてきたリスナーなら、彼らの音楽がロック、ヒップホップ、レゲエやダブといったものから影響を受けていることがわかると思いますが、ポールもまさにそれらをルーツとしたミュージシャンです。
私が過去にやった取材で彼は影響を受けたアーティストとしてレディオヘッド、DJシャドウ、ポリス、そして地元ニューオーリンズのジャズやファンクを挙げてくれました。
まさにロック、ヒップホップ、レゲエ関連のアーティストばかりです。
ポールはタイラーと自分たちの好きな音楽について話した時「生き別れの兄弟を見つけたような気がした」と言っていますから、音楽の好みはドンピシャでマッチしていたと言えます。

「Trench」から感じるMutemathの遺伝子

では、「Trench」のサウンドについて具体的に分析していきましょう。
「Vessels」や「Blurryface」と比べると、レゲエやヒップホップ色は結構抑えめな構成になっているというのが私の感想。
ヒップホップ勢、特にエモラップがチャートを席巻していることを考えばそういう方向性に持っていくこともあり得たけどそうではなかった(これは本人たちの意思よりもレーベルがそういう曲が欲しいと要請するケースがある)。
「Blurryface」では例えば“Doubt”でちょっとEDMっぽいアレンジを取り入れていたところを考えると、今回の方がトレンド無視を決めこんでる感じがあります。

代わりに目立つのが、アナログ・シンセを用いた浮遊感のあるサウンドや、タイラーの繊細なハイトーン・ヴォーカル。
これこそがMutemathの4作目「Vitals」のサウンドとの類似性を感じるポイントです。

中でも特に私が「これまんまMutemathじゃん!」と思ったのは“Cut My Lip”です。
歌い出しのメロディからしてバリバリにポール節であるこの曲は、もちろんポールとタイラーの共作曲。
ポールの仮歌をそのままタイラーが歌ったんじゃないかと思うくらい、高めの音程をキープして歌うスタイルがよく似ています。
この特徴的なメロディ・ラインは「Vitals」の中でも“Used To”などに顕著なので、興味があったら聴いてみてください。

ちなみにMutemathの「Vitals」のリリースは2015年。
ちょうどTOPとMutemathが知り合った頃に出たアルバムで、2016年のツアーでMutemathはこのアルバムの曲を中心にプレイしていましたから、TOPの二人が影響を受けまくっていてもなんら不思議はありません。
反対に、Mutemathは2017年に「Play Dead」というアルバムをリリースしていますが、私がポールにインタビューで「このアルバムを作るにあたりTOPから影響を受けた?」と訊いたところ、精神的にはYESだけど音楽的にはNOだと言ってましたw

ポールが共作していない“My Blood”や“The Hype”なんかはメロディの作り方、言葉の置き方が従来のTOPらしい曲だと言えます。
でもポールが共作してない“Neon Gravestone”のコーラスのメロディも、Mutemathの“You Are Mine”なんかに通じるものを感じるんですよね。
この辺はタイラーのメロディ・センスがちょっとポールに憑依されてるのかなとすら思う。

冒頭で彼らは影響を受けたアーティストの名前を滅多に挙げないと言いましたが、本作では彼らのルーツのアーティストがもう一つ明らかにされています。
それはリンキン・パーク。
「Trench」に収録されている“Legend”は、故チェスター・ベニントンに捧げた曲であると言われています。
2000年代前半のラウド・ロック・ブーム直撃世代である彼らにとって、リンキンの存在は非常に大きかったことでしょう。
実際チェスターもTOPのことは気に入っていたようです。

Mutemathもリンキンとは一緒にツアーした仲で、ポールもチェスターに追悼の言葉を送っていました。
TOPがチェスターに捧げる曲を作る時、ポールはチェスターへの想いを共有できるプロデューサーとして適任だったと言えるでしょう。

「Trench」はMutemathを「模倣した」作品ではない

ここまで散々「TOPってばMutemathに影響されすぎ〜」みたいなノリのことを書いてきましたが、このことはハッキリさせておきます。
私はTOPがMutemathを模倣したとは思っていないし、「Trench」はTOPのアルバムの中で一番好きな作品だということです。
TOPみたいなビッグなバンドが、過小評価に甘んじているMutemathの遺伝子を引き継いでいってくれることは本当に嬉しい。
自分たちのルーツは語らないというポリシーを破ってまでMutemathとコラボしたんだから、彼らのMutemathに対するリスペクトは本当に大きいんだと思います。

Mutemath本体は昨年、結成メンバーだったドラマーのダレンが脱退。
加えて凄腕ベーシストのロイもツアーには参加しないという状態で、はっきり言えば休眠状態です。
私は2007年からずっとMutemathが好きですが、「もしかしたらもう解散かも」という覚悟も決めているので、Mutemathにモロに影響されたTOPのようなバンドが第一線で活躍するのは素直に嬉しいのです。

でも「Blurryface」や「Vessels」のアッパーなロック・フィーリングが好きなファンにとって、今回のアルバムってどういう評価なんでしょうか。気になります。
もしこの記事を読んで、レスポンス的な記事を書いてくださる方がいたらぜひコメントとかTwitterのリプで教えてください。

TOPファンが聴くべきMutemathのアルバムの順番

最後に、この記事を読んでMutemathを聴いてみようかなと思ったTOPファンに、聴くべきアルバムの順番をお伝えしておきます。
TOP関係なく聴こうとしている人には違う順番でオススメするんですが、「Trench」まで聴いているTOPファンならば以下の順序で聴いてみてください。
現在オリジナル・アルバムは5枚出ていて、どれもApple MusicやSpotifyで聴けます。

①「Vitals」2015年
「Trench」と一番サウンドが近い、一番影響を与えてるアルバムはこれです。
TOPファンならまずここからいってみてください。
アルバムとしては4作目。

②「Armistice」2009年
1曲目からぶっ飛ばされること間違いなしの2作目。
キラー・チューンいっぱいだしバランスよくて聴きやすい。
あと“Spotlight”のPVがバカでかっこいいのでYouTubeで見てくれ。

③「Play Dead」2017年
TOPとのツアーの後に作った通算5作目。
「Vitals」よりもうちょっとロックンロール色強め。
ちなみに日本盤のライナーノーツ書いてるのは他ならぬ私です(宣伝)

④「MUTEMATH」2007年
彼らにとってのファースト・アルバムです。
ポールの声がまだヴォーカリストとしてはやや未完成だけど、“Typical”という大名曲が入ってるのでとりあえずこの曲だけでも聴いて。
TOPにとっての「Vessels」と同じ位置付けの作品。

⑤「Odd Soul」2011年
クラシックなロックンロールに舵を切った3作目。
たぶんTOPのサウンドからは一番遠いタイプのアルバムなのでこれは一番最後でOK。


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中嶋友理

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