0003 キコ・コスタディノフ:アイトア・スループとアクロニウムの系譜 3

 自分のためのメモを書き出すだけと言いつつ、いざ公開するとなるとそう無責任にもなれず、再度リサーチし、記事として固めてしまう。それもまた自分の「臆病」な性格の現れなんだと認識し、今後はより純度の高い意味不明な文章もアウトプットしていけるようこの活動を続ける次第である。

キコ・コスタディノフ:アイトア・スループとアクロニウムの系譜 3

 前回はキコ・コスタディノフが1年間インターンし、服作りの基礎を学んだアイトア・スループにフォーカスを当てた。今回は彼がその後あるいは同時期にアシスタントを務めていたスタイリストのステファン・マンと、アクロニウムのエロルソン・ヒューについて書いていく。

ステファン・マンについて

 ステファン・マン(Stephen Mann)はロンドンを拠点と活動するフリーランスのスタイリスト兼クリエイティブコンサルタントである。主にミッソーニのメンズ、ニコラス・デイリー(Nicholas Daley)、キコ・コスタディノフ、アークテリクス、ファッション誌等のスタイリングを担当。SHOWstudioではその知識を活かしゴアテックス特集の解説を担当している(アイトア・スループがデザインしたC.P. Companyのゴーグルジャケットも詳しく紹介されているので要チェック)。
キコ自身「メンターでありコラボレーターであり良き友人」と慕っている人物で、その関係は彼が学生時代にステファンのアシスタントを務めていた事に始まる。現在ではコレクションのスタイリングやAFFIX WORKS等で協業していて、キコ・コスタディノフを語る上では欠かせない人物である。

 コレクターとしても知られるステファン・マンはInstagramが生まれるより以前にthenonplace.comという、自身のコレクションの写真とそれにまつわるテクストを載せるというinstagram的サイトを運営していて、一部ではかなりの知名度があったようだ。こちらのサイトは必見なのでぜひチェックしていただきたい。
 またつい先日Instagram Storyの質問機能にて自身の分岐点となった瞬間としてアイトアとエロルソンの名をあげていたことから、もしかするとステファンもまた、その2人の元でのインターン経験があり、そこからキコに紹介したのかもしれない。これは完全に私の憶測でしかないので悪しからず。

アクロニウムのエロルソン・ヒューについて

 アクロニウム(ACRONYM)は中国系ジャマイカ人の両親の元、カナダで生まれ育ったエロルソン・ヒュー(Erroslon Hugh)が1999年にベルリンで設立したブランドである(デザインコンサルタント会社としては1994年よりBurtonなどのメンズウェアデザインを担当)。都市での活動を想定した機能服を特徴とし、その極限まで追求された機能性は本格的な登山服にも引けを取らないレベルである。またデザインにおいてはテックウェア界最高峰と言っても過言ではないだろう。ゴアテックス生地の使用はもちろんの事、独自に開発したイヤホンを磁石で服に固定する機能はファッションの分野では本来難しいと言われているパテントの取得に成功している。その拘りようからも知れるように、はじめての商品(120セット限定の「Kit-1」)がリリースされたのはブランド設立から3年後の2002年であった。

ACRONYMの最大の特徴は男子心をくすぐるコンセプト、デザイン、ギミック、そして機能性である。まずはこちらの映像をご覧いただきたい。

 中2男子が求める服はすべてこの一着に集約される、と言ってもおかしくない程の中2具合である。サイドジッパーはショルダーバッグを肩に掛けたままジャケットを羽織ることを可能にし、フロントジッパーは上に引っ張る事で一気に全開になるEscape zipを使用。腕に配置されたGravity pocketを一振りで収納したスマートフォンを手元に出現させる。この必要以上と言えるほどの機能性とサイバーパンクSF的な確固たるコンセプトは根強いファン層を生み、ネットフォーラム上でACRONYMを中心とした黒いテックウェアを着るスタイルに対してTech Ninjaという名称がついたのは2014年頃である言われている。
 そして、かの有名なサイバーパンクを代表する作品「ニューロマンサー」の作者であるウィリアム・ギブスンもまたACRONYM信者なのだ。ギブスンのファッションへの関心は作品にも現れていて「パターン・レコグニション」では主人公の服装が事細かく描写され、作中に出てくるバズリクソンのMA-1を実際に製作し販売したほどである。

 ちなみに上の映像に出ている髭に坊主頭の人物がエロルソン本人(御年47歳)。紹介されているジャケットJ1-A GTはKit-1時から改良を続けているもので、アクロニウムの商品はすべて完成形に達するまでシーズンを跨いでアップデートを繰り返されるのである。

アクロニウムチームとウィリアム・ギブスン(右から3人目のおじいちゃん)

 エロルソンは自身のブランドACRONYM以外にもNikeLab ACG(残念ながら今夏を持って彼によるNikeLab ACGは終了する)やSTONE ISLAND SHADOW PROJECT(今年で10年目)のデザイナーも務めている。そう、今回のこの一連の記事の主題ともいえる「多軸体制」である。
 何も1人の人物が複数のブランドのデザイナーを務めることは決して珍しいことではない。ジョン・ガリアーノは自身のブランドとクリスチャン・ディオールを掛け持ちしていたし、カール・ラガーフェルドもシャネル、フェンディ、自身名義のブランドを掛け持ちしている。
 しかし私が今回注目したのは、巨大コングロリマットの一部となっていないインディペンデントなデザイナーによる多軸体制である。


インディペンデントデザイナーによる多軸体制

 他ブランドのクリエイティブディレクター、企業のクリエイティブコンサルタント、ミュージシャンのアートディレクター、自身のスタジオのデザイナーとして活動するアイトア・スループ。企業のデザインコンサルタント、他ブランドのデザイナー、自身のブランドのデザイナーとして活動するエロルソン・ヒュー。
 そして彼ら2人の背中を見てデザイナーとして育ったキコ・コスタディノフ。他企業(Mackintosh)のクリエイティブディレクター、他ブランド(AFFIX WORKS)のメンバー、そして自身のブランドのデザイナー。まさに彼ら二人をケースモデルとしたようなデザイナー像である。キコはこれらの棲み分けとして以下のように語っている。
自身のブランドはスタジオの基礎(デザイン、アイテム、ディテールのレパートリー等)を築くために毎シーズンゼロベースで制作。ステファン・マンをはじめとする友人らとやっているAFFIX WORKSはもっと自由に自分達のペースで実験と創作を続けていて、毎月KNOW WAVEで配信されるミックス音源やDSMLとDSMGで開催されたラピッドプロトタイピングワークショップ、今月末発売されるワークウェアのカプセルコレクションと多様な活動を見せている。Mackintoshではワークウェアに対するセンスとコンセプトを詰める巧さを買われ、それを発揮する場となっている。
 あくまでも自身の名の下のクリエーションを大きな軸に、それを支え、発展させるエリアとして他のプロジェクトを掛け持ちするこの体制は、今後インディペンデントなデザイナーが食っていく上でますます重要な形態の一つとなるのではないか。これは資金面での話でもあり、ファッションと他分野の融合はどんどん進んでいくという話でもある。コレクション発表の2週間後に類似商品が格安でファストファッションブランドの店頭に並ぶ時代において、大きな力と流れに屈せずに自身のオリジナリティを貫き通すためには、力を分散し互いにネットワークを形成するようにクリエーションを続けていく必要があるのではないか。

つづく。

0001 キコ・コスタディノフ:アイトア・スループとアクロニウムの系譜 1
0002 キコ・コスタディノフ:アイトア・スループとアクロニウムの系譜 2

参考資料:GRIND vol. 81 (2018 April), 以下のウェブ記事や文中のリンク

アクロニウムの歴史に関してはこのSSENSEのインタビューが一番詳しく書かれていると思う。

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 今回はアクロニウムの紹介までたどり着けたが終盤、眠気に襲われ雑にまとめに入ってしまったことを反省している。そのため本稿も「つづく。」で締めくくり、また気が向いたら続きを書こうと思う。とりあえず試しに3本記事を書いてみたが、思ってた以上に一つひとつに対して時間をかけてしまったので、次回以降はもっとゆるく無責任に、iPhoneに溜まった2018本(最初の記事を書いた時点からすでに39本増えている)のメモを昇華して行こうと思う。

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yuri

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