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月城かなとのギャツビーは「あ、泥水すすったんだろうな」と思うギャツビーだった

※注意※あーよかったよかったの書き散らしです

宝塚大劇場公演のチケットが休演で消えてしまったので、大劇場公演の千秋楽をライブ配信でみて、ようやく東京公演で観劇が叶いました。

わたしは
・宝塚版ギャツビーは今回の月組公演が初体験
・そもそも「華麗なるギャツビー」を読んだことも見たこともなかった
・ライブ配信を見てあらすじを知って衝撃的だった
・ライブ配信のあと映画を見た(ディカプリオ版)
というかんじです。

いろいろ筋道立てて書いてみようと考えたのですが、ちょっと整理できないので、そのまま書いてみます。

月城かなとギャツビーがとても、せつなかった

ライブ配信ではお芝居の流れを追うのに神経が行ってしまって、深いところまでしっかり理解できませんでした。今回はあらすじは知っているので、ゆっくり落ち着いて、見たいところを見ることができました。

見終わって一番に感じたのは、せつないな、ということでした。ラスト数分で、ぐっと仕上がった脚本だったと思います。

英真なおきパパが息子の日記を大事に持っていて、すらすらと暗唱するところ、過去のいろいろな年代のギャツビーが回想で出てきて、彼らが重なり合って今のギャツビーになるところ。暗唱するほど読んでいるお父さんの愛も感じたし、そんなに教養がある人ではないんだろうなっていうのがまた、せつなかった。…すごくいい演出だったなと思いました。

本当にまじめに、裕福ではない家庭でじっと耐えて努力を積み重ねてきた男の子。そのまま努力を重ねていけば、きっとそれ相応の幸せな人生が手に入ったと思うのです。でもギャツビーは「既定路線にない大きな何か」をずっと夢見ていて、それがデイジーだったのかなと。デイジーは愛している人でもあり、自分ではない何者かになるための夢そのものだったんだろうなと思いました。

そして、あんなに顔がいいんです。歌もうまいんです。(いきなり中の人と混在させちゃうけど)イケボで声もデカい。恋人時代は青年らしいエロスもあって、実に男気がある。まなざしも声色もやさしくて知的で穏やかで繊細で、何一つ欠点がない。そのままいけばいい女性に出逢って幸せになれただろうに、それを選ばずに強烈な方向に突き進んだエネルギーが、鬱屈とした少年時代の反動のようで、とても切なかった。

過去に宝塚版ギャツビーで、いろんなギャツビー像がいるのだとは思いますが、パーフェクトすぎる無双すぎる月城かなとが演じることで、その内面の悲哀がますます浮き彫りになった気がしました。とてもよかったなと思いました。

れいこさんのお芝居を観てて、一度も「ん?」となったことがない。せりふ回しだったり感情の起伏だったりコメディセンスだったり、すんなり染み込みます。役に説得力があって、見ているこちら側が共感できるからだと思います。そこにあの爆音&歌唱力が加わるので、もう何も言えないですね。後ろ姿見てるだけでチケット代はペイできたと思いました。(またそんなことを言ってる)

男役群舞、デュエットダンス、ともに上品でしとやかで穏やかであまり激しめではなかったな、という印象。1本物を出ずっぱりだった疲れもあるだろうし無理しなくていいなと思う一方で、体を痛めていないといいなっとちらっと思ったフィナーレでした。

月組前トップ&現トップが歌う「朝日が昇る前に」

月組前トップ、珠城りょうちゃんがコンサートで「朝日が昇る前に」を歌っていました。ご本人、選曲したタイミングでは月組がギャツビーを再演するとは知らなかったそうです(すごい偶然)。ファンの方からのリクエストにこたえるかたちの選曲でしたが、奇しくもこうして、前トップさんと現トップさんが同じ曲を歌うのを、割と近い期間内に聞くことができました。

りょうちゃんは、遊び慣れてない純粋で不器用でまっすぐな男性が1人の女性を好きになって思いを全うする…みたいな役がとっても似合うので(似合いすぎるくらい)、ギャツビー像にもぴったりでした。「赤と黒」のせいか、アーサー王のせいか、楠木正行のせいか、木梨皇子のせいか「生まれながらにそこそこ高貴」な感じが漂っちゃうのが、りょうちゃんの利点でもあり弱みでもあると感じていたりします(個人的な感覚です)。なので、泥水をすすってきたギャツビーというよりかは、持ち前の頭の良さと身体能力を生かして、割とすいすいっとこれちゃった感じがしちゃう気がしました(あくまでも個人的な感覚です)。

いっぽうのれいこさんギャツビーは、なんだろう、悲惨なのが似合う雪組の遺伝子なのかなんなのか、あ、泥水すすったんだろうな、って思っちゃうギャツビーなんですよね。高貴なイメージはりょうちゃんに負けないんだけど、貧しい家庭の生活で、パパママにはいい子でニコニコしながらも、ベッドの中で瞳孔開いたギンギンの目で悶々と未来を妄想してた感が強いというか… なので、ギャツビーの悲哀という意味では、れいこさんのほうがよりそれが色濃く表現できたかもしれないなと思いました。何度も言いますが個人的な感覚です。

とにかく、今回の台本にない部分にまで想像が及ぶほど、ギャツビーのこれまでの人生に思いがいきわたる、素晴らしい役作りでした。小池先生、やったね。

「全部生まれのせい。本人は悪くない」と思わせちゃうちなつさんのトム

トム、脚本だけ読むと十分嫌な奴です。歌ってる貴族の歌の内容もひどいし、女性を平気で平手打ちとかしちゃうし、思想もヤバ目。

なのに「嫌な奴だな~」って全く思わないのが、ちなつマジックだなと思いました。トムは生まれながらにああいう家で育っていて、ああいう思想のなかに生きているから、ナチュラルなんですね。「全部生まれのせい、本人は悪くない」って思っちゃう。

そのマジックの正体は、ちなつさんの演技のスマートさ、身のこなしの清潔感、決してゲスじゃない表情、このあたりがすごいからなんだろうなっと思いました。トムって、嫌なかんじに演じるのは簡単な役だと思うんですよ。とことん最低なオッサンにすることも可能な役です。でもちなつさんはあえてそうしなかった。トムの人生の切なさみたいなものも出ていたと思いました。

映画版のトムは、みるからに男性ホルモン多めなかんじの俳優さんが、脚本の違いもありますが、ちょっと滑稽で哀れなかんじでしたね。ちなつさんはそこに寄せすぎることもせずスマートにすることで、より深い人物像になっていたと思いました。

一番印象的なのが、踊り子、結愛かれんちゃんの楽屋でゆすられて、腕時計や金目の物をポイポイと差し出すシーン。卑屈にもならずスマートで身のこなしが優雅で、「きっと何度もこういうことがあったんだろうな」と思う立ち居振る舞い。さすがでした。

悪いうーぱるが10000000点だった

うーちゃん(英かおとくん)とぱる(礼華はるくん)の悪ぅーいメイク、顔…すごかったですねえ。普段ニコニコ星人の二人なので落差がすごいというか…とってもかっこよかった。ひゃって声が出そうになりました。ポートレートほしい。

ぱるくんがオールバックで悪ぅーい顔してスーツ着てにらみを利かせてるのがとてもよかったです。11頭身くらいあるんじゃないかってレベルの、縮尺がおかしい、時空がゆがんでる系のスタイルおばけぶりも相まって、「こんなことってある?」と何度も思ってしまいました。とにかくぱるくんが出てるシーンはかたっぱしからオペラで追いました。ゴルフのシーンで、丸眼鏡かけて人のよさそうな顔して後ろでモブをやってるぱるくんもいいですねえ。ちょっと長方形に開くときがあるお口の形が大好きです。そして…階段おり…おめでと…今度はいつ会える?

びっくりしたのはうーちゃんの顔面です。骨格、変わってません??あんなに男らしかったでしたっけ… うーちゃんといえば、かわいらしい愛らしいタイプの美女なので、いわゆる男役メイクをしてもかわいらしさ、幼さが残っちゃってるなと思うことが度々あったのですが(筆頭はI AM FROM AUSTRIA新人公演)、今回のメイクは非常に良かったです… 出島のときの歌舞伎メイクもよかったけど、今回が一番いいなあ。

一緒に見ていた同僚くんも「悪い軍団で礼華はるじゃない背がおっきい男役さんですっごいかっこいい人がいてその人ばっかり見てた」と言っていたのですが、説明を聞く限りたぶんうーちゃんでした。

うーぱるでバディものの、救いがないくらい悲劇を見てみたいなあ。最後殺しあってどうにもならないみたいなやつ。

輝月ゆうまが勝新太郎化してた

そしてそして、まゆぽんのあの迫力。95期と思えない…どうやったらあんな押し出しの強さが出るんだろう。勝新太郎じゃん?って思いました。

悪いことしてるんだけどちょっとキュートなお人柄も出ちゃう大柄なおじさまの役をやったら今の宝塚で右に出る人はいないんじゃないでしょうか。あの大きな目がぐりぐりっと動くと迫力があって、とても場が締まります。

クルンテープで歌姫をやっていたのがウソみたい… 月組もぐっとパワーアップしていたけど、まゆぽんも専科にいってめちゃめちゃ大きくなったなあと感じました。

そして!群舞に!入って!くれていたのも!嬉しかったですよね~ 月担みんな大喜びだったんじゃないでしょうか。 れいこさんの時だったか、るりさんの時だったか、休演で群舞のフォーメーションが変わったときにまゆぽんが目立つところに配置しててくれると、とてつもない安心感があった。

今回の群舞はセンターよりではない配置でしたが、あの角度から月組を見守ってくれているかんじがして、とっても良かったです。

白河りりちゃんにエリザベートのヴィンディッシュ嬢をやってもらいたい

全部書くと1万字とかになっちゃうくらい、ほかにも見どころ満載でした。

うみちゃんは、難しい役とまじめに向き合って、うみちゃんらしく演じたな、という第一印象です。ぶっとんだ内面の役なので、完全にシンクロするのが難しかったのではないでしょうか。おみっちゃんといいアンナカレーニナといい、私は彼女の狂った演技が好きなので、後半のあの死んだ目になってから一曲くらい歌ってもらいたかった気がします。

彩みちるちゃん!あーもう、本当に好きです。キュートな悪だくみ顔がたまらない。ニックに「シッ!」と言うところが本当にうまいですよね。高貴さと傲慢さと手練手管感が満載で。いろいろ妄想が膨らんでしまって、彩みちるちゃんでミーマイのサリーが見たくなって仕方なくなりました。

共感してくれる人が多くてうれしかった。


…同僚君が本当に彩みちる推しに成長していて、「何が良かったって、いろどりみちるがよかった」という名言を残しています。(同僚君、宝塚を知ってから丸一年が経過しました。今度レポートします)

夏月都ちゃんのばあやは本当に安心感があって、出てくるだけで雰囲気が柔らかくて本当によかった。彼女はキンキンしたおばちゃん役よりもこうした柔和なお役のほうが内面のたおやかさが出て本当に似合います。

るうさんもよかったですね~ あの役はるうさんにぴったりでした。やるせないうつうつとした感じ、とても上手です。絶唱も良かった。

悪いれんこんも、ゴルフ場にいるイケオジのれんこんもよかった。もうちょっと出番が多いとうれしいな… れんこんが出てくると場が締まります。プロだなって思います。

そして佳城葵ちゃんの新聞記者。見ました?あの酔っ払いの腰つき…めちゃくちゃうまい。上半身と下半身のバラバラ加減とか、酔ってるのにちゃんとしようとして体を支えようとして椅子に頼っちゃうところとか、本当に体の使い方がうまい!大千秋楽の配信でもあのシーンを見るのが楽しみです。

個人的に、最近お気に入りの白河りりちゃんがとてもよかったです。せりふも多くてうれしかった。お化粧もきれいで、彼女が出ているときは自然に目で追ってしまいます。力みすぎず、下品になりすぎず、ちょうどよい塩梅の娘役芝居ができる貴重な方です。お芝居のセンスが好きなんだろうな。そして影ソロの圧倒的な美しさ…彼女は性格がいい女の子の役も似合いますが、とんでもない狂気をはらんだ役も絶対に合いそうです。エリザベートのヴィンディッシュ嬢が絶対に似合うと思う。なんとかしてみてみたいなあ。

圧巻だった「神の眼」

独り言を垂れ流した記事になっちゃいましたが、最後に。

「神の眼」のシーンの絶唱は震えがくるくらい良かったです。ああいうシーンは月組の真骨頂だなっと思いますね。象徴的でした。いわゆるキラッキラでよろしく☆彡みたいなスターさんは少ない組かもしれませんが(表現)、重いのが似合う~宝塚でありながら宝塚じゃないみたいな、なんだかとにかく雰囲気が好きすぎる。

もう~いい人が多すぎる…朝霧真くんのオールバックとかさ、大楠てらくんのシルエットとかさ、本当にいい。一生懸命歌う蘭尚樹くんとかも、もうちょっと視界に入っただけでダメ。

悲哀とか逡巡とか、そういうのを大人数で出すときのパワーが月組はほんとすごいなって思います。涙がちびりそうになりました。また配信でもこのシーンを見るのが楽しみです。

最後の最後に、フィナーレの男役群舞、今回も千海華蘭ちゃんの目配りのやさしさ、慈愛みたいな朗らかさが10000点満点でした。踊ってるちなつさんの後頭部を見ながらのあの優しいまなざし~組全体を愛してます感がすごいんです。もし見たことがない人がいたら、絶対見てください



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