蚊に仮託した感情か
網戸の向こうに蚊がいる。
ぽいん、ぽいん、ぽいん、ぽいん、ぽいんってな感じで、網戸に何度も激突してる。私を吸いたいんでしょ。ハハッ。つかまえてごらんなさーい。勝ち誇った気分で蚊を見ている。網戸にぶつかり、跳ね返される。垂直トランポリンみたい。ぽいん、ぽいん、ぽいん、ぽいん、ぽいん。
面白くなったので蚊よけスプレーを取ってきた。で、網戸にシュッとしてみた。
うひゃっ!
蚊はビビり、ヒューーーン→と飛び去っていく。
効くう〜。
ヒューーーーン←
あれ、戻ってきちゃった。今度は網戸の、蚊よけスプレーがついてないらへんに頭をぶつけ始めた。ぽいん、ぽいん、ぽいん、ぽいん、ぽいん。
ふぅ。
蚊は休憩した。さすがに疲れたんだと思う。
私は同情した。あきらめずにアタックする、その合間の一休み。
蚊にどれくらい感情があるかわかんないけど、なんかすごい、「人生」って思った。ぽいん、ぽいん、ぽいん、ぽいん、ぽいん。ぶつかり続ける。それでも。それでも。
蚊は飛び立った。
網戸をあきらめ、飛び立った。
ぶつかったのは、ガラス戸だった。さらなる防御力。無理じゃん。と、思った瞬間……
「プー!」
目の前に飛び出した。ガラス戸と網戸の間をすり抜けたのだ。すごい。すごいね。あんた、すごいよ。
挑んでも網戸だった。
その次はガラス戸だった。
でもあきらめないで、そのはざまを突破したんだ……あんた、すごいよ!!
パンッ。
すごい蚊を叩き殺し、わたしは手を洗った。すごい蚊がすごい流されてった。透明な水道水に、一滴たりとも血が混じらないのを見ながら、ああ、最期に一滴くらい吸わせてやりゃ良かったかもなあ、と、思った。
右腕がかゆい。
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